“ドン・ファン元妻”須藤早貴容疑者裁判を占う 物証乏しい検察側の勝算は

起訴された須藤早貴被告(ジャーナリストの吉田隆氏撮影)

“紀州のドン・ファン”こと和歌山県田辺市の資産家・野崎幸助さん(当時77)が急性覚醒剤中毒で死亡した事件で、和歌山地検は19日、殺人と覚醒剤取締法違反の罪で、元妻の須藤早貴容疑者(25)を起訴した。しかし、逮捕後の須藤被告は、事件について否認した後、完黙。同じ和歌山で23年前に起きた毒物カレー事件と同様に、具体的な物証に乏しいまま舞台は法廷へと移る。検察側に勝算はあるのか?

起訴状によると、須藤被告は2018年5月24日、殺意をもって何らかの方法で致死量の覚醒剤を野崎さんに摂取させ、殺害した。

須藤被告は関与について否認した後、完黙。裁判員裁判での審理では、検察側と全面的に争うとみられる。

具体的な物証が乏しい中での逮捕について、多くの専門家から「起訴できるのか」「裁判も難しいのでは」といった声が上がっていたが、検察は状況証拠を積み重ねることで立証可能と判断したようだ。

須藤被告が事件前、「殺害」や「覚醒剤」といった単語を検索し、SNSを通じて覚醒剤の密売人と接触していたことがスマートフォン解析から判明している。さらに、野崎さんに覚醒剤が盛られたと推定される時間帯、野崎さんは須藤被告と2人きりだったことも分かっている。

しかし、法曹関係者は「覚醒剤の入手までは立証できそうな気はするが殺人の部分がポイント。検索履歴に『覚醒剤』『致死量』などがあり、致死量を上回る覚醒剤を投与されていたのであれば殺意がある方向に傾くが、事件から3年もたってから、量を立証するのはなかなか難しい部分もあるのでは」と指摘する。

こうした状況に、同じ和歌山で1998年に起きた毒物カレー事件を思い浮かべる人も少なくないだろう。

夏祭りでカレーにヒ素が混入され、食べた住民4人が死亡、63人がヒ素中毒になったこの事件では、2か月後に林真須美死刑囚(59)が逮捕されたが、直接証拠に乏しく、動機もはっきりしなかった。そのため、逮捕から判決までのほとんどを状況証拠に頼った。

09年に最高裁で死刑が確定した林死刑囚は、その後も冤罪を訴え最高裁に特別抗告中で、今もなお後味の悪さが残り続けている。

また和歌山では白浜町の海水浴場でシュノーケリングをしていた妻を水難事故に見せかけ殺害したとして、殺人罪に問われた夫に今年3月、実刑判決が言い渡されている。この事件でも夫が黙秘し、直接証拠も不足していた。それでも、捜査関係者は現場の状況から妻の死亡は他殺以外になく、夫以外の関与はありえないという状況証拠を積み重ね、裁判員裁判で有罪をつかみとった。

こうしたことから、前出関係者は「検察側にはまだまだ隠し玉もあるかと思う。その内容次第になりますね」とも話している。とはいえ直接の証拠がなく、状況証拠の積み重ねだけで有罪となっても、また後味の悪さが残るのは間違いなさそうだが…。

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