連載③ 上松恵理子の新潟・ICT・教育「フードテックとICT教育」

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前回は「DX時代における銀行とICT教育(前編)」だったが今回は後半に行く前に少し海外の教育事情なども入れながら「フードテックとICT教育」についてお話したい(ICTのCはコミュニケーションのCである。)。

最近はなかなか新型コロナウイルスの影響もあって食関係のイベントができなくなってしまい残念である。新潟では「酒の陣」が全国的に有名だがやはりマスクを外してとなると大人数でのイベントでもあるので開催はハードルが高いかもしれない。美味しいお酒は新潟の食の代表でもあるので早い収束を願っている。

ところで、新潟の食関連では長岡農業高校が酒米栽培から仕込みまでやって、高校生が日本酒を作って販売しているというニュースも見たことがある。化成肥料を使わず、酒粕を使った肥料で生育させた稲で、という徹底ぶりだ。また、新潟県立吉川高等学校には全国的にも珍しい、醸造科を有していたということもあった。高校でそういった取り組みを行い、販売もするという事例は素晴らしいことと感じる。

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日本の学校は全国的に同じ教科書を使って同じ授業、同じレシピで調理実習をやっている点が海外とは違う。もちろん例外はあるかもしれないけれども、北海道から沖縄まで同じ調理実習を行うというのは海外からみると驚かれる事例である。もちろん、美味しい料理を作ることができることを否定することではないが、教科書のレシピにいろいろと創意工夫することも、今の時代は必要なことである。

もし、長岡農業高校の学生が全国の酒造りと同じことをしていても注目を浴びることはなかっただろう。新潟で誇れるものを使って何か販売しようというアイデアが功を奏した事例である。これからはただ安くて良いものを作りさえすれば売れるというものではなく、努力すればなんとかなるというものでもなく、ちょっと独自の取り組みをすることが商売に結びつくのだと思う。

ニュージーランドの学校ではフードテックという科目がある。日本では家庭科や技術家庭科という科目が50年前から変わらずあるが、海外では時代に合わせて科目をいろいろと変えている。例えば調理実習も200度のオーブンで15分と書いてあった場合、180度で25分焼いてみたり、砂糖の量を減らして蜂蜜にしたり、創意工夫して料理を作る。

新潟市街と田園、新潟市、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示 2.1 日本(httpscreativecommons.orglicensesby2.1jp)

フードテックは今、巨大市場だ。農業や漁業などの第一次産業だけでなく、食品の製造・流通、保存、調理、さらには配送など、幅広い分野にまたがっている。3Dプリンタのインクを御菓子の素材やチョコレートなどにして料理をするという動画を見たことがあるが、これもそのフードテックの一例だ。これからフードはテクノロジーとは切っても切れない時代になるのに小学校の授業内容がテクノロジーとは乖離した家庭科では先行きが心配だ。

10年前にIBMの方から「レストランに行くとAIの画像認識でお客さんの把握をして、メニューの提案をすることができる」という事例を紹介してもらった。トレーサビリティについて小学校で学ぶという事例はオーストラリアでもよく見た。フランスでは、その地域で取れた牧草しか牛は食べることができない、とか、そのエリアで採れたブドウしかワインを作ることができないという事例がある。それは高価になって商売にならないという人もいるかもしれないが、安くて美味しくても特殊性やストーリーがないと難しい時代である。

中川裕之さんが育てるマンゴー「白銀の太陽」のwebサイト

ところで、私の友人で中川裕之さんという方がマンゴー生産を手がけている事例をお話したい。新潟育ちの私はこれまで、マンゴーはあまり食べたことはなかったのだけれども、総務省の仕事で初めて宮古島に行った時に、完熟マンゴーがあまりに美味しくてびっくりした経験がある。中川さんの家は北海道。出張に行った時に中川さんのご自宅で奥様に手作りお料理を頂き、マンゴーの生産についての話を伺い感動した。

北海道でマンゴーとは普通は結びつかない。中川さんは北海道の土地の恵みをエネルギーとして無駄にしないでそれをやってのけたのである。それも時期をずらして冬に作る。季節をずらせば希少価値が出て高額でも売れる。海外の富裕層にも評判が広がって、1個5万円のマンゴーも中にはあるのにすぐに完売する。人と同じような「安くて美味しいものを作れば売れる」という常識を覆したその発想力には驚くばかりだ。そこには「人と違うことをして北海道でマンゴーを作ろう」という発想が功を奏している。

新潟はせっかく美味しい米や野菜が採れる土地、漁に行くことができる日本海がある。これらを全てAIで判別し漁船などをIoT化し画像認識で釣れた魚の種類を分別、その後、漁業組合で選別し、すぐに都内のお寿司屋さんに運ぶということも可能になる。AIで管理し、人件費を削減しながらも、高くて質の良いものにもシフトしていくことは一部では行われているけれどももっと広げていく必要もあるだろう。そのためには小中高生がテクノロジーをベースに第一次産業でさえもいろいろな最新の技術があることを学ぶ授業が求められる。

今回は、海外では教科にフードテックというものがあることをこの記事で紹介したが、次回は銀行とIT教育の後編として、海外の公立小学校の正規のカリキュラムにフィンテックの授業があるという話をしたい。時代に合わせて教科を変えていく事例が世の中に変化を起こしていくのはすぐにではないかもしれないけれども将来的には経済を支えていく世代が国の財産となると思われる。

【関連リンク】
中川裕之さんが育てるマンゴー「白銀の太陽」

上松恵理子 略歴
博士(教育学)
武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授
東京大学先端科学技術研究センター客員研究員
早稲田大学情報教育研究所研究員
明治大学兼任講師
東洋大学非常勤講師
国際大学グローバルコミュニケーションセンター客員研究員
教育における情報通信(ICT)の利活用促進をめざす議員連盟」有識者アドバイザー
総務省プログラミング教育推進事業会議委員(H28.29)
文部科学省委託授業欧州調査主査(H29)

大学では情報リテラシー、モバイルコミュニケーション、コンピュータリテラシーの授業を担当。また最新のテクノロジーを使った最先端の教育についても調査研究しています。
国内外での招待講演多数。著書に「小学校にオンライン教育がやってきた!」など。
新潟大学大学院情報文化研究科修了、新潟大学大学院後期博士課程修了

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