ETRCの2021年も受難の船出。5月の開幕戦イタリア・ミサノを10月まで延期すると決定

 2020年は開幕の遅れからシーズン中のイベントキャンセル、そして最終戦中止によるシリーズ不成立という厳しい環境を経験したETRCヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップだが、2021年暫定カレンダーで開幕戦に予定されていた5月22~23日のイタリア・ミサノ戦が敢えなく延期されることが決定。新たに10月の日付を与えることを決め、2年連続の厳しい船出となった。

 車重5.3t越え、最大排気量1万3000ccのトレーラーヘッドたちが覇権を争う、FIA欧州格式選手権のETRC。そのオーガナイザーを務めるETRA(トラック・レーシング・アソシエーション/Truck Racing Association)とFIA国際自動車連盟は、地元のレース主催団体と協議を重ねた上で2021年のシーズンオープナーを延期すると決断した。

 欧州全土では国単位の差異はあれどワクチン接種が進行する状況により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の勢いはいくぶん収まりを見せつつあるが、5月22日から23日の予定日に通常どおりのイベント開催は難しいとの判断から、ミサノに対しては新たに10月16~17日の週末が設定された。

 これによりイタリア戦は2021年全7戦のシーズンフィナーレに位置付けられることになり、トップマニュファクチャラー『IVECO(イベコ)』の本拠地であることに加え、例年このイベントは欧州のトラック輸送文化とビジネス関係者が多く集うフェスティバルのような盛り上がりを見せるだけに「関係者全員がファンをトラックに呼び戻すことができるのを望んでいる」との期待も込められた。

「2020年(最終戦)のイベントをキャンセルしなければならなかった後、2021年シーズンのファイナルイベントとして、今年もヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップを開催できることを非常にうれしく思う」と語るのは、その“ミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリ”でマネージングディレクターを務めるアンドレア・アルバーニ。

「プロモーターやイタリアの各関係機関、そしてエミリア・ロマーニャ地方やAPTエミリア・ロマーニャ(観光協会)、ビジット・ロマーニャに感謝の意を表したい。そしてイベントの価値をサポートし、共有してくれたイタリア連盟ACIスポーツにも特別な謝意を捧げる」

 そのイタリアを代表するブランドで戦うシリーズ6冠の“帝王”ヨッヘン・ハーンは、さらに多くのタイトルへの渇望や、なぜファンがトラックレースに不可欠なのかについて、改めてシリーズ公式サイトを通じて発信した。

5月22日から23日の予定日に通常どおりのイベント開催は難しいとの判断から、ミサノに対しては新たに10月16~17日の週末が設定された
ETRCではどのイベントも、欧州トラック輸送ビジネスの関係者が多く集うフェスティバルのような盛り上がりを見せる

■「ファンはトラックレースの重要な一部分」と語る帝王

「冬の時期は次のシーズンに向け心身ともに準備する期間だ。私にとって、バランスの取れた家庭生活は精神力の安定に欠かせない重要な要素なんだ。そして日々、厳密に8時から20時までワークショップでの準備に取り組めている場合、私は自分自身と調和していると感じられる」と語った帝王ハーン。

 わずか2戦を戦った段階でシリーズ不成立に追い込まれた2020年は、開幕戦のサッシャ・レンツや、第2戦ハンガリーでは地元ノルベルト・キスの『MAN(マン)』に押され、自身の古巣でもあるドイツのマニュファクチャラーに圧倒される週末が続いた。

「私たちはすぐに自分たちの問題を認識したよ」と、前人未到のヨーロッパ王者獲得数を誇るハーンが続ける。

「しかしそれを修正するには少なくとも2~3回はレースの週末が必要だっただろう。タイトルディフェンスを成功させるには充分ではないことは明らかだった」

 未曾有のパンデミックにより週末のレースがキャンセルに追い込まれたのみならず、仮にレースが開催されたとして、ほとんどの場合は観客の入場者数が大幅に制限されるか、ファンがレースに参加すること自体を妨げる要因となった。

「私の意見では、ファンはトラックレースの重要な一部分なんだ。私たちのスポーツでは、スポンサーとのパートナーシップや参加意義は観客の前でレースをする前提に基づいている。それこそが私たちの違いであり価値なんだ。パドックでは、私たちドライバーとファンは文字どおり『触れる』ことができる距離で交流する。それがシリーズの強みだ」と続けるハーン。

 この困難な時期に導入されたソーシャルメディアやeスポーツでの取り組みが、新たな層にリーチしたことも認めつつ、観客とファンとの直接の接触こそ真のブランドコアであり続け、それなしでは他のすべての価値が減ってしまうと強調する。

「私たちは、世界中で証明されている厳格な衛生コンセプトを備えたFIA格式選手権に参加できることを光栄に思う。47歳の今も次のタイトルを渇望しているし、5番目のタイトルはイベコ移籍後初で非常に特別なものだった。そして6度目は父が亡くなる目前に王座獲得の瞬間を共有できた。2位で満足するなら“辞めどき”だと考えている」と、Team Hahn Racing(チーム・ハーン・レーシング)を率いて7度目の戴冠を狙うハーン。

 ETRCのレーシング・トラックヘッドたちは6月12~13日にハンガロリンクへと集結し、新たな開幕戦として首都ブタペスト近郊のテクニカルコースに挑む。このイベントには、地元の英雄で2度のチャンピオン経験者ノルベルト・キス(レベス・トラック・レーシング/MAN)の大応援団が駆け付ける。

2020年から新型『IVECO S-WAY Racing trucks』を投入したシリーズ6冠の“帝王”ヨッヘン・ハーン
ETRCのレーシング・トラックヘッドたちは6月12~13日にハンガロリンクへと集結し、新たな開幕戦として首都ブタペスト近郊のテクニカルコースに挑む

© 株式会社三栄