パ・リーグで最も速く一塁を駆け抜けた選手は? 今季の内野安打一塁到達トップ5

楽天・辰己涼介(左)と西武・源田壮亮【写真:荒川祐史】

スイングしてから走り出す内野安打で最速タイムを競う

息をのむようなホームランもいいが、驚くべきスピードで一塁を駆け抜けてヒットを勝ち取る内野安打も野球の魅力の一つ。2021年シーズン最初のタイムランキングは3月26日の開幕から4月末までの約1か月における内野安打一塁到達タイムのトップ5を紹介する。

過去のランキングではセーフティバントの時も含めたが、今回はスイングした時のみに絞った。バットにボールが当たってから一塁ベースに触れるまでの間、素晴らしいタイムを叩き出したパ・リーグのスピードスターは果たして誰か?

まず5位にはパ・リーグ盗塁王2度を誇る実力者・金子侑司外野手(西武)が3秒93のタイムで入った。記録したのは開幕戦の初回。先頭打者として打席に入り、今シーズン最初の打球を内野安打にしてみせたシーンでのことだ。金子は2013年のプロ入り以来“韋駄天業界”の常連として、快足を披露し続けている。誰もが羨む長い足だというのに、それを邪魔にもせず軽快に素早く回転させて疾走する姿は実に美しい。

外見もキリッとしたイケメンだが、プレースタイルも総じて華麗だ。バッティングでも体勢を崩しながら泥臭く食らいつくようなスイングはあまり見せない。左右どちらの打席でも頭を残して軸回転のスイングに徹している。普通に考えると、しっかりスイングしてから走り出せば、スタートはどうしても出遅れてしまう。そのため、いくら足が速くても好タイムは出にくいはずだが、それでもパ・リーグトップ5に入ったのは見事というほかない。金子の加速力がいかに優れているかがわかる結果だ。

相手守備陣の焦りを誘うガムシャラ走塁の楽天・辰己

続いて4位は楽天の核弾頭として成長中の辰己涼介外野手。そのタイムは3秒88。3秒90を割り込んできた。このタイムを計測したときのバッティングは外角寄りの球をこねるように叩きつけたもので、決して良い形ではない。だが、高いバウンドになって投手の頭を越えたところでチャンス到来。勢いよく走り抜けて内野安打にした。

しなやかな身のこなしで身体能力の塊のようなプレーが魅力の辰己。12球団でもトップクラスの強肩や一発長打も秘める打撃も魅力だが、猛烈な足の回転で速さを生み出す俊足も捨てがたい。

しかも、ただ足が速いだけではない。“がむしゃら感”丸出しオーラ全開で、打った瞬間から相手守備陣に猛烈なプレッシャーをかけていく。この激しい走塁は辰己にとって密かに一番の勝負能力ではないだろうか。個人的にはそう思っている。

西武・源田はベース手前の平淡な大股が「たまらん」!

3位に入ったのは、こちらも“走り”の常連・源田壮亮内野手(西武)。当然のように顔を出してきた。3秒85を記録したプレーでは、特に一塁ベースを踏む手前の最後の一歩に注目してほしい。少しでも早くベースに到達したい心理からか、わずかながら伸びるように大股になって踏み込んでいた。

プロ野球選手には、源田と同じように最後の一歩を大股にしてベースを踏むタイプが少なからず存在する。だが、その多くは、遠くへ飛ぼうという意識なのか、高く跳ねてしまって、「かえって遅いのでは?」と思えてしまう。ところが、源田の場合は低い姿勢で速度を進行方向へ保ったまま、あたかも静かに大きな一歩を踏み出す。まるで、ハードルの選手のような「平淡な美しさ」がそこにはあった。

続く2位も源田がランクイン。3秒84というタイムは、3位の時と0秒01しか違わず。前に出されながらも変化球についていって逆方向へ流した形も似ているが、バットにかろうじて当てただけのゴロになったことで“セーフティバント”のようになった。それが、オリックス・能見篤史投手を驚かせたのか、打球処理のタイミングを誤ってスルーしてしまった。

とはいえ、もし仮に能見がしっかり捕球できたとしても、アウトにできたかどうかは微妙なところだ。いや、「間に合わずにセーフだった」と記録員が判断したからこそ、内野安打という判定がなされたのだろう。源田選手の足だからこそ勝ち取れた勲章だ。

右打者最速はオリ中川圭、最遅内野安打は?

