三陽商会・大江社長 単独インタビュー(前編)「百貨店も大胆なコストコントロールを」

  「ポール・スチュアート」、「マッキントッシュ ロンドン」、「エポカ」などの高級ブランドを擁する名門の(株)三陽商会(TSR企業コード: 290059666、東証1部)。2015年にバーバリーとのライセンス契約終了後、深刻な業績不振が続いている。  昨年2月、(株)ゴールドウイン(TSR企業コード: 590017411)で副社長を務めた大江伸治氏を社長に招聘、立て直しを進めている。東京商工リサーチは、2021年2月期まで5期連続で最終赤字(連結)を計上した三陽商会の大江社長に現状や今後の方針を聞いた。

―昨年5月の就任から1年が経った

  ビジネス環境はこの1年、本当に厳しかった。特に、新型コロナに振り回された。昨年10月、初めて前期の通期見通しを公表した。その時はコロナも下半期は収束に向かう前提で経費計画を公表した。だが、現実には収束どころか拡大し、想定を超えた。ある意味、誤算だった。コロナに対して1年通じ、ダメージコントロールを強いられたというのが率直な実感だ。

―コスト削減を徹底して行った

 PL(損益計算書)については、最低売上を確保することも勿論だが、とにかく仕込んでいる在庫をどうするかを優先した。特に、(2020年)春夏商品は私の着任前にすでに仕込み済みで、しかも前年まで過剰仕入の状況だったから大量の在庫が積みあがっていた。私自身、アパレルオペレーションはイベントリーコントロール(在庫調整)と考えている。だから、とにかく在庫消化を最優先して対処した。

―具体的には

 粗利率には目をつぶり、積極的にセールを仕掛けた。セールで消化できない商品は一部買取業者への処分販売もした。最終的にはライトオフ(損金処理)を行った。在庫は完全ではないが、ほぼ正常に近い水準まで削減できた。徹底して消化に努めた。かつ新規仕入を抑制し、期初の136億円を90億円まで削減した。昨年10月段階では100億円を予想していたが、さらに10億円を下回り、計画以上の結果になった。
 ただ、売上は通期予想通りで着地した一方、粗利率は粗利額を犠牲にしたことで大幅に下振れした。その対処として、徹底して販管費削減を実施した。

―事業構造改革については

 販管費は2019年度に300億円ほどかかっていたが、17億円の追加削減を含め245億円ぐらいに削減、ネットでも55億円圧縮した。販管費は再生プランを策定した時には2年間で40億円、初年度は25億円からスタートの予定だったが、結果として55億円を圧縮し、計画以上に進んだ。
 キャッシュの減少に対し、プライマリーバランスを確保した。そのうえで純利益は50億円近いマイナスとなった。自己資本比率は63.2%で、前期より1.2ポイント改善。負債資本比率も、ゴールドウイン時代からDER(負債資本倍率)を重視しているが、これも0.18倍だから相当低い水準。財務の健全性の観点ではコロナ禍の厳しい状況下だったが、改善できた。
 また、期末にコロナの影響が残ることを想定して希望退職を募集し、約12億5000万円の加算金を引き当てた。子会社株式も期末に売却して売却損が出たが、それらを除けば純利益は昨年10月に公表したマイナス35億円で着地できた。PLについては100%満足いく結果ではないが、状況変化への対応策を講じることでほぼニアピン圏内に着地できた。

三陽商会大江社長1

‌インタビューに応じる塩見社長(3月下旬)

―前期は不動産の売却も話題となった

 コロナ禍で一番ケアしたのがキャッシュフローだ。200億円の売上が喪失したので、キャッシュインが200億円消えた。それに対して、仕入、販管費などを抑制しキャッシュアウトを抑えた。銀座をはじめとする不動産、保有株など資産の売却を進めた。結果、70億円近いキャッシュを積みあげることができた。キャッシュフローは期初より積み上げることができた。
 事業構造改革は計画を上回る進捗ができた。今期の黒字化に向けての基礎的な作業はほぼ実行できた。具体的な施策も思いつく限りのことはほぼ実行できた。

