第10回 科学の甲子園全国大会 京都府立洛北高校が初の日本一

総合優勝した京都府立洛北高校のメンバー

第10回科学の甲子園全国大会(科学技術振興機構主催、茨城県など共催)が、3月19~21日の3日間、つくば市のつくば国際会議場およびつくばカピオで開催されました。昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け全国大会が初の開催中止、今年は2年ぶりの全国大会開催(無観客)となりました。選抜された全国47都道府県代表校は、1・2年生の6~8人から成るチームで科学に関する知識と活用能力を総動員して課題に挑戦し、総合点を競いました。筆記競技および実技競技3種目の得点を合計した総合成績により、京都府代表の府立洛北高校が2回目の出場で初の総合優勝を果たしました。2位は私立渋谷教育学園幕張高校(千葉県)、3位は静岡県立浜松北高校でした。

優勝の喜び「開催してもらえた喜びと、支えてくれた皆様に感謝」

京都府立洛北高等学校は、1870年に開校された京都府中学校(日本最古の旧制中学校)を前身とする歴史と伝統のある府立共学校です。「科学の甲子園」には、第6回大会で初出場を果たし、今回2回目の出場で見事総合優勝の栄誉に輝きました。

今年のメンバーはサイエンス部競技科学班の德田陽向(キャプテン)さん、飯田健太さん、小田涼一郎さん、関子龍さん、宗野真幸さん、髙畑倫太郎さん、嶽釜伸太郎さん、田中友翔さんの8人。表彰式では、チームメンバー6人(※德田さん、宗野さんは他イベントに参加のため、表彰式には不参加)で登壇し優勝旗・トロフィー・金メダルを授与されました。

優勝校インタビューはチームを代表して関さんが「このメンバーで優勝できたことは本当に嬉しく感動しています。自分たちはこのコロナ禍の中で、あまり集まることを良しとはされていない環境にあって筆記の勉強だけではなく、(事前公開されている)実技競技の練習をどううまくやっていくかということに一番苦しみました。いまだこの苦しい状況の中でそもそも(大会を)開催してもらえたことが本当にいろいろな人の力があってのことだと感謝していますし、ここまで支えて下さった教職員の皆様にも両親にも感謝したいし、こうやってみんなで集まれたことが本当に嬉しいです。みなさん、ほんとうにありがとうございました」と堂々と優勝の喜びや感謝の気持ちを述べました。

2位 私立渋谷教育学園幕張高校

3位 静岡県立浜松北高校

コロナ過の厳しい状況の中正々堂々と競い合った

2年ぶりに全国大会開催!606校7168人がエントリー

科学の甲子園は、全国の科学好きな生徒が集い、競い合い、活躍できる場を提供し、科学好きの裾野を広げ、能力伸長を目的としています。今年の大会には、606校から7168人のエントリーがありました。

開会式では、代表校の紹介が行われ、各校が思い思いにチームをアピールし、最後に決めのポーズを披露しました。大会は初日に科学に関する知識とその応用力を競う筆記競技を、2日目に実技競技を行い、最終日に表彰式と優勝校記者会見が行われました。

「第11回科学の甲子園全国大会」は令和4年3月下旬に茨城県つくば市で開催される予定です。

筆記 教科・科目の枠組みを超えた 融合的な問題に挑む

筆記競技は各チームから競技者6人を選出して行われました。競技時間は120分。理科、数学、情報の中から習得した知識を活用して解く問題で、教科・科目の枠組みを超えた融合的な問題など計12問に挑みました。

第2問のゴルフの設問では、ゴルフボールの位置からカップまでの断面図が示され(地形は平坦なスロープからなる山型)、ゴルフボールとカップが同一水平面上にあるとき(ゴルフボールの大きさは考えず転がりの影響は無視する)に斜面にゴルフボールが留まっていられる条件やパターでゴルフボールを打った時のボールの初速をヘッドスピードで表したり、山型の頂点に到達するまでのボールの運動方程式を問うなど、数学や物理という分野融合的な問題でした。【ページ下に解説】

選手は、教科・科目の枠を超えた問題に対し、得意分野の異なるメンバーが、チームワークを発揮し、難問に挑みました。筆記競技は渋谷教育学園幕張高校(千葉県)が最高得点をあげ、第1位の花王賞に輝きました。

実技① Challenge―18プログラミングで問題を解く!

