「鬼滅の刃」の力強く荒々しい書体 編み出したのは85歳の書家の筆 「絵を描くように書く」 昭和書体(鹿児島県さつま町)

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自宅の一室が綱紀栄泉さんの作業場。さまざまなフォントを生み出してきた=さつま町虎居町

 「テレビやコンビニ、いろんな場面で、うちの字を毎日のように見る」。オリジナルの毛筆フォント(書体データ)を制作販売する昭和書体の坂口太樹社長(36)が頰を緩める。鹿児島県北西部にある人口2万人足らずのさつま町。その街中で親子3世代を含む4人が働く会社が今、全国から注目を集める。

 社名でピンとこなくてもその字に見覚えがある人もいるだろう。番組のテロップやCM、菓子パッケージ、焼酎ラベルなど、活用例は幅広い。大ヒットアニメ「鬼滅の刃」でも使われ知名度は一気に上がった。

 パソコンでは明朝やゴシックがよく使われるが、同社は現在66種類の毛筆フォントを販売する。そのうち57種類を手掛けたのが、社長の祖父で専属書家の綱紀(つなのり)栄泉(えいせん)さん(85)=本名・坂口綱紀(こうき)=だ。同社は「毛筆フォントを作るのは全国に数社しかなく、一人で書いた種類の多さは日本一」という。

 人気は「鬼滅」でも採用された、力強く荒々しい書体。字に勢いを生む「かすれ」や大胆な「はらい」が特徴だ。ほかにも端正な楷書体や寄席文字など多彩に取りそろえる。

 綱紀さんはかつて看板業を営み、手書きする揮毫(きごう職人)だった。しかしバブルが崩壊した1990年代以降に注文は激減。そんな中、「誰もまねできない父の文字を残したい」と同社の茂樹会長(62)がフォント化を始めた。

 2004年に商品化すると、和の雰囲気を演出する文字が評判になり、13年のフォント専門の株式会社設立につながった。

 一つのフォントには約7000字が必要になる。平仮名からあまり利用されない画数の多い漢字まで、統一感が求められる。綱紀さんは会社近くの自宅の作業場で、1日で多いときは200字、今も50字程度を仕上げ、これまで商品化された文字は約40万字に上る。

 馬が駆けるイメージだったり、かげろうのような書体だったり。本式の書道と異なり「絵を描くように書く」。書き順にはこだわらず書き足しもする。綱紀さんは「無我夢中で書いてきた。今後も書体を生み出していきたい」と意気込む。

 同社は、他の職人や書家の字のフォント化も進め、海外にも売り出していく方針だ。太樹社長は「職人技を後世に残し、和の文化を発信していきたい」。大きな目標に向かって小さな会社の挑戦は続く。

〈メモ〉昭和書体のフォントは、毛筆文字をスキャナーで取り込み調整し商品化。各フォントは同社ウェブから購入できる。ダウンロード版は2書体セット(期間限定)で3300円から、CD版1書体1万8700円から。パソコンにインストールするとエクセルやワードで使用でき、商品や広告に利用できる。同社=0996(26)0650

綱紀栄泉さんを中央に笑顔を見せる会長の坂口茂樹さん(左)と社長の太樹さん。壁の上段に飾ってあるのは「鬼滅の刃」で使われたフォント=さつま町虎居町
パソコンに取り込んだ文字を製品化のために整える=さつま町船木