【セルフメディケーション有識者検討会】健保連・幸野氏「工程表はどうなっているのか」/調剤報酬でO T C要件化も要望

【2021.05.20配信】厚生労働省は5月20日、「第3回セルフメディケーション推進に関する有識者検討会」を開いた。この中で健康保険組合連合会理事の幸野庄司氏は、セルフケア・セルフメディケーション推進室の役割として、「新経済・財政再生計画 改革工程表2020ではセルフメディケーションの推進策の具体化について関係審議会において早期の結論を得るとあり、2021年度に動きがあってもいいはず。どうなっているのかについて教えてほしい」と問いかけた。事務局は推進室を設置したことやスイッチ評価検討会議の運営方針も見直したことなどを説明した。

この日の会議の2つ目の議題となる「セルフケア・セルフメディケーション推進室の設置について」を事務局は説明した。

事務局は、今後の検討事項に関して、①税制の効果検証、②税制以外の施策の在り方――を説明。

①「税制の効果検証」としては、令和3年度厚生労働科学特別研究事業において「セルフメディケーション税制による医療費適正化効果についての研究」を実施予定だとした。

研究代表者は東京大学大学院薬学系研究科の五十嵐中氏が務める。

五十嵐氏は、同研究の骨子を説明。
課題として、医療費適正化効果について適切な指標を設定した上で検証を行う必要やセルフメディケーション税制の利用促進を図ることなどを挙げた。
そのため令和3年度の研究では、効果検証のための指標・検証方法に関する研究を行う。また、現行制度における医療費削減効果の検証とセルフメディケーション導入に関するパネル調査、税制利用意向に関するコンジョイント調査を行うとした。

②「税制以外の施策の在り方」については、厚労省関係部局が実施する関連施策の状況について、今後、本検討会で報告するとした。「セルフケア・セルフメディケーション推進室」において、厚労省におけるセルフケア・セルフメディケーションを一体的かつ継続的に推進する司令塔機能として施策パッケージの策定等を行っていくとした。

具体的な業務内容として、以下の3つを挙げた。
(1)施策パッケージ(計画や工程表)の策定と進捗管理① 健康の保持・増進や医療のかかり方に対する国民の意識向上のための環境整備、② 国民・医療関係者の行動変容を促すためのインセンティブ、③ 薬剤師等の医療関係者による相談体制の構築、④ スイッチOTC化の推進など医薬品の充実。
(2)広報、省外窓口
(3)個別施策(セルフメディケーション税制)の実施(周知・広報、医療費適正化効果の把握)

こうした説明ののち、議論に入った。

国民生活センター 理事の宗林さおり氏は、「推進室として(セルフメディケーション推進に関する)根本的な精緻なデータをつくる予定はあるか」と聞いた。事務局は、五十嵐氏の研究は医政局としての予算であり、一体化して進めると回答した。

日本医師会常任理事の宮川政昭氏は、「セルフケアとセルフメディケーションは本来は同列にならないというのが厚労省の基本的なお考えだと思う」と指摘した。
これに対し、事務局は「セルフメディケーションはセルフケアの一つのパートであるという認識をもっている。OTCの適切な選択・助言などがセルフメディケーション推進であるととらえている」と回答した。
この回答に対し、宮川氏は「安心した」と語った。

併せて、宮川氏は五十嵐氏に研究に関して質問し、「セルフメディケーションに関して、これまではどのような研究があったか」とした。これに対し、五十嵐氏は「まだしっかりとしたシステマティックレビューは行っておらず、今後、行い、先行研究の知見で活かせる部分を取り入れていきたい」と話した。
また宮川氏は「セルフメディケーション税制利用動向に関するコンジョイント分析」との記載に関して、「O T C薬の購入と考えて良いか」と尋ねた。これに対し、五十嵐氏は、「ほぼO T C購入と考えて良いと思う」とした。

宗林氏は「意見」として、「O T C薬だけでなく、食品も入れるとその中でのOTC薬の役割などにもつながるのではないか」と述べた。

日本チェーンドラッグストア協会理の平野健二氏は、申請に至るまでの利用者に対して「われわれの中には“今このぐらいの利用状況ですよ”と言うことをお伝えしたいと言うモチベーションが生まれるのではないかと思う。(利用者も)自分はこのペースでいくと対象になるんだと思った方は行動が変わる可能性はあるのではないか。そういった途中での情報提供を行った場合の研究も興味深いので、お手伝いしたいと思う」とアイデアを出した。

