至るところに白色の花崗岩(かこうがん)が見え、その名にふさわしい景観が特徴の白石島。
約500メートルにわたって砂浜が続く白石島海水浴場は、夏に多くの観光客でにぎわうレジャースポットです。
標高約150メートルの尾根沿いにはトレッキングコースが続き、瀬戸内海の絶景を眺めながら山歩きが楽しめます。
国指定重要無形民俗文化財の盆踊り「白石踊(しらいしおどり)」や、特産品の桑(マルベリー)も有名。
海・山の自然を満喫できる白石島の概要と見どころを紹介します。
笠岡諸島とは
笠岡諸島は、岡山県の南西端の笠岡市沖にある、大小31の島々です。そのうち有人島は、以下の7島。
- 高島(たかしま)
- 白石島(しらいしじま)
- 北木島(きたぎしま)
- 真鍋島(まなべしま)
- 大飛島(おおびしま)
- 小飛島(こびしま)
- 六島(むしま)
大飛島・小飛島をあわせて飛島(ひしま)と呼ばれている
島々への橋はなく、笠岡市の港から船で行き来します。
のどかで落ち着いた雰囲気の島々です。
香川県の丸亀市・小豆島町・土庄町の島々とともに、「知ってる!? 悠久の時が流れる石の島 ~海を越え、日本の礎を築いた せとうち備讃諸島~」として日本遺産にも認定されています。
白石島とは
白石島は笠岡諸島のなかでは、北木島に次ぎ2番目に大きい島です。
また、高島に続き2番目に笠岡市本土から近い島でもあります。
白石島海水浴場、トレッキングコース入り口、開龍寺、島の商店などの見どころは、白石島港から徒歩15分圏内に点在しているので、徒歩での移動がおすすめです。
白石島へのアクセス
笠岡市街地にある住吉港か伏越港から白石島港への船が出ています。
到着までは約35分(高速船だと約25分)。道中、しっかり島旅を満喫できますよ。
行きは旅客船、帰りにフェリーを利用する場合は、往復チケットを購入しないよう気をつけましょう。
出港時間を事前に確認することをおすすめします。
白石踊
白石島といえば、国指定重要無形民俗文化財の盆踊り「白石踊(しらいしおどり)」が有名です。
真庭市蒜山に伝わる大宮踊、高梁市に伝わる備中松山踊りと並んで、岡山県下三大踊りに数えられています。
平安時代末期、瀬戸内海で起こった源平水島の合戦で流れついた戦死者たちを、島民が弔ったのが起源といわれる、伝統ある踊りです。
ひとつの音頭に合わせていくつもの踊りの型があるのが特徴で、男踊り、笠踊り、女踊り、扇踊りなど13種類もの異なる振付けが伝わる、全国的にも珍しい踊りとなっています。
2020年は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため中止となりましたが、今でもお盆行事として、毎年8月13日から16日に公民館広場や白石島海水浴場で白石踊を踊る風習は続いています。
13日から15日は公民館広場で深夜まで踊り続けられるそう。
2022年8月、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため中止
16日は例年、海水浴場で灯篭流しのあと、観光客も混ざって踊ることができます。
2022年8月、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため中止
代々伝承されてきた白石踊ですが、継承者不足に直面しています。
島の過疎高齢化は進み、白石小学校は休校中で、白石中学校は在校生1名が卒業する2022年度以降、休校が決まっています。
後継者育成のために白石踊会笠岡支部が2017年に発足しました。
白石島に行かなくても白石踊が習えるよう、月に2回、笠岡市本土で無料の講習会を開催しています。
2022年7月までは予定通り、出前講座として開催。
2022年8月は休講。9月は開催未定です。
発足当初は若者の姿はなかったそうですが、2020年夏に訪れた白石踊講習会には、高校の探究学習の授業をきっかけに笠岡市内外から通い始めた高校生・大学生の姿も。
白石踊の輪が若者にも広がりつつあります。
桑・マルベリー
白石島には昔から桑の木がたくさん自生しています。
島内を歩くと、桑の畑に遭遇しました。耕作放棄地の解消を目的に、桑の栽培をしている畑です。
