柔道タイ代表として東京五輪出場濃厚 佐世保出身 深見利佐子(筑波大大学院) 「私史上一番のハイライト」

オンライン取材で「五輪を目指して頑張ってきた過程については、自分を褒めてあげたい」と語る深見=茨城県つくば市、筑波大大学院保存科学研究室

 長崎県から異彩を放つオリンピアン誕生の可能性が高まってきた。父がタイ人、母が日本人で、タイの柔道女子代表として活躍を続けてきた佐世保市出身の深見利佐子(筑波大大学院)、26歳。2018年アジア大会で銅メダルをつかんだ52キロ級で、東京五輪出場をほぼ確実にした。考古学や文化財保存科学の研究と両立しながら挑戦を続け、間もなくかないそうな大きな夢。文武両道の努力家は「東京五輪を競技人生の集大成と捉えてやってきた。実現したら、私史上一番のハイライトになると思う」と目を輝かせる。

■ 父の愛する祖国
 タイ名はウォラシーハ・ガチャコーン。タイで生まれ、程なく母の故郷、佐世保市に移り住んだ。格闘技好きの父の影響で柔道と出合ったのは6歳の時。ちょうどシドニー五輪が開かれた年だった。女子48キロ級で金メダルを取った谷亮子に憧れた。
 頭角を現したのは「大学進学も柔道も力を入れたい」と入学した佐世保西高時代。柔道部員は男女合わせて数人だったが、顧問の森山悠教諭(現諫早高定教)に「マンツーマン状態で指導してもらえた」。強い体づくりにも力を注ぎ、2、3年時に個人でインターハイ出場を果たした。
 大学を選ぶ条件も「中学時代から興味があった考古学の勉強と柔道ができるところ」。それが筑波大だった。柔道部は日本人以外の学生も所属。両親の出身が日本と他国の部員も多く、他国の代表として活動している選手がいるのを知った。
 幼いころに憧れた五輪の舞台。それは「子どもたちに五輪に出てほしい」と願った父の夢でもあった。「日本は強い人が多くて選考を勝ち抜くのはすごく厳しい。父の愛する祖国の代表になれたら、タイの祖父母やみんなが喜んでくれるかな」。そのチャンスに懸けて、2年生からタイ代表の選考大会へ挑戦を始めた。

■ 妹たちの分まで
 挑戦には心強い“仲間”がいた。2歳下の由利子、4歳下の明香利の妹2人だ。18年のアジア大会は3姉妹そろってタイ代表として出場した。3位入賞という最もいい成績を挙げた長女は、自信をつけたのと同時に世界ランキングの基となるポイントもぐっとアップ。これが東京五輪につながる大きな足掛かりとなった。
 以降、国際柔道連盟が定めたワールドツアーでポイントを重ね、現在はタイ選手の中で最も高い。現状は女子7階級合わせて10人が得られる「大陸枠」で五輪に出場できる見込み。ポイントの対象大会を終えた6月下旬に確定する。
 一方、次女で57キロ級の由利子はアジア大会後に膝を大けが。やっと復帰できたものの、選考には間に合わなかった。三女の明香利は本来、利佐子と同階級。3姉妹での出場を目指して減量しながら48キロ級に臨んだが、なかなかうまくいかなかった。長女は妹たちの思いも胸に、東京の畳に立つつもりだ。
 本番の対戦相手は、日本代表で金メダル候補の阿部詩(日体大)をはじめ、ほとんどがランキング上位選手になるだろう。厳しい戦いになるのは否めないが、やることは決まっている。「何もプレッシャーを背負うことなく、家族やお世話になった方々の前で自分の力を発揮したい」
 最大の挑戦を終えたら、研究者としての新たな夢が待っている。その前に、競技人生のすべてを出し切りに行く。

 【略歴】ふかみ・りさこ タイで生まれた後、佐世保市に移住。6歳から柔道を始め、山澄中卒業まで佐世保協会少年部に所属した。佐世保西高時代は個人48キロ級で2度インターハイ出場。筑波大から筑波大大学院に進み、2018年にジャカルタ・アジア大会52キロ級でタイ代表として銅メダルを獲得した。得意技は大外刈り、体落とし。158センチ。21年現在は博士後期課程3年で、世界文化遺産学を専攻。発掘された文化財を後世に長く残すための保存法について研究している。


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