【インドネシア全34州の旅】#4 南カリマンタン州 川の街の水上マーケット

文と写真・鍋山俊雄

「水上ハウス」とでも言えばよいのか。インドネシアでは川沿いや湖の湖岸線沿い、そして海岸沿いにも家屋を見ることができる。中でも、南カリマンタン州の州都バンジャルマシンは、バリト(Barito)川に面し、マルタプラ(Martapura)川が街中を走る川の街。ここの見所は水上マーケット(Pasar Terapung。terapung=浮いた)で、アジアのいくつかの場所にあるらしい「東洋のベニス」の一つなのかもしれない。

商品を積んだたくさんの小舟が集まる水上市場

バンジャルマシンまでは、ジャカルタから飛行機で1時間40分ぐらいで到着した。70万人弱の人々が暮らす人口密度の高い街で、街中は相応に渋滞もあり、大きな地方都市の風情である。

バンジャルマシンに到着。大きな川が見える

まずはマルタプラ川沿いの支流にある集落をボートで見学した。川の水は決してきれいとは言えないが、一方で淀んでいるわけではないので、嫌なにおいもほとんどない。ボートでのんびり案内してもらっていると、川の両岸の家々からは日常の生活音、子供たちのはしゃぎ回る声がして、インドネシアのどこにでもあるカンプンのような雰囲気である。ただし通常のカンプンと大きく違うのは、私の乗り物が船というところだ。住民を乗せた渡し船も行き交う。

水上家屋街を船で進んでいく

家から一段降りた川の上に、板で囲われた小さな箱のような物がある。これがトイレ。その横には板場があり、そこで水浴びをしたり、洗濯をしている。同じような風景をインドネシアのいくつかの場所で見たが、初めて見た時は結構な衝撃だった。川で洗濯、トイレ、水浴のすべてを済ませていることについて、衛生面も含めて住民はどう思っているのか、とガイドに聞いてみたところ、飲料・炊事用の水は別途買っているし、常に水は流れているから、まったく抵抗はないらしい。

家の前にある川沿いの小さな小屋がトイレ

船に乗ってカメラを構えていると、家の軒先や道で遊んでいた子供たちや住民が楽しそうに手を振り、声をかけてきて、写真を撮ってくれとポーズを取ってくる。インドネシアでは外国人のカメラに対してすごく積極的な地域とカメラシャイな地域があるように思うが、ここは間違いなく積極的な方である。私は日本人のあまりいない場所へ行くと、よく「bule(白人)」と間違えられる(あまり日焼けしてないせいか)。このマルタプラ川周遊での約1時間は、およそすべての人に「Bule, Bule」と言われて手を振られる始末であった(訂正するのも面倒くさいので手を振り返しましたけど。笑)。

カメラを持っていると、あちこちから声をかけられる

川で水浴、その横では洗濯も

モスクも水上に建つ

観光客のボートが来るのを見つけた子供たちは、次々と川に飛び込んで、ボートに向かって泳いで来る。1人、2人と次々に、ゆっくり進むボートに乗り込み、カメラに向かってポーズを取る。一通り撮影会が終わった後、また、川に勢いよく飛び込んでいった。のどかな生活感いっぱいの風景をのんびり楽しんだ。

両岸から次々と子供たちが川に飛び込む

するすると船によじ登り、あっという間にみんな集合

記念撮影の後、また次々に川へ飛び込んで行った

集落が集まる支流を出て、またホテルに向かうために本流に戻る。本流は川幅も広く流れも速くなるが、まだここにも水上住宅街が並んでいる。さすがに泳いでいる人はいないが、ぎっしりと並ぶ家のテラスに座って休憩する人たちが手を振ってくる。

支流から本流へ。船向けの標識も見える

本流でも川沿いには家が並ぶ。深いので支柱が高くなっている

船の集積所や修繕場所が点在していた

ホテルの目の前の桟橋に到着

翌朝は午前5時出発。ホテル横の桟橋から、ボートに乗り込む。まだ日の出前で静まり返ったマルタプラ川を、スピードを上げて上流に進んで行く。1時間弱で、水上市場の開催されるロック・バインタン(Lok Baintan)に到着した。日の出が近付き、うっすらと辺りが明るくなる中、川のいろいろな所から、ボートが近付いてくる。日の出前に、すでに数十艘も集まり、商売が始まっている。

川面が朝日の色に染まる中、上流へ向かう

まだ暗いうちから、船が上流からやって来る

この水上マーケットは、バンジャル王国の時代(16〜19世紀)から続いているそうである。船はほぼすべてが女性の1人乗りで、売っているのは旬の野菜や果物が中心だが、魚介類、米なども見られる。観光客を乗せたボートにも、周りを取り囲むように船が集まって来る。

いっぱいに商品を積んだ船が集まり始める

米を量り売りする

スイカを売るおじさん

揚げ物を売る

船が集まって水上は活気に溢れる

船の女性たちは顔に白い粉を塗っている。日焼け止めだろうか。日が上って日差しが強くなってくると、皆、大きな丸い日よけ帽子をかぶる。

船には前から後ろまでぎっしり商品が

午前6時ごろに集まった数十の小船は、全体でゆっくりと下流に流れながら、商売が続いていく。午前8時過ぎまで続き、始まりの位置から数キロほどを下って行くそうである。川を渡る吊り橋の上を、学校に向かう子供たちが渡って行った。

川沿いの商店もある

水上マーケットを見た後は、バンジャルマシンの街中をアンコットで少し周遊して、バンジャルマシンの大モスク(Sabilal Muhtadin Mosque)などを見学した。バンジャルマシンは人口の約9割がムスリムだ。

バンジャルマシンの大モスク

街中の雰囲気はほかの都市と似ている

ガイドによると、バンジャルマシンには機能が集中しすぎているため、空港のあるバンジャルバルでの開発が進んでおり、いずれ官公庁などはそちらに移る予定とのことだ。

バンジャルマシンから約45キロ離れたチェンパカ(Cempaka)村にはダイヤモンド発掘場所があり、インドネシア史上最大のダイヤが採れたことがある。原石を加工したり販売する場所も近くにあるそうだ。

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