なぜ日ハム加藤貴之は安定し始めたのか ショートスターターから先発で起きた変化

日本ハム・加藤貴之【写真:石川加奈子】

リーグ2位の防御率、7登板で3勝1敗と好成績

かつて「ショートスターター」として活躍した左腕が、今季は先発として躍進の気配だ。日本ハムの6年目加藤貴之投手が開幕からローテーションの一角として好投。5月19日の楽天戦では6回3失点(自責2)と好投しながら今季初黒星を喫したが、ここまで7試合に登板して3勝1敗。リーグ2位の防御率2.35をマークし、苦しむチームにあって先発陣で随一の安定感を見せている。

加藤といえば、2019年に栗山英樹監督が導入した「ショートスターター」の1人として、短いイニングでの先発登板を重ねたことで話題となった。2020年途中からは中継ぎとしての起用が主となっていた。そして今季は、長いイニングを投げる先発投手として好投を続けており、自身が持つマルチな才能を改めて示している。

加藤は拓大紅陵高(千葉)、新日鉄住金かずさマジックを経て2015年ドラフト2位で日本ハムに入団。ルーキーイヤーは先発が16試合、リリーフが14試合と幅広い起用に応え、キャリアハイの7勝をマークした。防御率も3点台半ばと即戦力の期待に応えてリーグ優勝と日本一に貢献した。

続く2017年は年間を通じて先発として起用され、21試合中12試合で6イニング以上を消化。年間120イニングを投げ、勝ち星こそ6勝止まりだったものの左の先発として活躍した。

ショートスターターでの起用でキャリアに大きな変化が…

2018年も開幕からの13試合で先発で起用されたが、安定感を欠いたことで8月以降は中継ぎへ配置転換。そして、この2018年前後にメジャーリーグで確立された「オープナー」という概念が、2019年の加藤のキャリアに大きな変化をもたらすことになる。栗山監督はこの先進的な起用法を「ショートスターター」として積極的に導入。元々先発と中継ぎの双方の経験があり、左腕という特色も持つ加藤がこの役割を頻繁に任されるようになる。

加藤の2019年初登板は4月2日の楽天戦。先発としてマウンドに上がったが、3回を無失点と好投すると当初のプラン通りに降板。その後も同様の起用法は続き、シーズンを通じて21試合に先発登板しながら、6回以上を投げた試合は5月31日の1試合のみだった。一方で防御率や投球内容は前年から大きく改善され、様々な意味で新境地を開拓する1年となった。

2020年も序盤はショートスターターとしての起用が続き、夏場以降は中継ぎとしての登板が大半に。先発登板7試合はキャリア最少で、チーム内でのショートスターターの回数の減少が、そのまま加藤の起用法にも反映されていた。

そして今季、加藤は先発として開幕1軍入り。今季初登板となった3月27日の楽天戦で5回2失点と粘投して今季初勝利をマークすると、4月4日のロッテ戦、4月11日のオリックス戦と2試合連続でプロ入り最長の8回1失点の投球を披露。ここまで抜群の安定感を発揮している。

加藤の特徴の一つとして制球力に優れる点が挙げられる。直近4シーズンのうち、与四球率2.20台以下を3度記録している。また、通算奪三振率は6.91と際立って高くはないが、奪三振を四球で割って求める「K/BB」は、2021年はキャリアで2番目に高い数字となっている。今季は与四球率もキャリア最高のペースであり、例年以上に余計な走者を溜めるケースが少ないことがわかる。

四球が少なく制球力に優れる投球スタイル

今季は被打率も過去のシーズンに比べて大きく改善されており、そもそも走者を出すケース自体が少なくなっている。1イニングにつき何人走者を出すかを示す「WHIP」も0点台と素晴らしい数字だ。四球も安打も少ないという事実を鑑みても、今季の加藤が抜群の投球を見せているのは納得と言える。

加藤は7つの球種を操っている。このレパートリーの多さが万能性を支える要素の1つでもある。ただ、チェンジアップは2017年と2020年は、シーズンを通して1度も結果球とはなっていない。他の球種に比べれば、チェンジアップを使う割合は少なかったということだ。

今季に目を向けると、まず目につくのが、新たに使い始めたカットボールだろう。その効果は被打率.188にも表れているが、昨季以前から多投していたスライダーとの細かな差異による、相乗効果にも期待できる。2017年から4シーズン連続で被打率.240以下と元々有効な球種だったフォークの被打率が今季はさらに改善されているところも見逃せない。

また、昨季以前よりもチェンジアップが結果球になる割合が多く、被打率.000と完璧な数字を残している。緩急をつける効果のあるカーブは被打率.100台が2度、被打率.400が3度と年によってばらつきがある。同じくブレーキの利いたチェンジアップの割合増加は、打者側の対応をより難しくしていると考えられる。4月末の時点で7球種全てが結果球となっており、多彩な引き出しを例年以上に有効に使えていることがうかがえる。

過去5年間にわたって主力投手の1人として登板を重ねてきた加藤は、その能力を完全に開花させることができるか。28歳と、選手として最盛期を迎えようかという時期。チームのためにあらゆる局面で身を粉にして投げ抜いてきた左腕が「左のエース」となれるか否か。その投球に注目してみる価値は大いにあるはずだ。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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