<美のチカラ>さまよえる絵筆 共同連作『浦島太郎』

東京都内にある美術館から魅力的な作品の数々を紹介するコーナー<美のチカラ>です。今回は板橋区立美術館で開かれた展覧会「さまよえる絵筆-東京・京都 戦時下の前衛画家たち」を紹介します。

今回展示されていたのは、第2次世界大戦の時代を生きた前衛画家たちの作品です。その中でも一風変わった共同制作『浦島物語』について、学芸員の弘中智子さんは「恐らく誰もが知っている『浦島太郎』を14人の連作で描いて発表した作品。物語のスタートとなる1枚目が、吉加江清(京司)の『浦島亀を救ふ(憧憬)』(1937年)」と紹介します。有名な亀を助けたシーンですが「真ん中のピンク色の部分がポイント。空豆か何かの発芽した部分のようにも見えてくる」という作品に、何やら絵本の浦島物語の物語とは違う印象を受けます。助けた亀に連れられて、浦島太郎は海に潜っていきます。次に紹介されている今井憲一『龍宮に着く(讃嘆)』(1937年)を見ると、キラキラした竜宮城というよりは不思議な雰囲気に包まれています。楽しそうな竜宮城ではなく、弘中さんは「魚の骨にも見えるものも描かれている」「ヤドカリみたいなものが描かれているが、ヤドカリの体がどう見ても亀。謎が深まる」と解説します。

そして共同制作の最後に紹介されるのが小牧源太郎『郷愁を訴ふ(倦怠)』(1937年)です。弘中さんは「竜宮城での生活が長く続き、自分の故郷を思い出したシーンを恐らく描いているのだろう。かわいらしいタツノオトシゴがシャボン玉みたいなものの中に描かれている。竜宮城という隔離された場所に自分がいる状況と、自分の故郷というものを同じ画面の中に描いたのではないか」と読み解きます。私たちの知っていた浦島太郎伝説とはかなり違うイメージですが、とても楽しめる作品群といえるでしょう。

緊急事態宣言延長のため中断したまま会期は終了しましたが、第2次世界大戦の時代を生きた日本の前衛画家たちの独創的な作品は、令和の時代の今も輝きを放っています。

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