さいたま市の若者がさいたま市長選の候補者と考える「まちの未来」とは(原口和徳)

10代若者と候補者が地域の未来を語る

さいたま市長選挙は23日に投開票日を迎えます。さいたま市では国政選挙に比べて地方自治体の選挙では投票率が大きく低下することが指摘されています。
たとえば2016年の参院選と2017年の市長選挙の投票率を比べてみると、18歳投票率は60.24%→32.45%、19歳投票率は50.75%→19.73%と低下しています。
そんな状況を変えるべく、さいたま市在住の高校生が、若者や市民と候補者がまちの課題を語り合う場づくりに挑みました。

若者が盛り上げよう! 「さいたま選挙応援部」

さいたま市長選挙を盛り上げるべく市内在住の学生が「さいたま選挙応援部」を立ち上げ、若者の立場から市長選挙を盛り上げるべく活動を始めました。
新型コロナウイルス感染症への対策を考慮し、オンラインでの交流イベントを行うこととし、「候補者に対する事前インタビュー」と「インタビュー動画を視聴したうえでの候補者やさいたま市議を交えたグループディスカッション」を行う企画が作られました。

2021年5月さいたま市長選挙10代の若者オンラインイベント

候補者の声を聞いてみよう

候補者に向けたインタビューは「さいたま市のまちづくり」と「さいたま市の子育て支援」の2つのテーマで実施されました。
候補者へのインタビューは、市内在住の高校生がインタビュアーを務めて実施されました。

インタビューでは候補者の説明を伺った上で学生が質問をしていきます。

例えば、待機児童問題について。
市の発表する待機児童数の情報だけではなく、「自分が聞き、調べた範囲では、『勤務地への移動時に利用できる保育園にあたらなかったため、子どもを保育園に入所させることができていない人』がいました。こういった人のために、どういった対策が必要と思われますか」など、自ら直接まちの課題を調べ、候補者に問いかけていく姿が見られました。

候補者の方も告示直前の多忙な時期にもかかわらず、インタビューの収録中に「高校生が議論するためにはもっと具体的なテーマに絞って話をしたほうが良いかな」と学生に問いかけながらお話を修正されたり、質問の背景を笑顔で優しく掘り下げてくれたり、と振る舞われている姿が印象的でした。

いざ本番! どんな意見、考えが生み出されるか。

企画当日は、2つのテーマのうち「子育て支援」について候補者も交えてのグループディスカッションが行われました。(「まちづくり」については候補者が参加しない形で実施。)

・参加者が提案した「保育士の処遇改善」について、市が行っている保育士への家賃支援の取り組みなどの実例を交えながら市の取り組みを紹介した上で、さらなる課題意識を参加者と共有する。他にも様々な市の取り組みについてその背景や狙いを直接語り掛ける

・参加者の発言を拾いあげながら、自身の経験や他市の取り組みを紹介。子育て支援の取り組みとして大規模マンション開発と学童保育や公園整備などを合わせて行う取組を進めていきたい、などの政策アイディアを紹介、共有する

他にも様々な意見が出されながら、グループではインタビューを視聴した参加者のコメントをもとに、候補者や市政関係者との対話が行われていきました。

各グループにはさいたま市以外の場所に暮らしたり、活動している人も参加していました。結果として、他のまちとさいたま市を比べながら考えることとなり、他市の優れた取組みを学んだり、今まで気づいていなかったさいたま市の魅力を発見する等、参加者の視野が広がっていく学びあいの場が作り出されていきました。

また、各グループでは、候補者の方も、参加をしてくださった大人の方も、時には若者を励ましながら対話が行われていました。そこでは、大人も若者も同じようにそれぞれの見解を述べ合っています。もちろん、市政について事前の学習が不足していると思われる発言がされることもありましたが、他の参加者の意見によって自身の認識との違いに気づくきっかけを得ることもできています。

今回の取り組みの規模は20名程度と決して大きくありません。そのため、若者の投票率などに大きな影響を与えることは難しい状況ですが、参加した若者の発言からはイベントへの参加がこれからまちづくりに関わっていこうという意欲や知識を得る機会となっている様子が伺えました。

学校外での主権者教育の可能性

主権者教育の主な実践場所となっている学校では、「政治的中立性」などへの配慮からリアルな政治、まちづくりをテーマにすることには依然として難しさがあります。特に、まちのことに興味関心が高まりやすい選挙のタイミングで、実際に政治に携わる方々と交わり、知見を深める機会をもつことには高いハードルがあります。
でも、一歩、学校から踏み出してみると、今回取り上げた取組みのように、学校ではできなかった学びの場を政治的中立性に配慮しながらも作ることができるようになります。

18歳選挙権ブームともいえる状況は過ぎ、ここ数年は若者の投票率の低下が進んでいます。例えば、さいたま市における2016年と2019年の参議院議員選挙の年齢別投票率を比較すると、18歳、19歳ともに15%程度投票率が低下しています。
たしかに、これまでの経験から、「模擬選挙」や「講話による選挙制度の学習」などのように主権者教育の「一定の型」ができてきましたが、「18歳選挙権」が若者の政治的有効性感覚を高め、投票などの政治参画につながっているかというと、課題が多くみられる状況です。

年齢に関係なく多様な主体が政治やまちづくりに参画するために、さいたま市の若者が学校を飛び出して大人と協働しながら新しい対話の場を作り出したように、今後もまちの様々な場所で、大人も若者も一緒になって「自分ごと」としてまちの未来を語り合う場が作られていくことが期待されます。

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