健康保険組合連合会理事の幸野庄司氏は、研究内容に関して、「O T C薬のことだけを調べても意味がないので、医療費がどう変化したのかを調べていただきたい」と要望を出した。「理想は新たな対象によって医療費が適正化されるようなトレンドが出ること」とした。

また、セルケア・セルフメディケーション推進室ができたことを歓迎する一方、「新経済・財政再生計画 改革工程表2020ではセルフメディケーションの推進策の具体化について関係審議会において早期の結論を得るとあり、2021年度に動きがあってもいいはず。どうなっているのかについて教えてほしい」と問いかけた。

「上手な医療のかかり方」に関しても、「セルフメディケーションのことがない」と課題意識を表明。

部局横断的な取り組みに関しては、医薬・生活衛生局においては「スイッチO T Cの推進」、保険局には「次回の調剤報酬改定でO T C薬を置くことを要件化するなど薬局薬剤師が調剤に偏重しないような施策」を要望した。特に調剤偏重に関しては、「セルフメディケーションを推進するには薬局薬剤師の役割が重要だが、O T C薬が置かれていないような薬局もあり、これではどう国民がO T C薬を使えるのかというところがある」と問題意識を吐露した。「かかりつけ薬剤師の要件に一定のO T C薬を置くことを要件化することも検討してほしい」と要望した。

工程表に関して事務局は、「関係部局の施策をパッケージにして計画表を作って進めることを考えている」と話した。「具体的な施策についてはご指摘を踏まえて検討していきたい」とした。

スイッチO T C推進に関しては審査管理課が回答し、スイッチ検討評価会議の運営方針を見直し、中間取りまとめも行ったことを説明。
薬局薬剤師におけるO T C医薬品の取り扱いに関して事務局からは、「質の向上をはかっていく中で取り組むもの」との認識が示された。

日本薬剤師会常務理事の岩月進氏は、薬局におけるO T C薬が置かれていないとの指摘に関して発言し、「1品目以上とのことではあるが8割の薬局にはO T C薬を置いているとのデータはある」と指摘。「ただ、2000品目以上を置いているような店舗に比べて取り扱いは目立たない、あるいは販売姿勢が見えないと言う指摘があることは理解している」とした上で、「処方箋がなければ入っていけないような薬局のイメージは変えていきたいと思っている。相談の場となっていく」と方針を示した。

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<編集部コメント>

健保連・幸野氏の「工程表はどうなるのか」との質問は本質を突いている。

2月24日、すでに閣議決定されている「一般用医薬品(スイッチOTC)選択肢の拡大について」をテーマに議論された内閣府の規制改革推進会議「医療・介護ワーキング・グループ」では、委員からKPIの検討がいまだ進んでいないことに不満が出ていた。「評価検討会議でスイッチを促進していただくことを期待しているわけではなく、そもそもKPIに沿ったロードアップを定め、そのロードマップに応じた個々の対応をするという建てつけになっている」として、委員からは「KPIの設定をしっかり進めてください」という意見が出たとされている。

幸野氏の工程表の進捗に関する質問への厚労省の回答も、従来の施策をなぞらえるだけで、今一歩踏み込んだ施策への意欲は感じられなかった。
すでに保険財政上の問題から薬剤自己負担の引き上げも議論のテーマになっている中、セルフメディケーションの基盤強化やスイッチOTC拡大は待ったなしの状況にあるのではないのか。具体的に言えば、ジェネリック医薬品を大きく進展させたようにスイッチOTCの数値目標提示があってもいいはずだ。現在、医政局ではジェネリック医薬品政策の「量から質への転換」を旗印に、医薬品産業ビジョンの策定を計画していることも表明している。この機を逃さず、スイッチOTCのビジョンが明確化されることを期待したい。

【規制改革会議】スイッチ促進の目標を設定へ。ジェネリック薬のような数量目標なるか

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