巨人坂本ら続発する“ヘッスラ負傷” 走塁の名手・高橋慶彦氏が指摘する原因は?

巨人・坂本勇人【写真:荒川祐史】

巨人の坂本勇人は5月9日に右手親指の末節骨を骨折した

今季はヘッドスライディングの際に負傷し、戦線離脱する選手が目立っている。巨人・坂本勇人内野手は5月9日のヤクルト戦で、一塁走者として捕手からの牽制球に頭から帰塁し、右手親指の末節骨を骨折し、出場選手登録を抹消された。

坂本だけではない。西武では山野辺翔内野手が4月6日の楽天戦で一塁へヘッドスライディングした際に左親指を痛めて手術に追い込まれ、全治3か月の診断を受けた。DeNAの倉本寿彦内野手も5月9日の阪神戦で、二ゴロを打って一塁へ頭から滑り込み、左手薬指の第2関節脱臼と中節骨骨折を負って登録を抹消。ソフトバンクのジュリスベル・グラシアル内野手も5月8日の西武戦で二塁に帰塁した際に右手の中指と薬指を負傷した。

頻発するヘッドスライディング時の負傷。この原因について、かつて広島のスター選手として活躍し盗塁王のタイトルを3度獲得、歴代5位の通算477盗塁を誇る高橋慶彦氏は「実践不足にある」と分析し、警鐘を鳴らした。

「ヘッドスライディングをする数が少ないのだと思う。昔に比べると試合で見ることが減ったし、キャンプで練習しているところをあまり見ない。だからベースとの距離感をつかみにくいのではないか」と高橋氏は見る。近年は野球界でも怪我に繋がりやすいヘッドスライディングを敬遠する向きもある。ただ、どうしても頭から突っ込まないといけない状況もある。この、いざ必要に迫られた時に、普段やりなれていないからこそ、ベースに指を突いて大ケガにつながるというのだ。

高橋慶彦氏が現役時代にヘッドスライディングの練習を数多くこなした

高橋氏が活躍した1975年代後半から80年代中盤にかけての黄金時代の広島では、ヘッドスライディングで帰塁する練習を数多くこなしていたという。だからこそ「要は地面と友達になっておかないといけない。そうしておけば、小さいケガはしても、試合に出られないケガはしない。最近はスライディングに限らず、練習中に泥だらけになって飛び込む動作を繰り返すことが減っていると思う。大ケガが起こる原因の全てではないだろうが、一因ではあると俺は思う」と指摘する。

豊富な練習量は、反射神経を磨き、危機回避能力を高めることにつながる。高橋氏は「訓練を積むに従って、同じ1秒という時間を長く感じられるようになった。ヘッドスライディングをしながら、伸ばした右手にタッチされそうになり、咄嗟に引っ込めて左手でベースに触れるようなこともできるようになった」と現役時代のことを振り返る。

また、球場によるベースの違いがケガにつながる可能性もあるという。ベースの大きさ自体は野球規則で38.1センチ四方と決まっているものの、「角張っているものと丸みがあるもの、あるいは固さが違う場合もある」という。普段戦い慣れていない地方球場での試合前には「必ずベースの特徴を確認した」と言う。

広島などで活躍した高橋慶彦氏【写真:編集部】

一塁には駆け抜けた方が速い? 高橋氏は「絶対にヘッドの方が速い」

一塁へのヘッドスライディングについては「駆け抜けた方が速い」という説もあるが、高橋氏は自身の経験から「絶対にヘッドの方が速い」と断言する。ただし、それもスライディングのやり方次第で「怖がると、走っている最中に体が立ち、飛び込んだ時も体が浮いて時間を取られる。スピードを落とさずに飛び込めば、間違いなく駆け抜けるより速い」と説明する。盗塁を企図して二塁へと滑り込む際はなおさらで、「アウトかセーフかはコンマ何秒の勝負。野手のタッチが上から来るとすれば、スパイクの底の幅の分だけでも、ヘッドスライディングの方が時間を稼げる」と考える。

高橋氏自身、現役時代の二盗の際は頭から滑り込むことが多かった。1995、96年にダイエー(現ソフトバンク)の打撃兼走塁コーチを務めた時には、村松有人外野手(現ソフトバンク外野守備走塁コーチ)にヘッドスライディングを伝授し、96年の盗塁王獲得(58盗塁)へ導いた。

「『ケガの危険性が高い』と反対する人もいたが、村松には『砂浜で旗を取り合う“ビーチフラッグス”では、みんな頭から行くだろ? その方が絶対に速いからだと思わないか?』と問いかけた。その結果、ヘッドスライディングは村松の代名詞になり、ケガはしなかった」と振り返る。たかがヘッドスライディング、されどヘッドスライディング。練習次第では武器にもなり、反対に大ケガにも繋がりかねない。現役の選手たちにも、レベルの高い技術を数多く見せてほしい。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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