【島人の目】ワクチン抜け駆け接種 イタリア、ドイツ、そして日本

 イタリアを含むEU(欧州連合)27カ国のワクチン接種戦略は、紆余(うよ)曲折を経てほぼ軌道に乗りつつある。EUは共同でワクチンを購入し、人口に応じて公平に分配する仕組みを取っている。人口が多いほど受け取るワクチンの数は多いが、接種比率はほぼ同じ。

 だがワクチンの使い道は各国が自由に裁量するから状況は少しずつ違う。例えばここイタリアは医療従事者への優先接種を大幅に進めた後で、80歳以上の高齢者への接種を始めた。ワクチンが足りなかった2月から3月にかけては、順番や年齢を無視して抜け駆け接種をする者の存在が問題になった。4月初めの段階で、自分の番でもないのに割り込みで接種を受けた住民は全国で230万人にものぼった。

 中でも南部のシチリア、カラブリア、プーリア、カンパーニャ各州で、弁護士や役場職員や裁判官などを中心に抜け駆け接種が多く、4州では優先接種を受けるべき、80歳代以上の住民の接種が大幅に遅れた。似たようなことは、お堅いはずのドイツでさえ起こっている。例えば旧東ドイツのハレ市では、64歳の市長が優先接種の対象となっている80歳以上の人々を出し抜いてワクチン接種を受けた。規則に厳しいドイツ社会は抜け駆けを許さず、市長は辞職を含む厳しい処分を受けるとみられている。

 同様な問題は日本でも起こっているが、ドイツほどの苛烈な批判にはさらされていないようだ。むろんイタリアほどひどくはないが、コネや地位を利用しての抜け駆け接種はどの国であれ見苦しい。

 イタリアの場合は特権を使って10代の息子や娘に抜け駆け接種をさせるやからさえ出た。そういう連中が特に南イタリアに多いのは、そこのおおらかな気風を愛する自分としては返す返すも残念である。

(仲宗根雅則・イタリア在、TVディレクター)

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