ベンチ外選手にも背番号… 岡山発「桃太郎リーグ」が高校野球を変える“手本”に

岡山県で始まった「桃太郎リーグ」【写真提供:岡山城東・戸田英樹監督】

4月から21校が参加、選手は公式戦同様に背番号も付ける

レギュラー以外の選手にも真剣勝負の場を増やすために、岡山県で新たな挑戦が始まった。その名は「桃太郎リーグ」。控え選手を中心としたチームで戦うリーグ戦だ。岡山の高校野球の「監督会」の会長で、岡山城東の戸田英樹監督が中心となり発足した。この試みの意義を聞くと、選手のモチベーションの向上、不安視する野球人口の低下に歯止めをかけたいという野球人としての思いがあった。【間淳】

目指すのは勝利。そして、技術の向上。プロスポーツも学生スポーツも共通している。ただ、結果が全てともいえるプロと学生とでは違いがある。

高校野球では長年、控え選手のモチベーションが課題とされている。部員が多い高校では、公式戦に出場することなく引退する選手もいる。約2年半の練習の成果を試合で発揮する機会さえなく、ユニホームを脱ぐのだ。

「控え選手がモチベーションを上げるために何かできることはないか。冠をつけたリーグ戦はできないだろうか」

岡山県の「監督会」でも、この問題が議題に挙がった。監督会は2019年に発足し、県高校野球連盟に所属する全58校の監督が加入している。複数の監督が、控え選手が真剣勝負できる機会が必要と感じていた。

ただ、リーグ戦を始めるのは簡単ではない。部員やスタッフの数は高校によって違う。また、雨天順延などを考慮して会場を確保し、日程を組まなければならない。実際、約3分の1の監督から最初は賛同が得られなかったという。それでも、岡山城東の監督で監督会の戸田英樹会長は「色んな考え方や事情があっても、控え選手のリーグをする意義はあると思った。試合経験をたくさん積ませたい思いは、多くの監督が持っている。まずは、やってみようということで決まった」と語った。

岡山県で始まった「桃太郎リーグ」【写真提供:岡山城東・戸田英樹監督】

最多勝や首位打者、本塁打王など個人タイトルも

4月から始まった今年度の桃太郎リーグには、21校が参加している。1ブロックを3チームに分けて、総当たり戦で順位を決める。選手は背番号をつけ、最多勝や首位打者、本塁打王など個人タイトルも設けられている。

これまでも控え選手を中心にした練習試合は組まれていたが、勝敗や成績を意識することで、より公式戦に近い経験を積むことができる。戸田会長は「普段の練習試合は勝敗よりも練習でやってきたことを試し、反省材料を見つける目的が大きい。桃太郎リーグでは勝ちにこだわる気持ちが強くなるし、個人タイトルは自信にもつながる。伸びしろの大きい高校生が成長するきっかけになると思う。背番号があると意識が全然違う」と新しい挑戦の意義や手応えを口にする。

しかし同時に、難しさや課題も感じている。学校によって予定や事情が違うため、ダブルヘッダーで消化するチームもあれば、日にちを分けるチームもある。すでに全日程を終えたブロックもあるが、新型コロナウイルスの感染拡大で岡山県にも緊急事態宣言が出たこともあり、まだ1試合も戦えていないチームがある。試合が延期になると日程の再調整が難しく、全てのブロックで予定通りの試合数をこなせるか不透明だという。

さらに、不安視されるのが野球人口の減少だ。子どもの遊びが多様化したことや、野球中継が少なくなったことなどから、野球に触れる機会は減っている。戸田会長は「来年度リーグに加わりたいと言っている学校もあるが、来年入ってくる部員数によっては参加したくてもできないチームが出てくると思う。部員不足に悩んでいる学校は少なくない」と説明する。来年度からは少なくとも1つのブロックを4チームにして試合数を増やし、1部、2部、3部という分ける構想もあるが、実現へのハードルもある。

岡山県では、野球の裾野を広げ、競技人口を増やす取り組みに力を入れている。その1つが、高校球児による「野球教室」。球児が保育園や幼稚園に行って、打撃用の台に置いた柔らかいボールをバットで打つ「ティーボール」を教えて、野球の楽しさを伝えている。

「近い将来、岡山県にも合同チームが出てくる可能性もある。急に野球人口を増やすのは難しいが、色んな活動をして野球をする子どもたちを増やしたい。控え選手の真剣勝負の場も、高校野球の魅力の1つとなれば」と戸田会長。お供を増やしていった桃太郎のように、「桃太郎リーグ」を野球人口の増加につなげたい。(間淳 / Jun Aida)

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