1位を紹介する前に、すっかり恒例となった「番外編」として、ふたつのトピックを紹介したい。まずは、右打者の内野安打について。中川圭太内野手(オリックス)が記録した4秒01が最速だった。一般論として、右打者は左打者と比較して一塁ベースへの距離が遠いため、どうしてもタイムが遅くなる。2位の源田と中川圭のタイムを比較すると、タイム差0秒17で右の中川圭の方が遅かった。

だが、右打者でも左打者とほとんど遜色のないタイムが出ることがある。それは、外角の変化球に体を泳がされて、バットを投げ出すようにしてゴロを打ったケース。左足を一塁方向へ踏み込むようにしてスイングするため打った体勢がそのままスタートとなる。中川圭が好タイムになったのは、まさにその形だった。

とはいえ、その局面を意図的に作り出せる技術を持つ選手は少ない。右打者の一塁到達は偶然、この形になった選手が突発的に好タイムを記録することがある。中川圭は決して足が遅いわけではないが、パ・リーグにはもっと速いタイムを出せそうな右打ちの俊足選手は他に複数いるので3秒台が出ることも期待していいだろう。

もうひとつの番外編は5秒57という「一塁到達最遅の内野安打タイム」。中田翔内野手(日本ハム)が記録したものだが、ハーフスイングのバットに投球が当たってしまい、一塁線のファウルラインギリギリに転がったゴロが切れそうで切れなかったという珍しいパターンだ。

本来ならば一塁線にボールが差し掛かったあたりで、打球を追ったロッテの新人左腕・鈴木昭汰投手がサッと捕り、中田にタッチすればアウトになる位置関係だった。ところが、鈴木がファウルにすることを選択したため中田は再び一塁へ走り出し、結局、ボールは切れずにセーフになった。

鈴木はこの打球で中田をアウトにせず、ファウルにしてもう一度勝負したかったのだろうか? だとすれば、なかなか肝の座ったタマである。ドラフト1位はダテじゃない。駆け抜けタイムとは何も関係ないが(笑)、選手の気質が読み取れたという意味で大変奥深いシーンだった。

1位は西武・源田で3秒80、“圧”で勝ち取った内野安打

栄光の1位は3秒80というタイムで、またしても源田だった。1~3位を独占という無双ぶり。守備だけではなく、一塁到達においても「たまらん」人である。ここでの源田の「たまらん」ポイントは、打ってから一塁ベースを踏むまで全力疾走しているという点。それにより、完全に打ち損じた一塁ゴロにもかかわらず、一塁手の中田とベースカバーに走った投手・池田にプレッシャーをかけ、連携プレーの僅かなブレを生み出した。

決して偶然発生したスキに乗じたのではない。源田の脚力による“圧”で勝ちとった内野安打である。3秒80というリーグトップのタイムだったことが、まさにそれを証明した“一打一走”であった。

セーフティバントをのぞいた内野安打の一塁到達タイム、いかがだっただろうか。これからも新たな好タイムが発生してランキングが上塗りされていくことが期待されるが、梅雨~真夏の暑い盛りにかけては選手の疲労も蓄積してくるせいか、一般的にはややタイムが落ちてくる傾向にある。

次に好タイムに出会える可能性が高まるのは優勝争いや順位争いが白熱してくる秋口になるだろう。気温の低下とペナントレースの追い上げによって、選手の走る気力が復活してくる頃、今回1位だった源田の3秒80を抜く3秒7台が出てくるかもしれない。

もちろん、故障明けやファームで調整して昇格してきた選手などは夏場の暑いときでも好タイムが出る可能性はある。ストップウォッチさえあれば、誰でも中継を見ながら計測することができるので気になる選手がいたら、ご自分でも計測してみてはいかがだろうか。(「パ・リーグ インサイト」キビタキビオ)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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