「Cha llenge ‒18」(競技者3人・競技時間100分)は各チームに2台の競技用PCが配布され、そのPCから競技専用のサイトへログインして、情報に関する問題を解く競技。問題は【素数】【竹内関数】【2進法】【和が決められた数列】【約数】【部分文字列】【整数】【ドレミ暗号】【文字列操作】【数列操作】の10のカテゴリーからなっており、これらを解くためには知識のみならず、計算が必要となってくる。計算は手計算だけではなく、効率よく計算結果を出せるようPCでプログラミングを行うことが求められた。プログラミングによる問題解決の有用性を感じてもらうことが意図されています。【ページ下に解説】

今回は、筑波大学附属駒場高校(東京都)と愛知県立旭丘高校が全問正解しましたが、特定の問題の解答時間により順位が決まる方式が組み込まれており筑波大学附属駒場高校が1位となりました。

実技② Xの正体を暴け! 3種の実験で有機酸Xの構造式を推定

「Xの正体を暴け!~アスコルビン酸と有機酸Xの滴定~」(競技者3人・競技時間100分)は与えられた白色粉末(アスコルビン酸と有機酸Xの化合物)に3種類の実験を行い、アスコルビン酸と有機酸Xの混合比を決定し、有機酸Xの構造式を推定する競技。採点では実験手順や実験結果、考察なども問われるため、十分な実験計画をたてることや実験技術の高さや正確さ、豊富な知識や思考力、発想力、チームワークなど複合的な要素が求められました。【ページ下に解説】 最高得点を獲得した北海道旭川東高校が1位に輝き、旭化成賞を受賞しました。

実技③シャトルウィンドカー自ら作り出す風を力にして進め!

事前に公開された実技競技の「シャトルウィンドカー~全集中!科学の呼吸~逆風を追い風に」(競技者4人・競技時間150分)は、用意された部品・材料と工具類を使用して、60分以内に自作のファンをモーターに取り付けた機構(送風機構)から出る風のみを推進力とするシャトルウィンドカーを製作し、規定のコースのスタート・ゴールエリアからリターンエリアの間を、荷物なしと荷物ありでそれぞれ往復して、スタートからゴールまでの2往復にかかった時間とゴール時の荷物の重量を競う。

送風機構はウインドカーに固定されるため、向きを変えることなく直線上のコースを走らせないといけないので、進行方向を反転させる反転機構が必要となる。事前公開されていたため、各チーム準備万端で臨んでいたが、午後6時過ぎに、宮城県で震度5強の地震が発生した影響で2回目の試技が中止となるハプニングがあった。

1回目の試技で満点をだした7チームが1位となり抽選により、群馬県立前橋高校がアジレント・テクノロジー賞、栄光学園高校(神奈川県)がナリカ賞、総合優勝を飾った京都府立洛北高校、富山県立富山中部高校、愛光高校(愛媛県)、土佐高校(高知県)、宮崎県立宮崎西高校の5校が優秀賞となりました。

筆記競技(物理) 解説

◉第1問

IHクッキングヒーターに利用されている電磁誘導の問題である。良問である。電源につながれた大きな円形コイルaと、その中心を一致させて何もつながれていない小さな円形コイルb がおかれている。コイルaに変動する電流を流すと、コイルbを貫く磁束も時間変化し、その結果、コイルbに誘導起電力が生じ電流が流れ、コイルbにジュール熱が発生する。このしくみを、コイルaにモデル化した変動電流(図4)を流した場合に、5つの設問を出し答えさせている。問題を解くうえで必要な式はすべて与えられている。

それらの式を如何に利用するか、理解力が問われることになる。電流の向きと磁束密度の向きによって値の正負が決められているので、グラフを書くときに注意が必要である(問1と問2)。さらに、普通、電気抵抗を表す文字Rが、ここでは、単位長さあたりの電気抵抗を表すとして使われているから、間違わないようにしたい(問2と問3)。

コイルaに電流を流すためには、電源から電圧を加える必要があるが、問4では、コイルaにかけるべき電圧をコイルbがあるときとないときで比較し、「(i)より大きい;(ii)より小さい;(iii)同じ」電圧をかける必要があるとの3択で答えさせ、その理由を書けとある。この問4は、「コイルbで発生するジュール熱はいったいどこからきたのか」を考えさせる問題であり、作成者の意気込みが感じられる。

実は、コイルaに流れる変動電流はコイルbに誘導電流を生じさせるが、逆に、その誘導電流でコイルaに誘導起電力が生まれ、それが元の電圧を下げる方向に働く。よって、コイルbがあるときも、コイルaに流れる変動電流をそのまま維持するためには、コイルbの誘導電流によってコイルaに生じる誘導起電力の分を補うだけの電圧を加えなければならない。実際に、コイルaに生じる誘導起電力とコイルaに流れる電流との積(外から追加した電力)とコイルbで生まれる電力(単位時間あたりのジュール熱)とが時間平均をとると等しくなることを示すことができる。

問5では、モデル化した装置で実際に数値を代入して発生するジュール熱を計算する。パワーを増すため、コイルbを10巻き、コイルaを100巻きにした。この巻数が発生するジュール熱にどのように効いてくるかを問う問題でもある。

◉第2問

ゴルフ競技を扱った力学の問題である。グリーン上でパターを使ってゴルフボールをカップに入れる。ゴルフをしたことのある人にとっては興味ある内容である。ボールの転がりを無視して質点とみなし、運動を直線経路に沿うとしているので、一見、簡単そうに思えるが、ゴルフボールの位置とカップまでの間に、上りと下り、角度の異なるスロープが用意されていて、その作問に工夫が見られる。問1は静止摩擦係数、問2は動摩擦係数についての問題である。

