1年前と今

 通気のいい、肌着の生地でマスクを生産します-と衣料大手が発表したのは、昨年の今頃だった。マスク不足はほぼ収まっていたが、その頃、さまざまな業界で“夏マスク”生産の動きがあった▲息苦しくないマスクは助かるな、と思ったり、夏もマスクで過ごすのか、と思ったり。1年前の紙面をたどれば当時がよみがえるのだが、では、そらで思い出せるかと言えば、そうではない▲ほぼ1年でウイルス拡大の「波」が四つも押し寄せ、1年前の世の中がどうであったか、さっと頭に浮かばない。紙面でさかのぼると、昨年の今頃は、本県を含む39県で国の緊急事態宣言が解かれたばかりで、ほっとひと息ついていた▲学校は再開され、町には少しずつ人が戻り、自営業者は「長いトンネルの出口が見えてきた」と話している。用心を重ねながら、閉めきったドアをそろそろと開ける。1年前はそういう時期だったろう▲一度は出口も見えた。それなのに、今なお気が抜けない日々が続く。2度目の「マスクの夏」も避けられそうにない▲昨年の今時分は、県高総体の初の中止が決まった頃でもある。今年は総合開会式こそ見送るが、高校生1万人が参加して行われる。この1年の数少ない“好転”だからか、「来月5日開幕」という紙面の見出しがやけに躍って見える。(徹)

 


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