天の川銀河で最も古い星の年代測定に成功 「星震学」と分光法の組み合わせにより

【▲ESAのガイア衛星によるデータに基づいて、天の川銀河に含まれる1億5000万個の恒星の分布を描いた図。オレンジ色と黄色の部分は恒星が多く集まっている場所を示しており、そのほとんどは赤色巨星です。(Credit:ESA/Gaia/DPAC, A. Khalatyan(AIP) & StarHorse)】

科学者たちは、星の振動の観測データと、その化学組成に関する情報を組み合わせることにより、私たちの銀河で最も古い星のいくつかを前例のない精度で年代測定することに成功しました。

バーミンガム大学(University of Birmingham)の研究者が率いるチームは、約100個の赤色巨星を調査し、これらのいくつかは元々、その歴史の初期に天の川銀河と衝突したガイア・エンケラドス(Gaia-Enceladus)と呼ばれる伴銀河の一部であると判断できました。 。

「Nature Astronomy」誌に発表された結果によると、調査された星のグループがすべて同じような年齢であるか、天の川銀河の中で誕生したことが知られている星の大多数よりわずかに若いことが明らかになりました。これは、ガイア・エンケラドス銀河(「ガイア・ソーセージ:Gaia Sausage」としても知られています)との衝突が起こったときに、天の川銀河がすでにかなり多くの星を形成し始めていたことを示唆する既存の理論を裏付けています。

【▲ 100億年前の天の川銀河のような、若い銀河の中にある仮想の惑星から見た夜空の想像図。ピンク色のガス雲の中には生まれたばかりの星があり、青白い若い星団が夜空に散らばっています。(Credit:NASA / ESA / Z。Levay(STScI))】

衝突するまでに、天の川銀河はすでに効率的に星を形成していて、そのほとんどは現在、銀河を構成する2つの円盤(銀河円盤)の1つである厚い円盤内にあります。銀河円盤は、比較的新しい星からなる薄い円盤と比較的古い星からなる厚い円盤を重ね合わせた構造になっています。

【▲最も身近な渦巻銀河である銀河系(天の川銀河)を例にとって、渦巻銀河の構造の概略を図示したもの。(左)円盤正面から見た構造、(右)円盤側面から見た構造。(Credit:天文学辞典(日本天文学会))】

この論文の筆頭著者であるバーミンガム大学の物理学・天文学部のJosefina Montalbán氏は次のように述べています。「現在、私たちが天の川で観測できる星の化学組成、位置、動きには、天の川銀河の起源に関する貴重な情報が含まれています。これらの星がいつ、どのようにして作られたのかを知ることで、ガイア・エンケラドス銀河が天の川銀河と合体したことが、銀河の進化にどのような影響を与えたのかを理解することができるようになります」

計算を行う際、研究チームはケプラー衛星からの「星震学」(Asterochonometry)データ、ガイア衛星およびAPOGEE機器(APOGEE instruments:センサー機器)からのデータを組み合わせて使用しました。3つすべては、科学者が天の川銀河の星をマッピングして特徴づけるのに役立つデータを収集するように設定されています。

星震学は比較的新しい技術であり、星の自然な振動モードの相対的な周波数と振幅を測定するものです。これにより、科学者は星のサイズと内部構造に関する情報を収集することができ、星の年齢を正確に推定することができます。

今回の研究では、各々の星の脈動の特性を平均化したものではなく、個々の振動モードの情報を用いています。分光法と星震学を組み合わせることで、星の化学組成を測定することができます。

論文の共著者であるボローニャ大学(University of Bologna)のAndrea Miglio教授は、次のように述べています。「星震学と分光法を組み合わせることで、個々の非常に古い星の正確な相対年齢を得ることができるという大きな可能性を示しました。これらの測定結果は、私たちの銀河系の初期の姿をより鮮明にするものであり、銀河系の天文考古学(Galactic archeoastronomy)に明るい未来をもたらすものです」

関連:天の川銀河の「家系図」をAIが解読。謎の銀河クラーケンとの衝突も

Image Credit:ESA/Gaia/DPAC, A. Khalatyan(AIP) & StarHorse)、NASA / ESA / Z。Levay(STScI)、天文学辞典(日本天文学会)
Source: University of BirminghamAsterochronometryESA
文/吉田哲郎

© 株式会社sorae