タイヤの温めに苦戦も、新世代PUはモナコ特有の低速コーナーに「細かく対応していった」/ホンダ本橋CEインタビュー

 2021年F1第5戦モナコGPでは、レッドブル・ホンダが優勝、4位の成績を挙げた一方で、アルファタウリ・ホンダはピエール・ガスリー6位、角田裕毅16位完走という結果にとどまった。予選でのガスリーはフェラーリ、マクラーレンのライバルたちに伍して6番グリッドを獲得したものの、レースペースが思ったほど伸びなかった。

 タイヤの温まりに苦しみ、本来の速さを発揮するのに時間がかかってしまった」というのが、ホンダF1の本橋正充チーフエンジニアの分析だった。一方でパワーユニットに関しては、厳しかった燃費、接近戦での油温や水温の上昇にも「しっかり対応できた」と言う。また角田については、「初めてのモナコで、フリー走行のミスを繰り返すことなく、しっかり完走した。今後につながるレースだった」と評価した。

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──ピエール・ガスリーは6番手スタートから6位入賞でした。チーム側はもう少し上にいきたかった、いけたはずというコメントでしたが、本橋さんも同じ感触ですか。

本橋正充チーフエンジニア(以下、本橋CE):そうですね。クルマもよかったし、予選順位もいいところにつけられた。(シャルル)ルクレールが出ないことで、予選順位(実質5番手)ないしはそれ以上にいければと思っていました。

──ルクレールが出走せず、バルテリ・ボッタス(メルセデス)もリタイアしたこともあって、直近のライバルだったカルロス・サインツ(フェラーリ)、ランド・ノリス(マクラーレン)はそれぞれグリッドからふたつずつ順位を上げて、2、3位表彰台を獲得しています。ガスリーは同じようにはいかなかったと。

本橋CE:その通りです。

──ガスリー自身は、ハードタイヤに履き替えてからペースが伸びなかったと言っています。

本橋CE:ピットを出た直後にセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)と競ったのですが、抜ききれなかった。フリー走行でもアウトラップからのタイヤの温まりに苦しんでいて、そこが週末を通しての課題でしたね。交換したタイヤがハードだったのもあって、本来の速さを発揮するまでに時間がかかってしまいましたね。

──角田選手はハードスタートでしたが、やはり温まりに苦労したのでしょうか。

本橋CE:そうですね。フォーメーションラップで温める走りをしてくれていたのですが、ターゲット温度に比べると低かったですね。スタートでグリップ不足が響いて、ターン1、その先のターン3でポジションを落としたのも、その影響があったかと思います。

──これまでの4戦を見ても、今季のAT02はグリップのしっかり出るコンディションで実力を発揮できている印象です。

本橋CE:かもしれません。車体側の話なので詳しくはわかりませんが、低い路面温度だったり、滑りやすい路面だったりでは、ちょっとバランスが弱いかもしれません。ただモナコ初日のFP1では、路面がかなりスリッピーだったにもかかわらず、そこそこいい走りができていて、そんなに悪くない印象でした。要はそこから、いかに速さにつなげられるかというところかなと思います。

2021年F1第5戦モナコGPスタート ニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)、角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)、ミック・シューマッハー(ハース)によるポジション争い

──2日目は路面温度がかなり下がりましたが、ガスリーは速かったですしね。それがレースでは一転、ハードで苦労しました。

本橋CE:はい、タイヤの温めですね。アウトラップから何周目でアタックに出るかとか、予選ではそこがうまくいったわけですが、レースでのハードは厳しかったですね。

──トラフィックにも引っかからないよう、うまくコースに出すことができたのですか?

本橋CE:そうですね。チーム一丸となって、そこはうまくいったと思います。角田くんは重量計測に引っかかって、1アタック減ってしまったのは残念でした。

──2年ぶりのモナコ、そして新世代パワーユニットでは初めてのモナコでしたが、ドライバーからどんなコメントが来ていましたか。

本橋CE:しっかり準備してきましたが、やはり特殊なモナコということで、「ここはこうしたいね」という要望はもらいました。その辺りは初日から、調整しながら進めましたね。

──主に立ち上がりのトルクの出方とかですか。

本橋CE:全体的にですね。モナコ特有の低速コーナーで、低いギアを頻繁に使いますし。低回転、低車速でのトルクの出方です。単純に加減速時の注文というより低い回転のコーナー、特にローズヘアピン。あそこまで回転と車速が下がるコーナーだと、やはり新たな要求が出てくる。そこに細かく応えていきました。

──全23戦中、1速のコーナーは、あそこだけですよね。

本橋CE:だと思います。

2021年F1第5戦モナコGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)

──ガスリーはレース中ルイス・ハミルトン(メルセデス)にずっと追われる展開でしたが、セーフティカーが出なかったこともあって、燃費はかなり厳しかったのではないですか。

本橋CE:はい。けっこうキツかったです。燃費以外にもタイヤやブレーキなど、トータルで見ないといけない部分がいろいろありました。そこはガスリーがしっかり調整しながら、抑えてくれましたね。

──燃費に関しては、「セーフティカーが早く出てくれないと保たない」とか、そこまで切羽詰まってはいなかった?

本橋CE:なかったです。(燃費に)厳しいのは予想していたので、やることは明確でした。ハミルトンを押さえながら、どう保たせるか、そこはきちんとできていました。

2021年F1第5戦モナコGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)をオーバーカットしたピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)

──ガスリーにも、燃費について細かく指示を出したりしたのですか?

本橋CE:燃費どうこうというより、こんな走り方をしなさい、という感じでしたね。前後のクルマとのタイム差を伝えたり、そこは他のサーキットと同じでした。

──角田選手のモナコGPは、どんな風に見ましたか。

本橋CE:本人と話しても、初めてのモナコを楽しんでいた印象です。もちろん特殊なサーキットなのは彼も十分認識していて、「しっかり運転しなきゃ」とも言っていました。FP2で当たってしまいましたが、FP3以降しっかり(ミスを)封印した。セッティングも詰めるところは詰めていきました。

 レースはずっとトラフィックのなかで、フリーエアで走れたのはせいぜい4周か5周だったと思います。そこでの走りはバランスもよく、気持ちよく走っている感じでした。モナコで後ろについて走り続けるのは非常に難しいのですが、そこもミスなくしっかり走ってくれましたね。初めてのモナコで、ああいう終始接近しながらの状況でレースを完走したのは、やはり凄い。今後につながるレースだったと思います。

2021年F1第5戦モナコGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第5戦モナコGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第5戦モナコGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第5戦モナコGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)

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