木村花さん誹謗中傷判決 スマイチーキクチが語る「司法の限界」

亡くなった木村花さん

恋愛リアリティー番組「テラスハウス」(フジテレビ系)に出演したプロレスラー木村花さん(当時22)がSNSで誹謗中傷を受けて自死した後、ツイッターに「地獄に落ちなよ」などと投稿し、遺族の心情を傷つけたとして、母親の響子さん(44)が損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は先日、投稿した長野県茅野市の男性に約129万円の支払いを命じた。この判決に、お笑い芸人で一般社団法人インターネット・ヒューマンライツ協会の代表を務めるスマイリーキクチ(49)は「これが今の司法の限界」と話した。

訴状によると、男性は花さんが昨年5月に亡くなって以降もツイッターに「テラハ楽しみにしてたのにおまえの自殺のせいで中止。最後まで迷惑をかけて何様? 地獄に落ちなよ」などと投稿。

響子さんは約294万円の損害賠償を求めたが、東京地裁は約129万円の支払いを命じた。

池原桃子裁判長は、男性が弁論に出廷せず、書面での反論もなかったことから、事実関係を認めたとみなした。

この判決を傍聴席で聞いていたスマイリーは「国がどのような審判を下すのか自分の目で確かめたかった」と語る。自身も1999年に過去の殺人事件の犯人というデマがネット上に流れ10年間、誹謗中傷や殺害予告を受けた経験を持つ。

男性が出廷しなかったことについて「来ないと思ってた。誹謗中傷する人で来る人はまれです。匿名で嫌がらせの書き込みをする卑怯で卑劣な人は裁判に来るとは僕も思ってない。根本的に無責任。自分の言葉に責任を持たないし、自分が置かれた状況にも責任を持たない。人間性が出ます」と指摘する。

賠償額については「響子さんの気持ちを考えたら安いです。金額を見た時にこれが今の司法の限界なのかと思いました」。内訳は弁護士費用5万円、調査費用74万円2000円で響子さんへの慰謝料は50万円。

「ネットが司法の世界に浸透してない。だから慰謝料もこのぐらい。司法側に『(ネットを)見なければいい理論』が残ってるんです」とスマイリー。

その上で「20年前と比べ、理解してくれる警察、検察、裁判官が増えたとは思います。ただ、僕が受けた10年分の被害が今なら3か月ぐらいに凝縮され、それ以上の被害に遭っている。今は拡散力も速いし、家にユーチューバーが来たりする」と語る。ネットが普及したことによる誹謗中傷の拡散力と被害度はエスカレートしているのだ。

スマイリーは現在、自身の経験を生かし、ネットの人権問題に取り組んでいる。被害に遭った場合どうすればいいのだろうか。

「まず、やってはいけないのが相手とやり合うこと。激化するし、本当に危険な人もいる。すべてスルーし、中傷のコメントには、どんなに腹が立っても、“それは裁判になった時の証拠だ”と思って集める。そして必ず敬語で一度だけ否定をする」

それでもまだひどくなれば、初めて警察に相談する。大事なのが「電話でネットの捜査ができる刑事さんがいるか、事前に確認を取ること」だという。

活動は被害者を救うためから、加害者を減らすためにシフトしている。ネットは若い世代の問題と思いがちだが、「正直、たちが悪いのは40代以上。誹謗中傷、差別みたいなのは特に50、60代。その人たちの汚い言葉に関しては教育の必要性を感じます」と言う。

SNSでは誰もが被害者にも加害者にもなる可能性がある。

「SNSは人をつるし上げるのではなく、交流するためのツールです。事件とかが起きた時に犯人を疑う前に誰が書いたのかを疑う。一度止める気持ち。止めるの上に『一』を足すと『正』になるので、これがネットでの正しい使い方です」

誹謗中傷する人の共通点は「ストレスがたまってたり、イライラしている時にやる」。そういう時は情報から離れることが大事だという。

ネットで起きがちな過剰な正義感について「正義と暴力は紙一重。正義の『義』は『疑』にしてるんです。情報の正しさを疑う『正疑感』を持たないと加害者になりやすい。捕まった時に『(ネットで)周りがやってたから』と言うんですが、捕まるのは現実の自分。全部リアルの世界なんです」とスマイリーは話している。

☆スマイリー・キクチ 1972年1月16日生まれ。東京都出身。お笑い芸人として活動するが99年に、過去の殺人事件の犯人というデマがインターネット上に流れ、2008年まで誹謗中傷や脅迫を受けていた。その経験を生かし講演活動を行っている。20年、一般社団法人インターネット・ヒューマンライツ協会を立ち上げ代表に就任。

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