ジェンダーギャップ、私たちは埋めたい 挑戦する3人に聞く

 スイスのシンクタンクが毎年発表する156カ国を対象にしたジェンダー・ギャップ指数で、日本は120位だった。このギャップをどうにか埋めたい―。スポーツやIT分野、メディアの世界で、ジェンダーの問題、ギャップ解消に挑戦する20代、30代の女性3人に話を聞いた。(聞き手はいずれも共同通信記者)

【クリエーティブディレクター辻愛沙子さん(25)】(聞き手・宮川さおり)

インタビューに答えるクリエーティブディレクターの辻愛沙子さん

  ▽仕掛けたワンコイン検診

 ―女性が抱えるさまざまな課題について情報発信する「Ladyknows(レディーノーズ)」というプロジェクトを2年前に立ち上げた。

 「上場企業の女性役員の少なさや、他国に比べ際立つ無痛分娩(ぶんべん)の少なさなど、女性が置かれた現状をデータで理解してもらおうと思ったのが出発点。若い女性を対象にした『ワンコイン検診』、自分がプロデュースした飲食店で『投票に行った人はタピオカ半額キャンペーン』も手掛けてきた」

 「検診のイベントは、健康診断を1年以上受けていない人の割合が20~30代女性で高いことから思い付いた。30代は男性の25%に対して44%。男性に比べて正社員割合が少なく会社の健康診断の機会に恵まれないことや、経済的余裕がないことが理由として浮かぶ。受診していれば命を落とさずにすんだ人は大勢いたと思う」

 ―どんな点を意識したのか。

 「費用を500円にしても検診を面倒くさいタスクと考える人は行かない。なので、普段結婚式場として利用されているおしゃれな建物を選んだり、チェスの駒を模した身長計を置いたりして、行きたくなる、SNS(会員制交流サイト)にシェアしたくなるようなデザインを意識した。日ごとにSNSを通じて情報が拡散。5日間で検診100人、全体では3000人が集まってくれました。費用は、女性の健康に関心がある企業に協賛してもらった」

インタビューに答えるクリエーティブディレクターの辻愛沙子さん

 ▽ポップな表現で届ける

 ―Ladyknowsを通じて目指すものは。

 「よく『女の子頑張れ』って言う声もあるけど、もう頑張っている。個人の努力では越えられない、社会の壁、不均衡がある。それを無くしていきたい。自助が足りないと切り捨てるのではなく、いっぱいいっぱいの人の支えになりたい」

 「問題に無関心な多数を動かすためには、『なんだか難しい』と流されがちな話を、時流に乗ったポップな形で表現し、いかに分かりやすく届けられるかが鍵になる。広告の仕事に携わる自分が力を発揮できるところだと思う。ジェンダー問題に取り組んでこられた諸先輩方の築いたものに敬意を払いながら、今の若い世代に幅広くメッセージをどう届けるか。八方良しは簡単ではない」

 ―活動していて感じる難しさは。

 「怒りにのみ込まれずに『社会を変える』というゴールを見失わないよう注意している。こんなことばかり考えていると、ときどき疲れて弱音を吐きたくなることもある。そういうときは自分にこう話し掛ける。『この戦いはものすごく長い間続いてきた人類規模のマラソンのようなもの。全力疾走ではなく、一つの区間をつなぐつもりでゆっくり走ろうよ』って」

【Waffle代表の田中沙弥果さん(29)】(聞き手・小田智博)

インタビューに答える「Waffle(ワッフル)」代表の田中沙弥果さん

 ▽IT分野にもっと女性を

 ―19年、IT分野に携わる女性を増やす活動のため、一般社団法人「Waffle(ワッフル)」を立ち上げた。きっかけは。

 「小学校でプログラミング教育に関わった際、子どもたちは性別に関係なく楽しそうに取り組んでいた。しかしプログラミングのコンテストに出る中高生は圧倒的に男子が多く、エンジニアの仕事を選ぶ女子の割合は少ない。現状を変えたかった」

 「事業の一つとして、女子中高生限定のホームページ作成講座をオンラインで開いている。一般的なプログラミングスクールには男子が多く、女子は行きづらいようだ。私たちの講座に参加すると、興味があるのは自分だけではないと分かり自信が付く。講師役は20~30代の女性で、将来像もイメージできる。受講を機にビッグデータを解析するデータサイエンティストを目指すようになった子もいる」

 ―どうして、IT分野では女子が少ないのか。

 「高校で進路を選択する際、理系を選ぶ女子が少ない。理数系科目の教員に男性が多いことに加え、女子はそうした科目が苦手という誤ったイメージが根強いことが影響している。周囲が女子の理系選択の背中を押してあげる必要がある」

