シリア内戦10年「夢見た革命、今も信じる」

反体制派地区のキャンプを歩く

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シリア北部アザーズのキャンプ(共同)

 シリアで泥沼化した内戦は、端緒となった2011年3月の民主化要求デモから10年がたった。デモを武力弾圧したアサド政権と反体制派が衝突、イスラム過激派の台頭を招き、全土で複雑な構図の戦闘が続いた。現在はロシアとイランの支援を受けたアサド政権が国土の大半を掌握し、反体制派は窮地に追い詰められている。隣国トルコの支援で反体制派が生き残る北部アザーズを訪ねると、戦渦を逃れた多くの住民が暮らしていた。長期化する避難生活に苦しむ一方、少しずつインフラ整備が進む。キャンプで暮らす戦闘員は夢見た革命を今なお強く信じていた。(共同通信=橋本新治)

 ▽「抵抗」という名のキャンプ

 3月18日、トルコ政府の案内で、トルコ南部キリスからシリア北部アザーズに入った。検問所を抜けると、それまでの整備された町並みが様変わりした。粗末なテントや小屋が広がり、土ぼこりに包まれていた。

 10年前、シリア北部の最大都市アレッポ近郊で野菜農家だったムハンマド・フセイン・ムハンマドさん(35)はアザーズ最大のキャンプで暮らしていた。アサド政権の弾圧を目の当たりにし、反体制派勢力に加わった。現在も武装組織「国民軍」に所属する。「私たちは抵抗を続ける。今はトルコとロシアの合意で停戦中だ。停戦が終われば、3日でシリア全土を制圧する。諦めない。勝利か、そうでなければ殉教だ」と強気だった。

ムハンマド・フセイン・ムハンマドさん(右端)と家族(共同)

 このキャンプは「抵抗」と名付けられていた。トルコ政府機関によると、4050世帯、1万9200人が生活する。粗末なテントやコンテナハウス、コンクリート製の簡易住居が混在。ムハンマドさんは狭い部屋に、妻と1~13歳の10人の子どもと暮らしていた。日々の生活に話を向けると、急に表情が暗くなった。「キャンプの生活はとても厳しい。あなたの想像通りだ。生きるだけで精いっぱいだ」とため息交じりだった。

 ▽トルコの支援

 アザーズはもともと小さな国境の町だった。混乱する内戦の過程で一時、過激派組織「イスラム国」(IS)に支配された。2016年8月、トルコはIS掃討を名目に周辺に軍事侵攻した。「ユーフラテスの盾」作戦と名付けられ、トルコによるシリア内戦下、初の本格的な地上作戦だった。作戦は17年3月まで続き、そのまま実効支配が始まった。シリア各地から避難民が集まり、人口は約37万人に膨らんだ。多くが厳しい生活を強いられている。正規のキャンプが13カ所、非正規のキャンプが28カ所に上る。

 トルコは復興支援を本格化し、空爆で破壊された総合病院を短期間で再建した。案内された病院には新型コロナウイルスに備えた病室や設備もあった。学校、イスラム教のモスク(礼拝所)、サッカー場も整備し、キャンプでは簡易住宅の建設も進む。中心部のスーク(市場)はにぎわい、貴金属店のフセイン・ケンノさん(50)は「トルコの作戦のおかげで安定し、同じ場所で仕事が再開できた。もっと安定してほしい。私たちにはトルコの支援がとても大切だ」と喜んでいた。

アザーズのスーク(共同)

 ▽トルコは占領者か?

 トルコは「ユーフラテスの盾」作戦以降も軍事作戦を繰り返し、アザーズや近郊に実効支配地域を広げた。シリア領内の国境沿いに「安全地帯」をつくり、トルコに住むシリア難民を帰還させる構想も掲げる。ただ、一連の作戦は必ずしも国際社会の支持を得ていない。トルコを「占領者」と非難するのはアサド政権だけではない。欧州議会も内戦10年に合わせて採択した決議で「トルコは2016年以来、シリア北部を占領するために直接介入した」と指摘、国連の要請に基づかない「違法な占領だ」としてトルコ軍撤退を求めた。

 トルコはシリア北部を「占領」しているのか。アザーズの地元評議会の代表ムハンマド・ハムダーンさんは猛反発する。「トルコは私たちを助けてくれた。破壊されたアザーズに全てをもたらしてくれた。パンが食べられるようになり、病院が建て直され、学校に通えるようになった。これを占領というなら、私たちはこの占領を歓迎する。アサド政権を支えるロシアとイランこそ占領者だ」と気色ばんだ。

 ▽内戦の出口

 シリア内戦の軍事的な勝敗は既に決したように見えるが、住民たちは今も「勝利」を信じる。スークで香辛料店を営むムハンマド・シャフードさん(44)は「国際社会はアサドとアサドの周辺者を追い出してほしい。そうすれば私たちの生活は元に戻る」と語った。住民たちが本気で勝利を信じているのかどうか疑問を感じたが、アザーズ出身の反体制派ジャーナリスト、アンワル・ムハンマドさんは「私たちはもはや引き返せない。これまでに犠牲になった仲間の死が無駄になるからだ」と住民の心情を説明した。

車内から見たアザーズ市街地(共同)

 ただ現地取材を続けるトルコ人ジャーナリストは「反体制派にできることはもうない。トルコが実効支配を続け、ここは(トルコだけが国家承認する)北キプロスのようになるだろう」と冷ややかだった。東地中海の島国キプロスは1974年にギリシャ軍事政権の介入でクーデターが起き、トルコ軍が島の北側を占領して以来、半世紀近く分断が続く。シリアもそうなるのかと想像すると、内戦の出口は輪郭さえ見えなくなった。