欧州スーパーリーグ

欧州スーパーリーグ創設決定から留保に

「欧州スーパーリーグ」。サッカー界を震撼(しんかん)させたプロジェクトが発表され、その直後に猛反対を食らうことで発表後48時間以内に収束してしまう(現時点では)という事件が起きたことは読者の皆さまも記憶に新しいのではないでしょうか。

この欧州スーパーリーグとは、スペインのレアル・マドリードが主導となり、選ばれた一部のビッグクラブ12つのみで行う新たなリーグ(将来的に3クラブ追加構想)です。12のビッグクラブは英プレミアリーグからはアーセナル、チェルシー、リバプール、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、トッテナム・ホットスパー、西ラ・リーガからは、アトレティコ・マドリード、FCバルセロナ、レアル・マドリード、そして伊セリエAからはACミランとインテル・ミラン、そしてユべントスでありました。

かねてから水面下での構想が伝えられてきた中、2021年4月18日、12のビッグクラブの合意の下での創設決定が発表されたのです。ただ、これに対してファンをはじめ、欧州サッカー連盟(UEFA)などが猛反対をし、レアル・マドリード、バルセロナ、ユべントス以外のクラブが離脱を表明し、今は留保となっています。

今後の動向に注目が集まる欧州スーパーリーグ

オープンとクローズド 仕組みの違いや公平さ

この件に関しては各種議論が起きていますが、反対の主な論点は一部の人気クラブだけで閉じられたリーグを開催するとそのクラブたちだけがもうかり、不公平ではないか? 招待されなかったクラブたちはそこに参加できないのでオープンではなくクローズドな構図になってしまうのではないか? という点にあります。

これはもちろんその通りで異論はありません。一方で、上記12人気クラブの視点からすると、既にUEFAチャンピオンズリーグも出場する常連クラブたちはある程度同じ顔ぶれであるし、人気クラブたちのおかげでUEFAはスポンサーや放映権で潤っている、という主張です。しかも勝敗をコントロールできないスポーツにおいてチャンピオンズリーグへの出場権を逃した場合は大きな損失を被るのはクラブだけであります。

ちょうどこのスーパーリーグ構想を発表した直前にチャンピオンズリーグも大会の拡張を発表しており、クラブにしてみるとますますチャンピオンズリーグだけがもうかる仕組みが膨張することを面白くなく感じたのではないだろうか? と思いました。このオープンな仕組みとクローズドな仕組みの違いは、大会への出場権を勝敗に委ねるのか、自分たちのルールでコントロールするかです。ファンや弱いクラブにしてみるとオープンにしてもらう方がエキサイティングであるし、スポーツの醍醐味に沿います。一方でビジネスの視点からすると、不確定要素(勝敗)によって収入が増減することは可能な限り回避したいと考えます。

スーパーリーグ構想で 欧米の違いが鮮明に

これが欧州のサッカーと北米のスポーツの大きな違いでもあります。今回は北米のスポーツビジネスモデルが欧州にて猛反対をもろに受けてしまった、ということになります(12クラブ中ほとんどがオーナーは外国人)。しかし、オープンな場合、勝敗に関係なくチャンピオンズリーグ主催者のUEFAは自分の収入は確保されているのでクラブのビジネス視点からするとそちらの方が不公平だ、となります。

今回いったん矛を収めたスーパーリーグ構想ですが、これだけ成功しているビジネスパーソンたち12人がこのまま引き下がるとは思えないですし、今回の粗末な発表もらしくなく、何かあえてそうしたのではないか? とまで勘繰ってしまいます。今後どのような動向になるのか個人的にはウオッチし続けていきたいと思います。

中村武彦

マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。現東京大学社会戦略工学研究室共同研究員。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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