桑の葉っぱは茶葉に、濃い紫色をした実は「桑の実」または「マルベリー」と呼ばれ、ジャムなどに加工されます。
桑の実はベリーらしいさわやかな酸味が特徴で、ビタミンやカリウムなど栄養が豊富。
桑の実の収穫は毎年5月中旬から6月頃に行なわれます。
桑の木の葉っぱは、蚕(かいこ)のえさにもなることでも有名です。
かつては白石島でも養蚕(ようさん)や綿の栽培も盛んで、各家庭で糸をつむぎ、染め、機織りで衣類を作っていたのだとか。
今では使わなくなったものの、糸車が残っている家庭も多いのだそう。
代表的なスポット・白石島でできること
白石島の代表的なスポットを紹介します。
白石島海水浴場
白石島港から海沿いの道を右に進んでいくと、歩いて7分ほどで白石島海水浴場に到着します。
途中には「白石島 霧の汀の 海月かな」と読める石碑があります。
「汀(なぎさ)」とは波打ち際のこと。おだやかな波打ち際にくらげがいるようすを詠んでいる、夏の終わりの歌のようです。
白石島海水浴場入り口に「弁天島」が見えてきました。小さな島に、弁財天が祀られています。
弁財天は財産の神様ですが、海や川など、水に関係する場所にもよく祀られている神様です。
白石島の海の平安を見守ってきたのでしょう。
大潮の干潮には歩いて渡ることができるのだとか。白石島のモンサンミッシェルと呼ばれているそうです。
約500メートルにわたって続く、白い砂浜。海は青く澄んでいます。
遠く対岸には福山の街並みが。
海水浴場にはトイレやシャワーがあります。民宿や海の家が並び、夏は多くの家族連れでにぎわうのです。
シーカヤックやウインドサーフィンなどのアクティビティを楽しむこともできます。
トレッキング
トレッキングとは、山の景色を楽しみながら歩くこと。
山頂を目指し、登ること自体が目的の「登山」に対し、トレッキングは山頂を目指すことにこだわらず、山歩きを楽しみます。
白石島の中央部は標高約150メートルの尾根が続き、眺めがよくトレッキングにぴったり。
360度ぐるりと瀬戸内海の絶景を堪能できます。
空気が澄んだ日には、鳥取の大山(だいせん)や四国の石鎚山(いしづちさん)まで見える眺望の良さ。
また、トレッキングコースにはおよそ30人もの人が登れる巨石や、碁盤の目のような割れ目がある珍しい山肌があり、自然が生み出す造形美に驚かされます。
白石島でトレッキングを行なう場合の注意点は、以下のとおりです。
- 滑りづらい靴、動きやすい服装で行く
- 日影が少ない道が多いので、帽子や日焼け止めなど日差し対策を
- 飲み物を持って行く
- 山にトイレがないのでトイレは済ませておく
開龍寺
白石島港から徒歩で約15分。集落の路地を抜けた山すそに現れるのが、真言宗の開龍寺(かいりゅうじ)です。
もともと平安時代の終わり、1183年の源平水島合戦による戦死者の霊を慰めるために「弘法山慈眼寺」として創建されたといわれています。
江戸時代初期には白石島が備後福山藩水野家の領地となり、その祈願寺として栄えました。
境内の奥には弘法大師(空海)の像が。
弘法大師(空海)は806年に唐から帰る際に白石島に立ち寄り、37日間の修行をしたと伝えられているのです。
大師堂には、そのときに島に残していった像が祀られています。雄大な自然と信仰が重なり、大きな石の間にあるお堂は圧巻です。
大師堂は神島八十八ヵ所霊場の奥の院となっています。
開龍寺の境内にある、白く突き出た塔は仏舎利塔(ぶっしゃりとう)です。1970年に建立されました。
パゴタというタイ式の塔で、タイのバンコクにあるワットパクナム寺院から奉納された仏舎利(お釈迦様の骨)と釈迦如来像が祀られています。
国際交流ヴィラ
島にある複数の宿泊施設のなかから国際交流ヴィラを紹介します。
白石島港から徒歩で約6分の高台にあり、おもに外国人の観光客に日本の離島の暮らしを体感してもらうために設立された施設です。
2018年4月までは外国人専用となっていましたが、現在は外国人観光客だけでなく、日本人も利用できる宿泊施設となりました。
共有のキッチンや浴室などを備えており、自炊ができます。共有スペースでのほかの宿泊者との交流も楽しみのひとつ。
広々としたデッキからは美しい瀬戸内海が見えます。
