【日本ダービー】福永3度目のV シャフリヤール“10センチ”の物語

シャフルヤールは測ったようにエフフォーリアを差し切った

30日、東京競馬場で行われた競馬の祭典・第88回日本ダービー(芝2400メートル)は、4番人気のシャフリヤール(牡・藤原英昭厩舎)が優勝。無敗の皐月賞馬エフフォーリアとの叩き合いを制し、2018年に生産された7398頭のサラブレッドの頂点に立った。鞍上の福永は昨年に続く自身3度目、管理する藤原英調教師は10年エイシンフラッシュに次ぐ2度目の日本ダービー制覇。わずか約10センチのハナ差で明暗を分けた頂上決戦。その勝敗のカギを探るとともに優勝馬の今後を占う。

わずかハナ差で明暗を分けた3歳頂上決戦。皐月賞馬エフフォーリアとの激烈な攻防を、シャフリヤールの鞍上・福永は至って客観的に振り返った。

「どのタイミングでゴール板が来るか…。紙一重の勝負でした。運も作用したと思います」

劇的なエンディングは果たして競馬の神様の気まぐれだろうか。いや、冷静に検証すれば、それは決して偶然の産物でなく“必然”のハナ差だったと感じずにいられない。

「いいスタートを切るのが絶対条件。1角に入る前に取りたいポジションを取れたので、これならと思いました」(福永)

道中は中団の7番手。エフフォーリアの1馬身後方で、がっちりと相手をマークする理想の形を作り上げた。それでも好事魔多し。4ハロン目で13秒0とペースダウンすると、そこから予想もしない展開へ流れるのだからまさにレースは生き物だ。

「途中でペースが遅くなると、そこから動きのある競馬になってインで押し込まれるように…。動くに動けない非常に厳しい展開となり、逆にこれなら極限まで脚をためようと覚悟を決めました」

“塞翁が馬”――鞍上のそんな精神が最後の直線で生きてくる。すんなりと前が開いたエフフォーリアと対照的に、外に出した直線は馬群でゴチャつき気味。それでも狭いスペースを一気にこじ開けたのは、道中で無駄な動きを一切しなかったからにほかならない。

「進路を確保してからの伸びは素晴らしく“これなら間に合う”と。ただ、馬のバランスを崩さないよう、最後は冷静と情熱のはざまで追いました」

18年のワグネリアン、昨年のコントレイルに続き、通算3度目の日本ダービー制覇。偉業を成し遂げた福永が「大きな自信をワグネリアンにもらったし、当時の経験を生かせた」と語った通り、逆境において最善の策を選択できたこと。それこそがゴールの明暗につながったのだ。

“勝つためのツボ”を知っていたのは鞍上だけではない。管理する藤原英調教師もすでに確立した勝利の方程式があった。

「皐月賞も考えたが、毎日杯の後、もう少し成長させようと(ダービー一本に決めた)。体重は変わっていないが、筋肉に張りが出たし、精神面も落ち着きが増して強くなっていた」

自身が手掛けた10年のダービー馬エイシンフラッシュは、1月の京成杯(1着)から皐月賞(3着)に直行する異例のローテーションの末、見事に勝利している。つまり、馬の成長期をどのタイミングで見極めるか。そんな匠の計算が、馬名通りの“偉大な王”を育て上げた。

「ダービー馬として恥ずかしくない、ファンに愛される息の長い馬に育てていくのが我々の使命」と最後に結んだ指揮官。ダービーを制した過去6頭のディープインパクト産駒で、古馬GⅠを制した馬はいまだ不在だが…。“必然のダービー馬”なら、そんなジンクスすら打ち破ってくれるに違いない。

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