F1タイトル争いの裏でチーム首脳同士の確執深まる。メルセデス代表の心理戦にレッドブルボスが激怒

 レッドブル・ホンダとの戦いが激化し、メルセデスはこの数年で初めて、タイトルを獲り逃すかもしれないという懸念を抱いている。そんななか、メルセデスのチーム代表トト・ウォルフが新たな面を見せ始め、元々不仲のレッドブルのモータースポーツ・コンサルタント、ヘルムート・マルコとのマインドゲームが激しさを増している。

 オーストリア出身のウォルフとマルコは、共通の友人、ニキ・ラウダが存命中は、彼のとりなしでなんとか関係を保っていた。しかし今では、マルコはウォルフに対して表立って舌戦をしかけ、ウォルフがそれに反撃するという有様で、互いがメディアを通して相手を批判し、プレッシャーをかけようとしている。

メルセデスF1代表トト・ウォルフとレッドブル・モータースポーツ・コンサルタントのヘルムート・マルコ

 ウォルフは、過去にマルコから何度も“ゲリラ戦術”を仕掛けられてきたが、最近になって似たような作戦をうまく利用して攻撃する力を身に着けてきた。たとえば、レッドブル・パワートレインズに関して、ウォルフはこういう発言を行っている。

「レッドブルはフォルクスワーゲン・グループと緊密なつながりを持っている。もしレッドブルが将来フォルクスワーゲン・グループと提携し始めたら、ホンダはどう感じるのだろうね。突然ホンダの秘密とIPがライバル自動車会社の手に無料で渡ってしまうとしたら」

 これにマルコは激怒し、ウォルフはレッドブルとホンダの間に問題を起こそうとしてこんな発言をしたのだと主張した(もちろんそうなのだろう)。マルコは、ホンダの上層部に対して、ウォルフの言うようにはならないと、時間をかけて説明しなければならなかったとも述べている。

レッドブル・レーシングのファクトリー
建設中のレッドブル・パワートレインズのファクトリー

 ウォルフは、レッドブルに向けて弾丸をふたつ放った。ひとつはパワートレイン部門、もうひとつはマックス・フェルスタッペンがターゲットだ。

 スペインGPの週末、ウォルフはこう言った。「レッドブルはメルセデスHPP(メルセデスのエンジン部門)から100人のスタッフを引き抜こうとして、15人しか獲得できなかった。今の3倍のサラリーを提示したにもかかわらずだ」

「あれほど高額のサラリーをオファーされれば、今の職場に残ろうとは思わなくなるのが普通だ。彼らが引き抜いたのは製造部門のスタッフだ。パフォーマンス部門のスタッフはブリックスワースに残ることを決めた。いずれにしても彼らが引き抜いた人員の一部は、実際に加入できるのが2023年終盤になる。実際稼働できるのはかなり先になるわけだ」

「15人のスタッフと空っぽのファクトリーでは、2025年に向けて新しいパワーユニットを作ることなどできないだろう」

■フェルスタッペンにもプレッシャーをかけるウォルフ代表

 ウォルフは、最近イタリアのメディアに対して、ルイス・ハミルトンの将来の後任候補について語るなかで、フェルスタッペンは複数いる候補のひとりに過ぎないとコメントした。

「マックスは素晴らしいドライバーだ。若くて才能豊かだ。ただ、ルイスが引退を決めた場合の後任候補は、彼だけではない。我々の若手育成プログラム出身者にはジョージ・ラッセルとエステバン・オコンがいる。今年の走りを見ればふたりとも非常に才能があることは明らかだ。その上、彼らはメルセデスのことを知り尽くしている」

「若い世代の有望なドライバーたちがすでにF1で活躍していて、2022年か2023年には移ってくるかもしれない。将来に向けてたくさんの選択肢があるのは心強い。マックスもそのなかのひとりではあるが、彼だけが候補というわけではない。ルイスが引退し、バルテリが移籍する場合には、若いドライバーを起用することを積極的に考える。ただし、現時点では、ルイスとバルテリが我々にとっての優先的な選択肢だ。今実際に契約しているのは彼らなのだから」

2021年F1第4戦スペインGP 決勝後のマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)とルイス・ハミルトン(メルセデス)

 フェルスタッペンは今年、最速のマシンを持たない場合でも優勝に一番近いところにいるのはメルセデスであることを思い知らされた。しかし近い将来、メルセデスに移籍できないのであれば、今年なんとしてもタイトルを獲らなければならない。今のフェルスタッペンは、そのプレッシャーにうまく対処できずにいるように見える。

 シーズンを経るにつれて、ウォルフとマルコの確執はますます深まり、互いへの攻撃が激しさを増していくことになりそうだ。

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