トレッキングコースの入り口はすぐそこ。また、3分ほどで海に下りることができ、白石島の自然を体感できる絶好の立地です。
使われている家具は、岡山県の里庄町に本社を置く株式会社アカセ木工の人気ブランド「マスターウォール」。同社から寄贈されています。
マスターウォールは世界三大銘木のひとつ、ウォールナットの無垢材を使い、「100年後のアンティーク家具へ」をコンセプトにしたブランド。
シンプルなデザインは、まさに100年後も通用しうる普遍的な美しさ。白石島の自然にも溶けこんでいるように見えました。
▼宿泊料は、以下のとおりです。
- 一室1名/一泊4,500円(税込)
- 一室2名/一泊8,000円(税込)
- 0~2歳:大人のかたと添い寝の場合/無料
- 3~7歳:大人のかたと添い寝の場合/一泊1,000円(税込)
- 8歳以上:大人料金
実際に白石島を歩いてみました
2021年4月20日、白石島を訪れました。
笠岡市街地にある住吉港を出発する普通船に乗り、約35分後、白石港に到着。
ちょうどゴールデンウィーク前で、たくさんのこいのぼりが出迎えてくれました。
こいのぼりと一緒に大漁旗もなびいて壮観。
「五月人形を飾っています。ご覧下さい」という看板が掲げられた家が。窓越しに立派な五月人形を見ることができました。
歓迎ムードを感じ、うれしくなります。
この日は白石島港の近くで「白石島待合所」のオープニングセレモニーがありました。
また、笠岡警察署白石島駐在所の改装セレモニーも。
島民のかたが立ち寄り、賑やかでした。
白石島公民館前にある消防機庫は壁画で彩られています。
1973年ポーランド生まれのアーティスト、ラデック・プレディギェルさんの作品で、「パラダイスの島」というタイトルです。
2017年8月、アーティスト滞在・交流事業として開催された「笠岡諸島アートブリッジ2017」で製作された作品のひとつです。
笠岡諸島アートブリッジでは白石島、高島、六島にアーティストが短期間滞在し、島の暮らしや日常を素材に、島民と協働し作品づくりを行なった。
のどかな風景に調和するカラフルな壁画は、観光客をあたたかく自然体で迎えてくれる白石島の人たちのように感じました。
海沿いの道から路地に入ると、昔ながらの建物が残っています。
かつて郵便局だった建物。レトロで趣があります。
向かい側には新しい郵便局ができていました。
かつては白石島に映画館があったそう。
「映」という文字が掲げられた建物がかつての映画館です。探してみてくださいね。
島で一番大きな商店「フードショップあまのストア」に立ち寄りました。
野菜や食品、調味料のほかに文房具や薬など、日常に必要なものがひととおり手に入る品揃えです。
白石島のまち並みは整備されていて、とてもきれいな印象。島ののどかさといい、歩いていて心地が良かったです。
途中で立ち寄った、耕作放棄地に桑を栽培している茶畑の後ろには、休校中の白石島小学校と、2022年度から休校となる白石島中学校が見えました。
フェリーで行き来する本土とくらべると、便利とはいえない生活環境かもしれません。
それでも自然との共存に大きな魅力を感じ、白石島での暮らしを選ぶひとが少しずつ増えています。
白石島で暮らしたいと家族で移住して2021年で3年が経つ、ムヤ 歩(あゆみ)さんにお話を聞きました。
島の人に話を聞きました
白石島で暮らしたいと家族で移住して2021年で3年が経つ、ムヤ 歩(あゆみ)さんにお話を聞きました。
ムヤさんは2020年7月、白石島港から歩いて約2分の路地にある古民家を改装し、「菜食茶店 KUa(クア)」をプレオープンしました。
──白石島で暮らすことになった経緯を教えてください
ムヤ(敬称略)──
2017年4月、就農を目指して笠岡市地域おこし協力隊に着任し、大阪から引っ越してきました。
「自分たちで安心・安全な暮らしを作っていくには?」ということに関心があり、農家だったら食を通してそんな暮らしが実現できると思ったんです。
約1年、笠岡市街地で暮らしていたのですが、2018年に白石島へ住まいを移しました。
タンザニア出身の夫と2歳・5歳の娘たちと、畑を耕しながら暮らしています。
タンザニアの沿岸部で魚やココナッツをとって暮らしていたことがある夫も、自然のそばでの暮らしを楽しんでいますよ。
