【オークス】主役は白から〝紅〟へ! アカイトリノムスメ桜からの6週間で起きた劇的変化

洗い場での水分補給中もカメラ目線は忘れない!?アカイトリノムスメ

父ディープインパクトが牡馬3冠を始め、トータルGⅠ7勝なら、母アパパネは牝馬3冠を含めGⅠ5勝。まさにクラシックタイトル奪取を宿命づけられた娘が、第82回オークス(23日=東京芝2400メートル)を前にして覚醒しようとしている。“赤い鳥のDNA”がついに本格発動したとなれば…。紅(くれない)に染まった「国枝番」山村隆司記者の熱血リポートを否定できる奴はもういない――。

アカイトリノムスメが国枝厩舎に入厩してきた昨春、母アパパネも担当した福田助手が孫をめでるような口調で発した言葉がある。

「顔、特に目元は本当にお母さんそっくり。“ムスメ”と名づける気持ちも分かりますよね」

その言葉通り、聡明さを示すつぶらな瞳は、2010年の3歳牝馬3冠制覇を成し遂げた母と酷似していた。

アパパネとはハワイに生息する「赤い鳥」であり、アカイトリノムスメはその母の第4子にして、初めて生まれた牝馬。馬名が示す通り、関係者には待望の「娘」の誕生だったことだろう。

ただ、その顔立ちを除けば、当時の振る舞いや全体のシルエットは、心身ともにタフだった母と似るどころか、むしろ相反した。

「母はどんな時もドッシリしていたけど、この子はスイッチが入るのが早くて、カイバ食いも安定しない。体の緩さはともかく、もう少し気持ちに余裕が出てこないと…」と担当者がヤキモキする日々が続いたのも事実である。

しかし、実際にデビューするや、母の並々ならぬ遺伝力を陣営は目の当たりにする。夏の新馬戦こそ敗れたものの、秋の東京で未勝利勝ち(ともに勝ち時計は1分35秒9)、続く赤松賞を連勝(同1分34秒5)の戦歴はアパパネとまさにうり二つ。2戦のⅤ時計も母のそれと寸分たがわぬ数字なのだから、まさに“奇跡の系譜”である。ゆえに番頭格の鈴木助手も桜花賞前は「他の馬にはない、何かを秘めていそう」と大いに期待を寄せていたのだが…。

第1冠の結果は4着。それでも第2冠のオークスが間近に迫った今、その「何か」が目覚め始めた。それは“赤い鳥のDNA”だ。昔見たマジックを懐かしむように、管理する国枝調教師が目を細める。

「アパパネは桜花賞時のコロッとした体形が、オークス間際に急にスラッとしたステイヤー体形に変わっていった。馬は走る距離を知らないはずなのに不思議だよね。今のアカイトリノムスメを見ていると、形は違えど同じ血が流れているのかなって感じてしまう」

どういう意味か。それは馬体の変化にある。父ディープインパクト譲りの痩身なボディーは、オークスを前に一転して母アパパネ寄りに変化。言い換えれば、かれんな少女から大人のアスリートへ。母同様、わずか6週間で目を見張る変貌を遂げたのである。

「桜花賞から帰厩した当時は430キロしかなかった馬体が、今は450キロを優に上回る。カイバを食べるようになったことで見た目に張りが増し、明らかにボリュームが出ましたね。お母さんはオークスを前に10キロ減ったけど、娘は逆にグンと実が入ってきました」(福田助手)

1週前追い切りで初コンタクトを取った名手ルメールは、手綱から伝わる感触をこう口にした。

「桜花賞は4着でも(0秒2差と)大きな差はなかった。血統は素晴らしいし、スタミナ的には絶対に2400メートルもいけると思う。乗りやすいし、楽しみです」

目指すはオークス母子制覇。“赤いDNA”が躍動しだした今なら、無敗の桜花賞馬ソダシさえ恐るるに足るまい。純白に輝いたクラシックの第1幕を、第2幕では深紅に染め上げる――。

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