なぜ建材加工会社がチョコレート専門店? 社長に尋ねて返ってきた従業員思いの答え

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香川県三豊市の詫間町。桜の絶景スポットとして有名な紫雲出山(しうでやま)があるほか、人気観光地・父母ヶ浜からもほど近くにあります。

JR詫間駅から徒歩10分ほどの場所に、2021年4月20日にオープンしたのがBean to Bar(※)のチョコレート専門店「RACATI」(ラカティ)です。

※Bean to Barとは、「カカオ豆からチョコレートバーになるまで、一貫して製造を行うこと」を指します。

RACATIのチョコレート(画像提供:モクラス)

倉庫を改装したおしゃれな店を経営しているのは、町内で100年以上続く建材加工会社、モクラス。

「なぜ建材加工会社がチョコレートを?」

そんな疑問を、社長の矢野太一さんにぶつけてみました。

100年続く企業の若手社長

モクラスは、1914年創業。香川県三豊市で100年続く老舗企業です。現在は、建材メーカーからの発注に基づき、クローゼットやリビング関連の製品といった、住宅の内装部材の加工が主な事業内容となっています。

モクラスの社名は「木(モク)+暮らす(クラス)」から。(画像提供:モクラス)

もっとも、このような下請けの事業形態では、受注量をコントロールすることが難しかったり、価格競争に巻き込まれたり、従業員にとって顧客の顔が見えずやりがいを感じるのが難しかったりと、たくさんの課題がありました。

2015年に社長に就任した矢野さんは4代目で、創業者の曾孫に当たります。

会社の今後を見据え、商品開発やマーケティング、販売のノウハウをつけていく必要性を感じ、2020年には自社ブランド「TREET」(ツリート)の企画・開発に着手。同年8月に実施したクラウドファンディングを通じて、第1弾の商品であるミニテーブル「chabu table」(チャブテーブル)を発売し、目標金額の345%を達成する大成功をおさめました。

第1弾の自社商品「chabu table」は、工具不要で組み立て可能なスピーカー機能がついたミニテーブル(画像提供:モクラス)

異業種展開、チョコレートブランド「RACATI」の誕生

こうしたチャレンジの一方で、矢野さんには、もうひとつ、気にかかっていることがありました。それは、今後自社で採用する予定の障がい者のことです。

工場内は、木材の切断をする機械をはじめとして、危険性が高いものが多く、障がいがある人には可能な作業が限られる場合があります。

建材加工工場では大きな機械を使用して作業している(画像提供:モクラス)

「安全で、かつ、やりがいのある仕事、働く喜びを感じられる仕事を提供できないだろうか」
「社員にとって、良い環境を整えるにはどうしたらよいのか」

考える日々の中、視察で訪れた広島県でBean to Barのチョコレートを製造販売するショップに出会い、衝撃が走りました。そこでは実際に障がい者がつくったチョコレートが販売されていたのです。

最初から最後まで、一貫して製造に関わり、直接客に販売。客が喜ぶ反応も見えるため、やりがいもあります。今まで建材加工分野ではできなかったことができるのではないか、そして、障がい者が働く際の「力」になれるのではと考え、モクラスの異業種展開の挑戦が始まりました。

Bean to Barはカカオ豆の選定から始まる(画像提供:モクラス)

ブランド名は「RACATI」(ラカティ)と名付けました。反対から読むと「TICARA」(チカラ)となります。カカオの「力」を通じて、カカオ生産者、チョコレートの作り手、そして食べる人のいろいろな「力」をサポートしていきたい、という思いが込められているそうです。

チョコレート製造は店長のnobukoさんが担当(画像提供:モクラス)

空き倉庫をリノベーション

店舗は、もともと会社の所有で、空き倉庫となっていた建物をリノベーションしました。

大きな倉庫の一角をリノベーションした店舗

チョコレートを販売するだけでは広すぎるため、イートイン機能を持たせようということで、「trunk」と名付けた施設内には、RACATIの店舗とコミュニティスペースが設置されています。

trunk内の様子。今後は奥の箱のようなスペースを活用したコミュニティ作りの取り組みも予定

施設の中は、モクラスの主力事業である建材加工のショールームを兼ねており、「chabu table」はもちろん、壁材や椅子、テーブルなども自社で作ったオリジナルのものを配置しています。

trunkに置かれたchabu table
オリジナルデザインのテーブルと椅子 モクラス工場内で加工している

チョコレートを買いに来た人に、モクラスの技術を見てもらうきっかけにするだけではなく、普段木材加工の作業をしている社員にも見に来てもらって、仕事の成果を見る場所にしてほしい、との願いが込められています。

飛沫感染防止のためのアクリル板 工場内でインクジェット印刷している

4代目社長が見据える未来

最後に、モクラスとしての今後について聞きました。

中心事業である建材加工業では、単に建材メーカーに言われた製品をつくるのではなく、自社から企画・提案をもちかけ、一緒に事業を作っていくような協力企業になるべく邁進していくそうです。RACATIとしては、この地域でしっかりと続けていくこと、そして、「三豊市詫間町にはRACATIがある」というのが当たり前の「風景」になることが目標とのことでした。

「後継者となる次の世代にバトンタッチするときに、この会社でやりたい、と思ってもらえるようにしておくのが自分の役目」と言い切る矢野社長。

地域に生かされ、地域に根差した形で、時代に応じた経営をしていくよう努めている矢野社長。建材とチョコレートは一見、全く別の事業に見えますが、会社の未来を思い、周囲の人々の「力」になりたいと願う社長にとって、そこには一本の筋が通っていたのです。

100年後の未来を見据え、夢は広がります。

牛込麻依