──「菜食茶店 KUa(クア)」について教えてください
ムヤ──
「菜食茶店」の名のとおり、ヴィーガン食をあつかうカフェです。
ヴィーガンとは、肉・魚・卵・乳製品や本革を使った家具など、動物性製品を生活に取り入れないスタイルのこと。
白石島で採れた桑の実ジュースや、有機玄米コーヒー、日替わりヴィーガンランチなどを提供しています。
メニューには無肥料、無農薬の自家栽培の野菜を使うこともあります。
私は2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、安心・安全な暮らしについて考えるようになりました。
「できるだけ資源を使わない必要最小限の暮らしを体験したい」と、アフリカのタンザニアとルワンダへ旅した経験もあります。その時に夫と出会ったんですよ。
食については、ヴィーガンに関心を持つようになりました。
店名の「KUa(クア)」はスワヒリ語で「育つ・育てる」という意味。地域のみんなで育てる店という願いを込めています。
白石島で採れる「桑」に発音も似ていますよね。
──白石島で暮らしてみていかがですか
ムヤ──
白石島には、嫁いで来られたかたや、働き盛りのころ島を離れてまた戻ってきたかた、移住者など、外からやって来た経験を持つかたが多いんです。
そのためか、縁もゆかりもなく家族で移住してきた私たちが感じる不便さを理解してくれるかたが多く、ありがたかったです。
たくさん荷物を持っていると手伝ってくださったり、「大変なことがあったら声かけてね」、「私も共働きだったからわかるわ」と声かけてくださったり。
子供をかわいがってくださるのもうれしいですね。
国際交流ヴィラがあり、外国人観光客が多いことも関係しているのでしょうか、おもてなしの心がある島だと常日頃から感じているのですが、同時に、助け合いの文化があるとも感じます。とても助けられています。
──農業は順調ですか
やりたかった無肥料・無農薬の自然栽培では、固定種・在来種のタネの採種から挑戦しています。
F1種と呼ばれる一代限りの種ではなく、何世代も繰り返して命を繋いでいける、土地・風土に合ったタネです。
私が持続可能な自然栽培にこだわるのは、たとえば物流がとまったとき、肥料がない、種がないと、畑をやめざるをえなくなってしまうから。
外からの要因で食べ物がなくなったり、体を動かすきっかけを奪われるのは悲しいですよね。
地産地消を無肥料、無農薬でできれば、外からの要因に影響なく農業を続けられる可能性が高いです。
そして、土地にも優しく、長期的に見るとお財布にも優しい。
自然があふれる白石島で暮らすなかで、資源は限られているということをさらに実感するようになったんです。
以前は自分たちの体に安心・安全かという観点でしたが、それに加えて、野菜を作ってくれている土、空気、地球環境にも優しいサイクルを作っていきたいと思うようになりました。
──観光で来た人へ、白石島でのおすすめの過ごし方を教えてください
ムヤ──
夏はもちろん海水浴。ただ、夏以外にも来てほしいので、やっぱりトレッキングでしょうか。
登れる大きな石があるのがおすすめポイントですね。
白石島は以前、大きな山火事があってまだ背が低い若い木が多く、景色が楽しめるのも特徴です。
若い外国人観光客のかたで、「朝から山を走ってきたよ」というかたも多いんですよ。
あとは、車がほとんど走っていないので、とても静か。
日常から離れ、自分と向き合い、心とからだをリラックスさせるのにもぴったりだと思います。
読書や執筆をするために滞在するかたもいます。
自然のエネルギーを感じることができるので、ヨガやデトックス、ファスティングで来られるかたも。
島の散策がリフレッシュになると好評です。
おわりに
自然を肌で感じられる、白石島。海水浴を楽しむもよし、トレッキングを楽しむもよし。
ムヤさんの話を聞いて、白石島に身を置くこと自体が旅の楽しみになるのだと感じました。
広がる多島美を眺め、暮らすように旅すると、いろいろな気づきがあるかもしれません。
私にとって4回目の白石島訪問でした。毎回、新たな魅力を見せてくれる白石島。
いつもは日帰りなので、今度は泊まってのんびりしてみたいです。