―コロナ禍で百貨店での販売は厳しい

 百貨店のチャネルは全く否定するものでない。百貨店という売り場の将来性について、「なくなる」という極論もあるが、決してそんなことは考えていない。
 都心店の百貨店売り場の坪効率で言うと40~50万円は当たり前で、新宿の伊勢丹だと当社の坪効率で月100~200万円。経験から言うとこんなに高効率の売り場はなく、ある意味、百貨店売り場は坪効率からすると究極の売り場だ。だが、極めて高効率の売り場にもかかわらず収益を伴わない。百貨店も利益が出ない、当社も百貨店ビジネスでは収益が伴わない。それは百貨店の売り場が悪いわけではなく、オペレーションの中身が悪いと考えている。
一つは、百貨店のコストが高すぎる。百貨店のアパレルの場合、大半が消化仕入。当社が売り場投資をして販売員も派遣し、百貨店は場所を提供するのみの関係。商品リスクは100%当社が負う。逆に言えば、(百貨店は)費用負担もしない、リスクも取らないのに、3割以上の高い歩率を取りながら採算が合わないのは構造矛盾だ。もう少し、百貨店が企業努力をしてローコスト化してもらう。歩率を下げても利益が出る構造になれば、もっとフェアにプロフィットシェアができる。百貨店の損益分岐点を下げてもらう努力が必要だ。
 昔からの百貨店とのビジネスの常で、 “欠品が絶対だめ”という慣習。とにかく店舗在庫は厚めに積んでくれ、バックヤードも積んでくれ、と。我々の側からすると、売場計画を上回る量の商材を用意することは、不良在庫の温床となり「消化率の悪化」、「粗利率の低下」という悪循環に陥る。欠品をなくすために100の力がある売り場に「120の商品を用意してください」は、めちゃくちゃな要求だ。それを唯々諾々としてやっていた。
 取引形態が消化仕入なのだから、百貨店にとやかく言われる筋合いじゃない。なので、いま、百貨店向けのビジネスでは店舗在庫の持ち方や商品のハンドリングは、もう百貨店バイヤーの言うことは無視して、我々の理屈でやりますと言っている。在庫のハンドリングを徹底して効率化することによって、我々自身も歩留まりを高める。そうした努力を相互にすれば、百貨店さんとは互いに「win-win」の関係になれると思っている。

―地方百貨店から大手アパレルが相次いで撤退している

 バイイングパワーは大きく変わってきている。百貨店によっては、“百貨店自身の在り方を変えていこう”という機運も感じる。現実に、百貨店が殿様であった時代の商慣習はいま、相当変わってきている。これは、構造的に進行してきていたが、それをコロナが加速化させたという流れだ。

―アパレルと百貨店のパワー構造の変化は地方の方が度合いが大きい?

 そうだ。我々も前期160店ぐらい閉めたが、地方を中心にお引き留め頂いた。閉店は是々非々で進めていくほかなかった。都心だったら、1店なくなっても代替となる店舗は近くにあるが、地方にいくほど我々に対する依存度は高い。今回の退店交渉を契機に、従来からの取引の条件改定に応じてくださった百貨店も少なくなかった。

―ゴールドウインの再建時と比べると

 新型コロナという未曽有の事態で、環境はゴールドウイン時代よりも厳しい。ただ、再生プランに対する社員の認識は高く、意思統一されている。危機感も強い。当時はいろいろな抵抗があった。「仕入を半分にしろ」と言ったら、「売上が作れない」と反発された。ただ、この会社は理解度が高く、心を一つにしてやっていただいているという印象だ。
 部長クラス以上とはいろいろな会議で会話の機会もあり、コミュニケーションが取れる。一方で、若い社員がどういう風に考えているか把握できないところがあった。だから、5、6人のグループと対話をする「社長と話す会」を40回行った。空いた時間で全国の売り場を回り、販売員ともいろいろ会話した。
 ただ、会話をすれば意思統一ができる、というわけでもない。実際に行った施策の成果、例えば「在庫が減る」などはっきりした結果が表れるような体験を通じ、社員は手ごたえを感じる。自分が実践したことの効果が実証されると、モチベーションは上がる。トップダウン指示で実行する段階ではまだ疑心暗鬼だ。

-三井物産との関係性は

 私自身が物産OBということもあり良好だ。物産のスタンスは、重要取引先であり、かつ筆頭ではないがステークホルダーでもある。その割にクールなスタンスだった。なぜかというと当社自身の経営ビジョンがよく見えなかったから。特に、バーバリーがなくなって以降、経営方針についてクリアではないとか、将来のビジョンが見えないということで物産のスタンスはクールだったと聞く。
 私の入社以降は、再生プランや、いま、実行していることについて信頼・信任していただき、極めてサポーティブなスタンスになった。ポール・スチュアートの商標権譲渡も長年の懸案でやっと実現できたが、当社の将来の成長のために必要な資産であれば物産も協力しよう、実行に向けてやろうという経緯があった。人員についても出向で人的支援を受けた。(三井物産との)アライアンスは強まっている。(続く)

(続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年5月25日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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