 「性別に基づく偏見が保護者にあるのも大きな要因。『女の子なんだから文系』と決め付けたり、理系を選ぶ場合でも『長く働けるから』と薬剤師などの医療分野ばかりを強く勧めたり。女子生徒自身も、工学部など女性比率が低い分野には『男性が多いから行きたくない』となりやすく、男女比の偏りが改善しにくい一因となっている」

インタビューに答える「Waffle(ワッフル)」代表の田中沙弥果さん

 ▽もやもやを言語化

 ―女性がIT分野を目指す意義は。

 「新型コロナウイルス禍は、飲食店などで非正規雇用として働く人が多い女性に大きな影響を及ぼした。一方、さらに成長が見込まれるIT分野は人材不足が指摘されており、スキルがある女性を求める波が来ている」

 「米IT大手のアマゾン・コムは、採用選考のために人工知能(AI)の開発を進めていたが、採用実績が少ない女性をはじくと分かり、開発を中止したという。IT業界のジェンダーバランスの改善は、こうした問題への感度を高めることにもつながる」

 ―以前からジェンダー問題に関心があったのか。

 「ずっともやもやはあった。亭主関白な父と専業主婦の母の下で育ったが、留学先のホストファミリーは男女に関係なく平等に家事をしていて「この違いは何だろう」と。ジェンダーのことを学んで、もやもやが言語化されたように感じた」

 「エンジニアではない自分が改善に取り組むことにためらいもあったが、誰もやらないならと決意した。大きな反響があり、求められていたと感じる。やる以上は、女性が男性を上回る状況を目指したい」

【東京五輪自転車ロードレース競技代表の与那嶺恵理さん(30)】(聞き手・三浦ともみ、岩澤隼紀)

東京五輪自転車ロードレース代表の与那嶺恵理さん(本人提供)

 ▽声上げる、次世代のため

 ―国際自転車連合のワールドツアーに参加するプロ選手による労働組合「プロサイクリスト協会」で昨年、女性アンバサダー4人のうちの1人に選ばれた。女子選手を代表し、地位向上に向けて活動する。

 「性差別の存在を意識するようになったのは、大学生で自転車のロードレース競技を始めてから。初出場で2位となった全日本選手権では、1時間ほどのテレビ放送で、女子のレースはわずか数分しか取り上げられなかった。同じ日にあった男子のレースに大半が費やされていた。『なんだこれ』と、とにかく衝撃だった」

 「プロ選手になり国内外のレースに出場するようになると、今度は歴然とした待遇格差にぶつかった。同じルールの下で、性別に関係なく努力しているのに、賞金も所属チームから支払われる年俸も男女では10倍ほど開きがある。競技関係者やメディア、スポンサーの間に『男子こそ花形』との思い込みが根強いのだと思う。そういう競技はまだまだ多い」

 「プロサイクリスト協会のアンバサダーとして発言できるチャンスを得た。今後は、賃金など待遇格差の解消をチームに求めるなど、女子選手の地位向上に貢献したい」

トレーニングする東京五輪自転車ロードレース代表の与那嶺恵理さん=スペイン(本人提供)

▽中高生にも情報を

 ―ブログなどで、生理など女性特有の体との付き合い方も医師と連携して発信している。

 「自転車競技をするようになってから、運動量の増加がストレスとなり、人生で初めて生理がこなくなった。国立スポーツ科学センター(JISS)に相談すると、生理周期を整える低用量ピルの服用を勧められ、婦人科も受診できた」

 「トップ選手だからこそ、すぐにJISSにつながり、専門的なアドバイスを受けられた。部活動をする中高生ら若い世代も、体に関わる情報を簡単に得られる環境が必要だ。私自身、テニス部で活動していた中高生のときは何も知らなかった」

 ―競技をしながら、ジェンダー平等など社会問題について積極的に発信するのはなぜか。

 「日本ではスポーツ選手が声を上げることは珍しいし、特に女子選手が意見を言うとたたかれやすい。だが、五輪日本代表となった以上、その影響力を生かして言うべきことは言わないといけない」

 「新型コロナウイルス禍で多くの人が大変な困難を抱えている中で、プロスポーツの役目は何だろうかと考えた。従来の『強く速い』だけでは不十分。どうしたら、次の世代や、差別にさらされてきた女性たちにより良い未来を残せるか。社会的影響力のあるスポーツ選手の行動が問われている」

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 つじ・あさこ 東京都出身。19年、広告・ブランドプロデュース会社「arca」を設立。報道番組「news zero」水曜パートナーも務める。

 たなか・さやか 大阪府富田林市出身。大学卒業後、テレビ番組制作会社などを経て17年にNPO法人「みんなのコード」入職。国への政策提言にも積極的に取り組む。

 よなみね・えり 堺市出身。神戸女学院中高部、筑波大を経て、16年リオデジャネイロ五輪の自転車ロードレース競技に出場した。OANDA Japanに所属し、オランダを拠点に活動。

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