花王が脱炭素で抜本策:2040年カーボンゼロ、2050年カーボンネガティブ目指す

花王は19日、脱炭素社会の実現に向けた新たな目標を策定し、事業活動に伴うCO2(二酸化炭素)の排出量を2040年までにゼロにする、と発表した。2050年カーボンニュートラルを目指す世界の潮流にあって、日本でも多くの企業が相次いで排出量の実質ゼロを宣言する中、国際枠組みである「パリ協定」の目標よりも10年早い2040年までのカーボンゼロを掲げた点に、同社のESG戦略に込める強い意志がみてとれる。さらに2050年までに自社の排出量を上回るCO2を削減する「カーボンネガティブ」に取り組む方針も新たに示し、消費財メーカーのトップ企業として、改めて国際的な科学的根拠に基づくあらゆる手段で、気候変動問題に貢献する姿勢を国内外にアピールした格好だ。(廣末智子)

同社は2019年4月、環境負荷低減に取り組んできたそれまでの企業活動を「ESG視点でのよきモノづくり」へと高める観点から見直したESG戦略「Kirei Lifestyle Plan(キレイライフスタイルプラン)」を策定。この中で、「脱炭素」や「ごみゼロ」「水保全」など19の重点項目を設定し、脱炭素については、自社施設での燃料消費による温室効果ガスの排出量と、購入した電力や熱の利用による排出量を「2030年までに2017年度比で22%削減する」とする数値目標を提示。この数値に対しては、企業の温室効果ガス削減目標が科学的な根拠と整合したものであることを認定する国際的なイニシアティブであるSBTi(Science Based Targetsイニシアティブ)から、産業革命前からの気温上昇を2度に抑えるための科学的根拠に基づいた削減目標であるとの認定を受けていた。

今回の「2040年カーボンゼロ」宣言に伴い、同社は上記の数値目標を「2030年までに55%削減する」とする大幅な修正を実施。SBTiに対し、産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑える目標として再度申請している。またSBTiや国連グローバル・コンパクトなどが企業に「1.5度目標」を設定するよう要請する「Business Ambition for1.5℃」への署名も行なった。

このように大幅なCO2の削減目標の達成に向け、同社では「CO2リデュースイノベーション」と銘打った改革を順次実施する方針。まずは、2006年から導入している設備投資のコストにCO2排出量を加味して検討する「社内炭素価格制度」を活用し、これまでは国内や欧米の工場が中心だった省エネ設備の導入を、アジアの生産拠点にも広げる。さらに、従来から取り組んでいる工場での自家発電の増大に向け、太陽光パネルをできる限り設置するとともに、購入電力の再生エネルギー化をさらに推進し、2030年までに使用電力を100%再生可能エネルギーに切り替える。これに伴い、事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアティブである「RE100」への加盟を申請中だ。

また社会のサステナビリティに貢献する製品やサービスの新たな技術開発を引き続き地道に行い、消費者がそれらの製品やサービスを利用することによって、「2030年までに社会全体でCO2を1000万トン削減する」ことを目標としている。

一方、2050年までに自社の排出量を上回るCO2を削減する「カーボンネガティブ」については、昨年12月に発表した新中期経営計画「K25」の中で、同社の「ESG経営の決意」として「カーボンゼロ」の言葉を掲げたものをあらためて宣言したものだ。具体的にはまだ模索中の部分が多いものの、「CO2リサイクルイノベーション」の名の下に、炭酸ガス(CO2)を原料に転換する「カーボンリサイクル」の研究開発を推進し、技術を確立することで、2050年にはカーボンニュートラルにとどまらず、CO2の吸収量が排出量を上回る社内環境の実現を目指す。

今回の宣言について、同社の広報担当者は「2050年脱炭素社会に向けた世界の合意が取れた今、一消費財メーカーとして、その少し先をいかねばならないと考えた。株主や投資家の要求も強まっていると感じるが、カーボンニュートラルに挑むことは企業として当然であり、サーキュラーエコノミー(循環型経済)と同様、推進しなければならないことであるという認識で取り組んでいく」と話している。

最近では多くの企業が2050年の「ネットゼロ」や「カーボンニュートラル」といった温室効果ガス排出量の実質ゼロを宣言する動きが活発化しているが、「2040年カーボンゼロ」に挑戦する企業の例は国内ではあまり聞かれない。もっともグローバルではアマゾンとグローバル・オプティミズムが2040年までにネットゼロを目指すために共同で立ち上げた誓約である「クライメート・プレッジ」にユニリーバやマイクロソフトなどの大手企業100社以上が署名するなど、国際的な企業の連帯がある。

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