小6女児同級生殺害から17年 「大人の責任」事件機に発足 チャイルドラインさせぼ

電話で子どもの話を聞く「チャイルドラインさせぼ」のボランティアスタッフ=佐世保市内

 2004年に佐世保市立大久保小で起きた小6女児同級生殺害事件は6月1日で発生から17年になる。事件を機に、住民や市議、教員らが再発防止につなげようと、18歳以下の子どもの声に耳を傾ける「チャイルドラインさせぼ」を立ち上げた。子どもを取り巻く環境が複雑化する中、今も子どもたちに寄り添う活動は続く。
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 「うんうん」「そうなんだ」。市内の建物の一室。チャイルドラインさせぼのメンバーが受話器の向こうにいる子どもの話をうなずきながら聞いていた。
 07年の発足時から代表を務める荒岡重善さん(52)=障害者就労支援員=は、事件当日の衝撃が忘れられない。当時、高齢者福祉施設の職員だった。スーパーから同校の近くにある自宅への帰り道、車内のラジオで事件を知った。
 どこの学校かは分からなかったが、同校の近くを通り掛かると、大勢の人だかりができているのが見えた。「もしかして大久保小?」。家の近所で起きた子ども同士の事件。ショックは大きく、その日は夕食をとる気力さえ起きなかった。
 加害者や被害者との接点は無いが、気になって何度も現場近くに足を運んだ。「大人の責任として何かできないか」。そう思っていた時、チャイルドライン発足の話を耳にして、夫婦で参加した。

 事件から17年。近年は、育児放棄(ネグレクト)を受ける子どもや精神科に通う子どもからの電話もある。スマートフォンアプリでのトラブルなど問題は複雑化している。コロナ禍で「両親の仲が悪化した」と話す子どももいる。
 電話をかけてくる子どもは自分自身のことを誰かに聞いてほしいが、周囲に話を受け止めてくれる人がいないのだろうと感じる。「加害児童もそうだったのかもしれない」とも思う。
 「友達や先生、誰でもいい。今こそ思いを受け止める存在がいるのか大人が見直す必要がある」。荒岡さんはそう訴える。

 事件発生時、佐世保市議会議員だった早稲田矩子さん(78)はチャイルドラインさせぼの発足に奔走した。
 事件は、同級生同士の交換日記やインターネット上の掲示板のトラブルに端を発したとされる。「なぜ加害女児は、自分の思っていることを直接、被害女児に言わなかったのだろう。自分の心を解き明かして話をしなかったのだろうか」。県教委がまとめた事件に関する報告書を繰り返し読んでも、殺害理由は理解できなかった。
 「子どもたちの心や考えが分からない」。保護者や地域の大人、教師など戸惑いの声があちこちで聞かれた。元小学校教諭である早稲田さん自身も分からなかった。だからこそ、子どもたちの声に向き合いたかった。事件翌年から、チャイルドラインの活動を佐世保でもできないか仲間と検討。学習会や電話の受け手の養成講座などを開き、開設に至った。
 事件の翌年、同校を訪れた。当時の校長に現場を案内してもらうと、窓枠に拭き残しの血の跡があった。
 「ここで起きたんだ」。普通の学校の普通の部屋。「なぜ事件が起きたのか」。ずっと考え続けている。


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