「あくまで駆除」埋葬まで淡々と 猟友会「止め刺し」担当の仕事【ルポ・中】

捕獲したシカを運ぶ猟友会メンバーら=佐世保市内

 「シカがかかったけど来るね」。4月6日朝、江迎猟友会鹿町支部の山本征男さん(76)から電話がかかった。捕獲の現場はどんな様子なのか知りたい。解体の現場を見た後、山本さんに依頼していた。「行きます」。即座に答えた。
 集合場所は長崎県佐世保市内の山のふもと。到着すると、山本さんをはじめ地元住民ら数人が待っていた。同支部の迎三四生さん(62)の手には猟銃があった。捕獲された有害鳥獣にとどめを刺す「止め刺し」担当だ。
 山本さんの本業は農業。有害鳥獣に農作物を荒らされた経験から10年前に兼業猟師になった。市によると、2019年度のシカ捕獲数は189頭。15年度(51頭)と比べると3.7倍に増えている。こうした状況を反映してか、農作物の被害を受けた農家からの捕獲要請が「後を絶たない」と山本さんは困惑の表情を浮かべる。
 市内で自然保護活動などをする「ふるさと自然の会」は、鹿町町や小佐々町で増えたシカが、ここ数年で市内各地に広がっていると指摘。川内野善治会長は「シカは下草や木の新芽などを食べてしまうため山を駄目にする。そのため土砂崩れなどの災害が起きやすくなる危険が高い。早急に何らかの対応が必要」と警鐘を鳴らす。

 「ダニにかまれると大変だから」。山本さんは記者に帽子や長靴などの着用を求めた。準備が整うと山へ出発。木々の間を抜けながら歩いた。
 すると、すぐに斜面に仕掛けられたわなに右前足がかかった体長約120センチの雄ジカが現れた。わなにかかり時間がたっているのか、ぐったりと倒れ込んでいる。迎さんは3メートルほど離れた場所からシカの頭部に一発、銃弾を発射した。完全に動かなくなったことを確認すると、山本さんがわなを外す。作業は淡々と進んでいく。
 「これは大きいばい」。約50キロあると思われるシカに縄をくくりつけ、数人で引っ張っていく。段差があったり、角が木に引っ掛かったりして、すんなりとは運べない。捕獲した後、運ぶのが大変なため、わなは道路近くに設置している。「猟友会も高齢化が進んで大変」とこぼす。

 迎さんらに別れを告げると山本さんは所有する山まで約10分、シカを乗せた軽トラックを走らせた。そこには昨年10月、埋葬用に重機で掘った長さ40メートル、幅1メートル、深さ1.5メートルほどの穴があった。山本さんはそこにシカを落とし、シャベルで土をかぶせる。「かわいそうと思ったらできない。あくまで有害鳥獣の駆除という認識でやっている」と話す。
 30分もすると、土に埋もれ、シカの姿は見えなくなった。

シカが角をこすったため皮がはがれた木々=佐世保市内(山本さん提供)

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