問3は、運動量保存式とはね返り係数の応用問題。問4は、問2で求めた運動方程式を解くか、摩擦によるエネルギーの消費を考慮に入れた力学的エネルギー保存の法則を応用すればよい(問5も同様)。ゴルフボールとカップの位置は、角度の異なるスロープからなる山の両端にある。その位置を入れ替えた場合に、頂点を越えるために必要なヘッドスピードはどちらの方が大きくなるか理由をつけて答えさせている(問6と問7)。面白い問題である。

第10回科学の甲子園全国大会では、京都府代表の京都府立洛北高等学校が優勝したそうである。母校のOBとしては嬉しいニュースである。

横浜国立大学名誉教授 佐々木 賢

実技競技詳細解説

実技競技❶ 解説

Challenge-18

実技競技①は、1チーム3名が協力し、配点の異なる18問の数学・情報に関する問題を解き、制限時間100分内に、正解した問題で得られた合計得点を競う競技であった。また、事前資料には出題される問題の6割程度はプログラムにより計算を行わなければ解答が得られないという旨が書かれていた。

今回の競技内容は競技プログラミングといわれる、与えられた要求を満足するプログラムを正確に記述するプログラミングコンテストと同じようなものであり、これらはコンピュータサイエンスや数学の知識を必要とする問題が多く出題されることが特徴である。

競技プログラミングは国内外問わず開催されており、AtCoder、Topcoder、ACM国際大学対抗プログラミングコンテストなど有名なコンテストが沢山存在する。特に今回の形式に非常に近いものとしてProject Eulerといわれるコンテストがある。このコンテストでは、挑戦しがいのある数学/コンピュータプログラムの問題が出題されており、これを解くためには単なる数学的洞察以上のものが必要とされる。

また、数学の知識があれば簡潔で効率的に問題を解くことができるが、多くの場合はコンピュータとプログラムの技能が必要とされる。

【素数】の問題は、ある決まった範囲の素数を印刷すると「1」は何回印刷されるかというものであった。範囲が小さいものであれば、直接プログラムを書くよりも紙に書いて数え上げた方が早いが、範囲が大きい場合は、どのように素数を求めるかというのが肝になる。有名な方法として「エラトステネスの篩ふるい」がある。

【竹内関数】とは、プログラミング言語処理系のベンチマークなどに使われる、再帰的に定義された関数であり、1974年に竹内郁雄によって考えられたものである。再帰的に定義されの関数には、フィボナッチ数列やアッカーマン関数などがある。

【2進法】の問題は、2進法で表されている数を10進法で表し直す問題であった。頑張ってプログラムを書いて求めることも出来れば、パソコンを電卓代わりに使って解くことも出来る。また、手計算で求めることも出来るが、ちょっとした工夫をすることで手計算でも効率よく簡単に求めることも出来る。色々な手法で求めることが出来る面白い問題であった。

【和が決められた数列】の問題は、自然数の分割に関する問題であった。自然数nに対して、その順番の違いを除いて自然数の和として表す方法の個数を分割数といいq(n)で表し、互いに異なる自然数に分割する方法の個数を異分割数といいq(n)で表し、自然数nに対して、奇数の自然数に分割する方法の個数を奇分割数という。このとき、問1はq(50)を求める問題であり、問2はp(50)を求める問題であった。また、問3は異分割数と奇分割数は等しいという「オイラーの分割恒等式」よりq(50)と同じ値になる。

【約数】の問題は、約数関数

に関する問題であった。特に、(n)=(n)、1(n)=(n)と表記されることもある。d(n)や(n)は具体的な求め方が知られており、

に対して

となる。余談であるが、(n)=2nとなるnは完全数として知られており、(n)=knとなるnはk倍完全数といわれている。つまり、完全数とは2倍完全数のことであると見ることも出来る。

【部分文字列】の問題は、部分集合の考え方に関する問題であった。文字が全て異なる長さnの文字列の部分文字列は、べき集合の考え方より2n個の部分文字列が出来る。文字が全て異なるとは限らない場合は、同様の方法で得られた2 n個の集合に対して和集合を考えれば、重複している部分が取り除けて題意の文字列の集合が得られる。今回の場合はn=11と小さいため、2048個の中から重複部分を取り除く方法でも現実的な時間で解くことが出来るが、nが大きい場合は、動的計画法による方法が現実的である。

重要な部分をザックリ説明すると、1文字目からk文字目までの文字を用いた部分文字列が出来ていたとする。これらの部分文字列とさらに末尾にk+1文字目を追加したものの和集合を求め、これを1文字目からk+1文字目までの文字を用いた部分文字列とする。以下これを繰り返して求めていく方法である。

【整数】の問題は、タクシー数、コラッツ予想、ゴールドバッハの予想などの整数論の未解決問題を、プログラミングを用いて味わう問題であった。以下に、これらの問題に関連することをいくつか述べることにする。

• タクシー数の問題の拡張として、次の命題が知られている。「すべての自然数Nに対し、3次曲線x3+y3=がxもyも共に正となる少なくともN個の整点をもつ整数m0が存在する。」

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