ホンダ 新型ヴェゼル、旧型からサイズは変わってないのにこの開放感はなに!? ヒントは“オープンカー”にあった

2021年4月の発売開始から瞬く間に注文が殺到し、早くも納車待ちの「ホンダ 新型ヴェゼル」。従来型からイメージを一新し、実車を目の当たりにすると「大きくなったなあ」と感じるデザインに生まれ変わった。しかし実際にはサイズはほとんど変わらない。そしてもっと驚いたのは、室内に乗り込んでからだった!絶妙なパッケージングと、ライバル車にはないパノラマルーフがもたらす開放感の秘密について、新型ヴェゼルを担当したホンダの開発者に直撃した。

ホンダ 新型ヴェゼル PLaY[FF/ボディカラー:サンドカーキ・パール&ブラック(2トーン)] [Photo:和田 清志]

大きくなったように見える新型ヴェゼルだが、サイズはほとんど変わらず! しかも屋根は低くなっていた

写真は初代「ホンダ ヴェゼル」(2013~2020)

冒頭でも記した通り、ホンダ 新型ヴェゼルは、フルモデルチェンジに際しボディサイズの拡大をほとんどしていない。

旧型(初代)ヴェゼルは、全長4330mm×全幅1770mm×全高1605mm(RS・TOURINGは全長4340mm×全幅1790mm)、ホイールベース2610mm。

シンプルな面構成や大径ホイール、黒いホイールアーチ、そして車高アップの効果などもあり、先代に比べると一回り大きくなったように見える「ホンダ 新型ヴェゼル」(2代目)

それに対し、新型ヴェゼルのサイズは全長4330mm×全幅1790mm×全高1590mm、ホイールベースは2610mm。むしろ全高は低くなっている。

いっぽうで最低地上高も、旧型の170mmに対し、195mmとロードクリアランスもアップ。18インチの大径ホイール、さらにそれを強調する黒いホイールアーチとの相乗効果もあって、ハイリフトでスポーティな“カッコいい”フォルムになったのだ。

クーペフォルムを強調したはずなのに、何故だか不思議な解放感! 新型ヴェゼルの絶妙なパッケージングを体感

コンパクトで広いのが初代ヴェゼルの魅力だったが…新型のスポーティなフォルムに一抹の不安

スポーティなフォルムに生まれ変わりイメージを一新した新型ヴェゼルだが、筆者(身長180cm)としては一抹の不安を覚えた。

初代ヴェゼルは、コンパクトながら前席・後席とも十分な頭上高で、十分過ぎる室内空間を確保していた。だから比較的体の大きい筆者でも、圧迫感を覚えずに快適に過ごせた。

そんな初代ヴェゼルの空間設計は、ライバル車に対しても大きなアピールポイントで、その広さはひとクラス上の日産 エクストレイルなどにも対抗出来るほど。それでいて価格も手ごろ、というコスパの良さも手伝って、初代ヴェゼルをヒット作へと押し上げたのだ。

そうした初代ヴェゼルの良さを、新型では見た目の格好良さを追求したあまり、もしや失ってしまったのでは…と危惧したのだ。

乗員の着座位置を見直すことで快適性がアップ

しかしそれは杞憂に過ぎなかった。新型ヴェゼルは、初代モデルの美点を生かしつつさらに進化していた。

実際に身長180cmの筆者が新型ヴェゼルを運転してみたところ、前方や左右、斜め後方とも視界は良好。低くて圧迫感のあるクルマに乗っている感覚もなかった。

車体設計を担当した本田技研工業 ものづくりセンターの井橋 祥共さん

本田技研工業 ものづくりセンター 完成開発統括部で車体設計を担当した井橋 祥共さんは『ボディサイズを大きく変えない基本設計の中で、前後席乗員の着座位置をすべて見直しました』と話す。

