史上初の水素エンジン搭載カローラの挑戦は完走を果たす「未来づくりには良かったこと」とモリゾウ

 5月23日、15時にチェッカーを迎えたスーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankook第3戦『NAPAC富士SUPER TEC 24時間レース』。世界初の水素エンジンによる参戦を果たしたORC ROOKIE Corolla H2 conceptは、井口卓人/佐々木雅弘/モリゾウ/松井孝允/石浦宏明/小林可夢偉組のドライブで度重なるトラブルに悩まされながらも、24時間を走りきってみせた。レース後、モリゾウはドライバーとして、トヨタ自動車社長として記者会見に出席した。

 これまで日本の自動車業界が培ってきた既存の内燃機関の技術を流用しながら、カーボンニュートラル、そして水素社会の実現に向けた挑戦として、ROOKIE RacingとTOYOTA GAZOO Racingが共同で参戦を実現させたORC ROOKIE Corolla H2 concept。水素エンジンのモータースポーツへの転用を提案した“張本人”である小林可夢偉がスタートドライバーを務めると、第2スティントからはモリゾウもドライブ。その後も6人のドライバーが交代しながら、11〜13周に一度“給水素”を行いながら周回を重ねていった。

 気体を充填するため、2カ所での給水素となることから当然7分程度のストップとなり、また水素タンクの温度の管理など、初めての実戦で未知なことだらけのなかでのレースとなったORC ROOKIE Corolla H2 concept。序盤はトラブルの予兆を検知した際に安全策をとりつつ、細かな交換と確認を行いながらラップを重ねていった。

 ラップタイムとしては「きちんと他車とレースを戦えていたのはすごいこと(石浦宏明)」と悪いわけではないが、日付けが変わる頃には松井孝允のドライブ中に電気系統のトラブルが起き、ダンロップコーナーでストップするシーンも。その後は序盤に相次いだトラブルからうって変わって順調に周回を重ねたが、終盤足回りのトラブルにより再度ピットイン。今回ベース車として採用されたカローラ・スポーツとしても初めての実戦だったこともあり、車体の面もトラブルも起きた。

「異常燃焼が発生しやすいのが水素エンジンの難しさですが、その燃焼のコントロールができるかが技術面のチャレンジでした。その面については、課題はありましたが、ある程度想定内にコントロールできました」とGRカンパニーの佐藤恒治プレジデントはレースを振り返った。

「とはいえ、走行時間としては24時間の半分くらいと、ピットに入っている時間が長かったです。夜の間に修復することがありましたが、水素エンジンとは関係ない部分の電気系統のトラブルで、交換部品の手配も含めて時間がかかってしまい、克服しておかなければいけなかった課題でした」と佐藤プレジデント。

夜半にストップしたORC ROOKIE Corolla H2 concept

■「未来への扉をあけ、旅を始める準備ができたレース」

 とはいえ、終盤には石浦のドライブ中に起きた足回りのトラブルを解消。チームもトラブルへの対処や水素充填の時間などをきちんと計算しながら、いよいよ残り19分というところでステアリングを握ったのはモリゾウ。ピットアウト後、ORC ROOKIE Racing GR SUPRAをドライブする豊田大輔がテールにつけ、ROOKIE Racingの2台がデイトナフィニッシュ。初めての水素エンジンによるレースを締めくくった。

 今回、総合優勝を飾ったDAISHIN GT3 GT-Rは763周を走破したが、ORC ROOKIE Corolla H2 conceptは358周を走り1,634kmを走破。ピット滞在時間は12時間06分で、35回行った水素充填時間は4時間05分。走行時間は11時間54分という結果だった。

 レース後、記者会見に出席したモリゾウは、「24時間レースを安全に完走することができました。ストップする時間はありましたが、24時間走り、直し続けた結果だったと思います」と振り返った。

「この(参戦への)スケジュール自体が無理がありましたが、今回この場にいなければ、24時間レースの間にあったトラブルは出なかったわけです。今回24時間走り抜き、データを得て、何より会社の枠を超えて経験を積むことができた人材がいたことは、いちばんこれからの未来づくりには良かったことではないかと思います」

「今回の参戦は、未来のカーボンニュートラル社会への選択肢を広げるための第一歩で、これをレースの場で、皆さんの目の前で示すことができたのではないかと思います。10年後、20年後の未来を作るためには、目標値や規制ではなく、意志ある情熱と行動、そして(自動車業界で働く)550万人をベースにした、会社を超えた取り組みこそが、10年後、20年後の世界の景色を変えていくんだろうと実感できました」

「レース後、いろんな方から感動した、頑張ったというメッセージをいただきましたが、未来づくりはトヨタ自動車一社ではできません。550万人の仲間に加え、水素社会を知らなかった方々、そして自動車に興味がなかった方々、モータースポーツに興味がなかった方々が未来への扉をあけ、我々とともに旅を始める準備ができたレースだったのではないかな、と思っています」

ORC ROOKIE Corolla H2 concept

■モリゾウの“願い”とORC ROOKIE Corolla H2 conceptの今後

 なおORC ROOKIE Corolla H2 conceptは、今季ROOKIE Racingが投入したORC ROOKIE Racing GR SUPRA同様、『STOが参加を認めたメーカー開発車両、または各クラスに該当しない車両』であるST-Qクラスの参戦。またORC ROOKIE Corolla H2 conceptはグループ2にあたることから、無事に完走となっているが、ST-Qクラスは開発車両のクラスであり、賞典外。表彰式は行われない。

「このクラスは、表彰台にドライバーたちを立たせてあげることができません。私が参戦していたニュルブルクリンク24時間では、クルマを鍛え、各メーカーが良いクルマを作っていくためのSP-PROクラスというのがありますがそのクラスでも表彰台に立つことはできるんです」とモリゾウは“願い”を語った。

「頑張ってきたドライバーたちは、サーキットでは普通のレースをしているわけです。それは開発車両ではありますが、支えているメカニック、エンジニア、多くのパートナーたちは、彼らが表彰台に立つことで報われるという部分もあると思うんです。次回、この頑張ったドライバーを表彰台に立たせてあげようと思ったら、ぜひメディアの皆さんも手心を加えていただいて(笑)、ドライバー支援をお願いしたいと思います」

 今回のNAPAC富士SUPER TEC 24時間レースでの主役の1台とも言えたORC ROOKIE Corolla H2 concept。今後、スーパー耐久の残りのシーズンであるオートポリス、鈴鹿、岡山については、「スーパー耐久が実施されるサーキットで、いちばんゆとりがあるのは富士ですが、水素ステーションは大きな場所が必要ですので、残された3戦でも、水素ステーションをどうするのか今後話し合っていきたい」という。まだその走り、サウンドを体感できるチャンスはあるのかもしれない。

ORC ROOKIE Corolla H2 concept

© 株式会社三栄