〝ノリさん〟緊急登板で見えたJ2大宮となでしこの危機

緊急登板となった佐々木則夫氏

J2大宮は25日、成績不振を理由に岩瀬健監督(45)を解任し、チームのトータルアドバイザーを務める元なでしこジャパン監督の佐々木則夫氏(63)が暫定的に指揮を執ると発表した。今季はここまで2勝5分け8敗の勝ち点11で20位。J1再昇格どころかJ3への降格もチラつく状況とあって、2011年女子W杯を制した名将を引っ張り出さざるを得なくなった格好だ。

実はこの緊急登板、シーズン前から想定されていたようなフシがあった。

2016年からトータルアドバイザーを務めていた佐々木氏は19年秋に女子サッカーのプロ化を目指す「準備室」の室長に就任。その後「WEリーグ」発足の足掛かりをつくったことで役割を終え、今年1月から大宮の女子チーム「大宮アルディージャVENTUS(ベントス)」の総監督に就任し、WEリーグに参戦するチームの編成、強化を進めてきた。

なでしこジャパン時代の〝教え子〟の大野忍氏(37=本紙評論家)をコーチに招聘。MF阪口夢穂(33)、DF有吉佐織(33)を日テレから、DF鮫島彩(33)をINAC神戸からそれぞれ引き抜いた。岡本武行監督(53)のもとでチームはレベルアップを図り、先月から始まったプレシーズン戦でも可能性を感じさせる戦いを見せていた。

その一方で、佐々木氏は多忙を極めていた。今季から大宮はクラブ幹部が必ずチームの試合を見に行くという約束事ができ、佐々木氏はベントスだけにかかわるというわけにはいかなくなった。裏を返せば、佐々木氏に男子チームの現状を常に把握させることで、緊急登板に対応できるように備えていたことになる。

男子の不振をよそに、ベントスはプレシーズン戦で躍動。8日にNACK5スタジアムで行われた広島戦では、敗れはしたものの3000人近く集まったサポーターから試合後に熱い拍手で激励され、期待の大きさをうかがわせた。

しかし、男子の不振はベントスの選手、スタッフにとっても心配事。一部からは「ノリさんはベントスから離れていってしまうのでは」という声すら漏れていた。秋開幕のWEリーグからしても、新規参入で注目を集めるベントスは目玉の一つだが、佐々木氏が不在となれば話題性は大きく下がりかねない。

名将の緊急登板という〝切り札〟を使ってしまった大宮だが、立て直せるかどうかは不透明。佐々木氏を奪われる形となったWEリーグともども、幸せな未来は見えてこない。

© 株式会社東京スポーツ新聞社