社説[問題続出ワクチン接種] 信頼性欠く政府の対応

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 新型コロナウイルスワクチンの高齢者への接種を巡って、全国の自治体でトラブルが続出している。

 ワクチン接種の予約受け付けが始まると、多くの自治体に電話が殺到。回線がパンクし、何度、電話してもかからない状態が続いた。

 接種日が決まらない高齢者のいら立ちは、今も続いている。接種が始まってからも、各地で混乱が続いた。

 神戸市では、960回分のワクチンが接種会場で常温のまま最長3時間放置され、廃棄処分に。愛知県豊橋市では高齢者施設に入所する80代の女性に、誤って1日に2回、接種した。

 豊見城市では、ワクチンを保管する冷蔵庫の扉を閉め忘れ、150回分を廃棄した。浦添市では、ワクチンの入っていない生理食塩水を誤って5人に注射した。

 予約を巡って混乱し、接種の際にもトラブルが相次いだのはなぜか。

 全国知事会が指摘するのは「ワクチンを注射する医療従事者の不足」「接種会場の不足・未確保」「通常診療への支障」などの点だ。

 英オックスフォード大などの調査では、日本のワクチン接種は、接種体制の整備の遅れから、発展途上国レベルの世界110位前後にとどまっている。

 ワクチン開発を怠り、国外からの確保も遅れた。その間に実施すべき接種体制の整備は進まず、予約システムも混乱回避につながらなかった。 それらが重なって、「ワクチン敗戦」と呼ばれる現在の事態を招いているのである。■    ■

 「ワクチン接種は一人一人の命を守る切り札」だと菅義偉首相は強調する。その認識は専門家を含め多くの国民に共有されている。だからこそ接種予約に高齢者が殺到し、現場が混乱したのだ。

 菅首相は、7月末までに高齢者への接種を終えるため「1日100万回接種」という目標を示し、総務省や厚生労働省に対応を指示した。

 政府の発表によると、86%の市区町村が7月末に完了できる、としている。

 この数字は、総務省の役人らが自らの立場をちらつかせ、自治体になりふり構わず電話攻勢をかけ、接種完了の前倒しを求めた結果である。

 政権の意向を忖度(そんたく)して「無理は承知で7月完了可と応じた」と告白する市関係者もおり、与党からも「9割は無理筋」(幹部)との声が上がる。

 現場の実情を無視した数字をあえて公表したのは焦りの表れ、というほかない。

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 共同通信などメディア各社の世論調査にはいくつかの共通点がある。

 菅内閣の支持率が急落し、不支持率が支持率を大きく上回っていること。

 政府のコロナ対策に対する評価が極めて低く、多くの国民が不満を抱いていること。

 五輪開催にも中止や延期といった疑問の声が半数を超えていることなどである。

 「安全・安心の大会を実現することは可能」だと菅首相は強調するが、その根拠を何も示していない。変異株の感染力を侮ってはならない。