乗員は全体に若干低く座る姿勢にしながらも、後席の背もたれ角度を2度倒し、さらに着座位置自体も後退。着座姿勢と足元空間の広さを改善したという。初代ヴェゼルとも乗り比べてみたが、後席の快適度はむしろ増していたのだから驚いた。

初代ヴェゼルの後席は、荷室空間との兼ね合いもあって背もたれはやや立ち気味。リクライニング機構も備わるが、ユーザー調査の結果、あまり活用されていないことが判明した[乗員の身長は180cm],新型ヴェゼルの後席は、着座位置を後方にずらし足元空間を拡大させた。乗員の足元位置の違いに注目。また背もたれを2度後退させたことで着座姿勢の最適化も図られ、快適性を増している
初代ヴェゼルの後席は、荷室空間との兼ね合いもあって背もたれはやや立ち気味。リクライニング機構も備わるが、ユーザー調査の結果、あまり活用されていないことが判明した[乗員の身長は180cm],新型ヴェゼルの後席は、着座位置を後方にずらし足元空間を拡大させた。乗員の足元位置の違いに注目。また背もたれを2度後退させたことで着座姿勢の最適化も図られ、快適性を増している

さらに、水平基調の外形デザインで側面の窓開口部も直線的になり、開放感が増している。運転席側のインパネ回りも極力シンプルな形状を採用したことで視界も広い。これも閉所感を抑制する効果があったはずだ。

ドイツの有名オープンカーをベンチマークに! ドライバーの視野角に入る位置までガラス面を設置

ホンダ 新型ヴェゼルのパノラマルーフは、運転席からでも十分に開放感が得られるよう、開口部位置にこだわった

新型ヴェゼルに乗ってみてなにより良かったのは、PLaYグレードに標準装備されるパノラマルーフの開放感だった。

大開口部を誇るパノラマルーフなんだから、開放的なのは当たり前だろうと思うかもしれないが、一概にそうとも言い切れない。特に運転席側ではわざわざ頭上を見上げないと、開いていることを確認出来ないクルマも多いのだ。

昨今のクルマはフロントウィンドウの角度が寝ていて、ルーフの前端も後ろ側に寄っている。ルーフの開口部も必然的に後ろ寄りにせざるを得えない。だからせっかくの開放感も、主に後席の乗員だけが享受出来るイメージだった。

しかし前出の井橋さんは『そこは随分こだわりました』と胸を張る。

ドライバーが前を向いても無意識で感じられる視野角を基に、開放感を得られる最適な角度を研究

前席・後席共に、乗員が前方を見ている際でも、無意識に開放感を得られる視野角を意識して設計された新型ヴェゼルのパノラマルーフ。赤外線や紫外線、熱を遮断するLow-Eガラスを採用する。それでも陽ざしが強いと感じたらサンシェードを閉じればよい

パノラマルーフの開発にあたり、井橋さんたち開発陣は人間の視野角に注目した。前を向く人間が無意識に確認出来る視野は、上方で約50度だという。わざわざ見上げなくても解放感を実感出来るためには、ドライバーの目線位置に対し最低でもその角度に開口部がないといけないという訳だ。

そこで着目したのが、オープンカーだった。ドイツの有名スポーツカーなど世界のオープンカーをベンチマークし、実際にドライバーが開放感を得られる最適な角度を探した。

,

こうしたこだわりが実を結び、背もたれを立て気味にして座るうえ座高の高い筆者であっても、頭上の木漏れ日を感じながら心地良く試乗出来たのだ。後席も同様で、2枚に分かれた前側のパノラマルーフ開口部が、しっかり後席乗員の有効視野角以内に収まる設計としている。

夏が厳しい日本では、ガラスルーフはあまり好まれない傾向にある。しかし今回の新型ヴェゼルについてはぜひパノラマルーフをお勧めしたい。アイボリー系内装のPLaYグレードはさらに明るさが増す。この開放感を知ってしまったら、他のクルマに戻れなくなるかもしれない。

[筆者:MOTA(モータ)編集部 トクダ トオル]

© 株式会社MOTA