【インドネシア全34州の旅】#6 西カリマンタン州 春分の日に赤道へ。影がなくなった!

文と写真・鍋山俊雄

赤道と聞くと、なんとなく暑い所といったイメージだろうか。日常生活で赤道を意識することはないが、インドネシアは赤道直下の国である。世界地図を眺めてみると、赤道が陸地を通る国は多くなく、アジアではインドネシアだけである。

ある時、3月のカレンダーを見ていたら、春分の日がたまたま週末にかかることに気が付いた。「そうだ。赤道に行こう!」とハタと思い付き、調べてみると、西カリマンタンの州都ポンティアナックへはジャカルタから直行便が出ていて、簡単に行けることがわかった。ちなみにポンティアナックでの赤道地点見学は、以前、本誌の前身である『南極星』の創刊号(2011年1月)で特集している。

ポンティアナックは人口50万人余りの比較的大きな地方都市だ。陸路で行けるマレーシアやブルネイにも近く、華人系インドネシア人のほかマレー系、ダヤック人も多く住んでいる。赤道をインドネシア語ではKhatulistiwaと言い、ポンティアナックには赤道直下の地点に「Tugu Khatulistiwa」という赤道記念碑がある。

ポンティアナクのスパディオ空港。右側に新しい空港ビルが作られていた

ジャカルタからポンティアナックまでは直行便で1時間20分程度。そして、春分の日に当たる土曜日の南中時刻(太陽が真上に来る時間)は午前11時半ごろ。そこから逆算し、フライトを確定した。

空港に到着後、タクシー・カウンターでタクシーを頼み、ホテルに行く前に赤道記念碑に寄るルートで交渉した。空港から記念碑までは街中を通って行くため、40〜50分ほどかかり、南中時間の約30分前に到着した。観光バスも数台来ており、「真上の太陽観察」体験ツアーは人気のようだ。周囲はやはりジャカルタより暑いような気がする。

記念碑の立つ建物の内部には、赤道関連の展示がある(実際の赤道地点は、この記念碑から100メートルほど離れた所にある)。手数料を払えば赤道通過証を発行してくれるらしいが、どうもそれらしいことが行われている様子はなかったので、代わりに赤道記念碑のミニチュアをお土産として購入した。

内部は赤道関連の展示

記念碑のミニチュアのお土産

外では、マレーシアから来た学生グループが太陽の位置を計測していた。天気は良く、影がよく見える。気のせいか、相当ジリジリと暑かった。もうすでに、かなり影は短くなっている。南中時間のその時、影は確かに、ほぼなくなり、周りからも歓声が上がった。皆、自分の足元で小さくなっている影を確認して写真を撮っている。

マレーシアからも学生が来ていた。棒を立てた板で影がなくなるまでの過程を観察

さてこれで、ポンティアナックに来た目的は果たしてしまったわけだが、せっかくなので街歩きを楽しむことにした。地元の人でにぎわう食堂では、ナシゴレンが赤みを帯びており、見た通りの辛さだった。ジャワとは風味が違って、これもまたおいしい。

ナシゴレン(辛め)

この街はクリスチャンの華人が多いこともあり、立派な教会が街の中心部にある。歴史を感じさせる中国寺院も商店街の中にポツンとあった。

街中で目を引く立派な大聖堂

街中にポツンとある中国寺院

夕暮れのポンティアナクの街中

カプアス(Kapuas)川の岸には公園が広がっている。川の中洲には水上家屋の街があり、古い木造のモスク(Mesjid Abdurrahman)がある。川岸で渡し船に乗り、中洲に足を踏み入れた。モスクがそびえ立ち、その前の広場では子供たちがサッカーをしていた。水上家屋街を散歩してみると、家の壁にペインティングを施した、一際、目立つ家があった。川縁に腰掛けて女の子が本を読む絵で、良い雰囲気だ。散策しているうちに夕方のお祈りの時間になり、水上のモスクでもお祈りが始まった。

カプアス川の渡しに乗り中洲へ向かう

中洲にあるポンティアナックで最も古いモスク。1778年建立とされている

川の支流には水上家屋が並ぶ

ウォールペインティングの施された家

カプアス川沿いで読書する少女の絵

渡し船で元の場所に戻り、ホテルへと歩いて戻る途中、川岸の広場(Taman Alun Kapuas)へ寄ってみた。週末の夜は物売りや移動式遊園地も出て、家族でにぎわっている。川沿いの屋台も繁盛している。

街中の果物屋台

カプアス川沿いの公園は人でいっぱい

翌日は、ホテルで手配した車で、いくつかのポイントを周って、空港まで行くことにした。西カリマンタン州都だけあって、モスク(Mesjid Raya Mujahidin)も立派だ。街の中には、ダヤック人の伝統家屋を保存した建物がある。東カリマンタンでマハカム川を上った際に川上の集落で見た伝統家屋とよく似ている。首都ジャカルタはもちろんインドネシア各地から人々が集まる大都市だが、地元の民族、中華系、マレー系が集まるこのような地方都市では、ジャワ島の地方都市とは少し違った雰囲気があり、興味深い。

大モスク

ダヤック人のロングハウス

建設中だったダヤック人の大型ロングハウス

ポンティアナックから150キロ余り北に位置するシンカワン(Singkawang)は、さらに中華色が濃い街で、中国正月などの際にはとても盛大に祝うらしい。もう少し時間が必要になるが、カプアス川を東に上って行き、もう少し内陸に行ってみるのも面白そうだ。

マレーシアのクチンへはポンティアナックから定期バスが出ており、10〜12時間で行くことができる。週末にはマレーシアからポンティアナックへ買い物に来るマレーシア人も多いという。

インドネシアの地図をジャカルタ中心ではなく、ポンティアナックを中心に見れば、マレーシアやフィリピン、ベトナムまでも目に入る。ジャワ島ではあまり感じない隣国も、カリマンタンで見ると風景が異なる。

追記

2018年、旧正月の3連休時に、シンカワンを訪れた。ここはムスリムの多いインドネシアでは珍しく7割以上が華人系住民で、「1000の寺を持つ街」と言われる。ポンティアナック空港から車で約3時間半(約150キロ)。

3階建の商店兼住居(ルコ)街の雰囲気は、インドネシアの他都市とは違い、シンガポールやマレーシアで見られる古めの商店街に似ている気がする。また、ムスリムの多い街では街角にモスクがたくさんあるように、この街では寺が多い。立派な建物の寺院もあれば、自宅の一角が寺になっている(?)ような小さな寺院もある。

インドネシア語は通じるが、華人系住民が話している言葉は中国語の一方言である客家語が多いようだ。旧正月に行ったので、昔の日本の正月三が日のようなもので、店もほとんどが休みだった。旧正月後の元宵節(Cap Go Meh)の時の方がにぎやになるらしい。

旧正月のシンカワン、街の入口。中華色が融合した、独特の雰囲気

街の向こうには大モスクの尖塔が見える

街のあちこちに仏教寺院がある

華人街の雰囲気が漂う街の一角で

龍の飾りもあちこちにあった。パレードで使われるのだろうか

漢字で書かれた看板も目に付く。ここは中国語を教える学校

近くの競技場で元宵節の飾り付けがされていた

競技場の中は、ランタンに桃の造花が飾られ、春節ムードたっぷり

夜も華やかに提灯がついている

大小合わせて、街中にはかなりの数の寺院がある

ポンティアナックの空港ビルも新しくなっていた

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