中国の新エネルギー車(NEV)競争、勝つのはテスラ?国内メーカー?各社の新モデルを一挙紹介

5月11日、中国の自動車業界団体である全国乗用車市場情報連合会(乗連会)は、4月の国内乗用車販売台数(小売ベース)は前年同期比12.4%増の164.3万台、このうちEVとプラグイン・ハイブリッド車、燃料電池車など新エネルギー車(以下、NEV)の販売台数は同192.8%増の16.3万台に達したと発表しました。

中国全体で見ると、乗用車の新車販売全体に占めるNEVの比率は約1割ですが、北京と上海、広州、深セン、杭州、天津など主要6都市ではNEVの比率は約2割と、NEVへのシフトがより鮮明になっています。

その中で、NEVを購入すればナンバープレートの取得費用(オークションで約9.3万元=約157万円)が免除される上海では、新車販売に占めるNEVの比率は約3割と、急速に普及しています。中でも、テスラや蔚来(ニオ)汽車などのEVメーカーが大きく販売台数を伸ばしています。

今回は4月19日~28日に開催された第19回上海国際モーターショーで披露されたNEVの新ブランドや新型モデルなどを通じて、中国国内におけるメーカー各社の動向を見てきたいと思います。

<写真:Featurechina/アフロ>

上海モーターショーで百花繚乱の様相を呈すNEV

今回の上海国際モーターショーでは、1,000社以上の自動車関連企業が出展し、中国国内では新型コロナ禍が鎮静化したこともあって期間中に延べ81万人の観客が訪れました。その中でNEVや自動運転・先進運転支援技術の展示がひときわ目立っており、外資・合弁メーカーと国内独立系メーカー、新興メーカーがNEVの新型モデルを一斉に披露しました。

下の図表は、上海国際モーターショーで披露されたNEVの主な新モデルと、その特徴を一覧にまとめたものです。

これを見ると、各社の新モデルほとんどはEV車で、テスラの「モデル3」に遜色ない性能(最大航続距離500km前後、レベル2以上の自動運転システム)を有しているほか、「モデルS」を凌ぐ最大航続距離1,000kmのモデルも複数公開されるなど、今回のモーターショーでNEVはまさに百花繚乱の様相を呈しています。

NEV市場の攻略に本腰を入れる国内独立系メーカー

近年、「中国版テスラ」として蔚来(ニオ)汽車と理想汽車、小鵬汽車などの新興EV三社が大きく注目されましたが、今年に入ってから国内独立系メーカーもNEV市場攻略に向けて新型モデルを一斉に投入し始めています。

その中で、吉利汽車は「極氪」(ジーカー)、東風汽車は「嵐図」(ヴォヤー)、北京汽車は「極狐」(アークフォックス)、広州汽車は「埃安」(アイオン)、長城汽車は「欧拉」(オラ)、上海汽車は「R」といった独自のEVブランドを立ち上げました。

各社が独自のEVブランドを立ち上げた意図としては、高級感やモダン感を打ち出すことで消費者に新しいブランドイメージを植え付けると同時に、外資・合弁系志向の強い富裕層や新興メーカー志向の強い若年層を獲得したいことが考えられます。

これらの国内独立系メーカーは、元々自動車の生産能力が大きいほか、製造技術やサプライチェーンに関するノウハウも豊富であるため、テスラなどの外資・合弁系メーカーや蔚来(ニオ)汽車などの新興メーカーにとって強力な競争相手になりそうです。

上海にある蔚来(ニオ)の販売店。ポスターに「ニオを買うと上海ナンバーをプレゼント」とある。(撮影:藍澤証券 上海駐在員事務所)

熾烈な競争を繰り広げるメーカー各社、次世代を勝ち抜くのは?

中国では外資・合弁系と国内独立系、新興系のNEVメーカーが三つ巴となって、熾烈な競争を繰り広げていますが、足元の月間NEV販売台数(乗連会発表、4月の卸売ベース)が1万台を突破したのは(1)上汽通用五菱汽車(30,602台)、(2)テスラ(25,845台)、(3)BYD(25,450台)、(4)上汽乗用車(13,004台)の4社のみです。

この中で(1)上汽通用五菱汽車と(4)上汽乗用車は両方とも上海汽車集団の傘下にある企業で、前者は大ヒットした格安EVである「宏光MINI EV」のメーカーとして知られ、後者は「栄威」(ロエベ)、「R」など独自ブランドのNEV車を製造販売しています。上海汽車集団はこの2社以外にも、アリババ・グループと共同で新興EVブランドの「智己汽車」を設立しており、中国の大手自動車グループの中で最もNEVに力を入れています。

また、(2)テスラは上海で「モデル3」の量産を開始し、急速にコストダウンと販売台数の拡大を図っているほか、(3)BYDも独自の電池技術を活かして中価格帯のNEVで高い市場シェアを誇っています。この2社はNEVに関する豊富なノウハウと独自の技術を保有しているため、今後中国のNEV市場で熾烈な競争を勝ち抜く可能性が高いと思われます。

一方、ポテンシャルの点では、新興勢力である蔚来(ニオ)汽車と「極氪」(ジーカー)の動向にも目が離せません。このうち蔚来(ニオ)汽車は、巧みなマーケティング戦略で「中国発高級EV」としてのブランドイメージを確立させています。高級車から大衆車へと展開することで事業規模の拡大が期待できるでしょう。

「極氪」(ジーカー)は、吉利汽車新たに設立したEVブランドで、独自開発のEVプラットフォーム(SEA)で開発の効率化とソフトウェア・ハードウェアの最適化、コストパフォーマンスの最大化を図ることができるため、今後NEV市場の新星として注目を集めそうです。

<文:市場情報部 王曦>

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