福西崇史「プロスポーツとメディア」ボランチゼミナール〜Additional Time vol.3

多くのプロスポーツ大会の試合後、選手達が通過する取材エリアの一つに「ミックスゾーン」と呼ばれる場所がある。この「ミックスゾーン」では「ぶら下がり」と言われるインタビュー収録や、雑誌・新聞記者などによる選手への囲み取材が行われる。

 「色んな人がいますよね、ああゆう場所には。」

 まさに、その通り。サッカー解説者の福西さんも、充分心得た場所だ。

 「クレバー」

 現役時代の蹴球人・福西崇史の印象を語るなら、この言葉が思い浮かんでしまう。

 ミックスゾーンには、多くの取材カメラや記者に入り混じって、時にタレントや俳優、海外からのVIPなども通りががることがある。

 当時のジュビロ磐田の23番・福西崇史選手の周りには、いつも黒山の人だかりができていて、試合の勝敗に関わらず大人気の存在だった。中には、目を輝かせながら、なんとペンやノートも持たずに、まるでアイドルを至近距離で見るようなそぶりで、選手に近づく記者さえ存在したのだ。

 試合の注目度が高ければ高いほど、沢山の人が無数に存在する空間で、クレバーな蹴球人・福西崇史の振る舞いは、存分に発揮された。どのクラブでも、代表でも、顔色ひとつ変えず、一定のメディアを丁寧に対応していた印象が残る。

 「(当時)サッカーの話を聞きたい人(記者)には、サッカーの話を。そうじゃなさそうな人(サッカー以外の話を取材する記者)には、別の話をしてました。」

 マニアックな目線でおこがましいが、これは興味深いエピソードの一つだ。プロって、やっぱり凄い。

 試合後のミックスゾーンで感情むき出しにする選手がいても、ジュビロの23番は違った。どんなに悔しそうな負け試合でも、自身のプレーだけを冷静に振り返り、颯爽とバスへ乗り込む。ジュビロが圧勝したカードでは、さらりと戦術を明かしてくれ、その神対応は記者たちを虜にした。

 Jリーグのミックスゾーンでは、地方メディアなど多くの関係者や記者が乱立する為、メディア対応に慎重になる選手が多い。日本代表のメディア対応は丁寧にするが、Jの対応は不機嫌、という選手も稀に存在する。

 もちろん選手も人間だし、無礼な質問も時には飛び交い、試合や練習をしっかり見ていない記者が居たり、沢山のメディアからの質問に、時には感情的になることもあるだろう。そこをコントロールできる能力は、改めて凄い。

 「GayaRのライブ配信では、言わなかったんですけど。今、話してるインタビュー部分が使われるかどうかわかんないですけどね・・」

https://gayar.media

「〇〇番の選手は、もっと(攻撃的に)いかないといけないんです。厳しい?当たり前ですよ!」

 ありきたりな言葉で表現するなら、言い方が明るい。解説が直球で的確。ライブ配信でユーザーには伝えていない手腕も、さすがだ。

 誰かに伝える言葉だけを考え、選手をリスペクトし、サッカーという競技に真摯に向き合う。現役生活を終えた今もながきにわたり、多くのサッカー関係者から支持を得る人柄、そんな福西さんは今も昔も変わらない姿勢でサッカーを支えてくれている。

 「ミックスゾーン」という取材エリアや記者会見の場所は、選手にとって試合後、バスや移動車に乗り込む前に通過すれば良い、という聖域だ。つまり、選手たちは記者を無視して通り過ぎたり、会見を短くしたりなどと、黙秘権のような選択肢もあるはず。

 「ご存知だと思いますけど色んな人がいますよね、ああゆう場所には。」

今も印象的なインタビュータイムの言葉。実はこの記事を作成中のタイミングで、気になるニュースが飛び込んできた。

 テニス・全仏オープンで、メディア会見を拒絶し、アスリートの権利を主張した大坂なおみ選手の話題だ。彼女に世界中から様々な声が飛び交い、さらには個性や表現の方法が少し違うだけで、大会前から批判に晒されてしまうという事実は、なんとも悲しい現象だった。

多くのメディアで報道されているように、大坂選手は大会を棄権し、真実かどうかも解らない憶測の記事や映像報道が世界中で乱立してしまう。

 競技や時空は違えど、2021年の大坂選手も現役当時の福西選手も、二人とも一流のアスリートだ。彼らは選手として、誰からも教わることなく、自分で考え自然な振る舞いをしているだけだ。メディアに向き合いながら対応を変える手法もあれば、メディアの喧騒を気にせず、出来るだけ競技に集中したい、そんな個性派アスリートも存在していい。

 この記事が掲載される頃には、おそらく大坂選手になんらかの動きがあるだろう。やっぱり彼女のテニスに注目したいし、今回の勇気ある言動をきっかけに、アスリートとメディアが今よりもっといい関係になれるよう心から願いたい。

 蹴球人・福西崇史による“ボラゼミ語録”は「ボランチゼミナール〜Additional Time」と題して、magazineのWeb上で複数回に渡って披露される。次回は、「サッカー解説者」という特殊な職業にフォーカスしていく。

 Text / GayaR Magazine STAFF

Photo / kassy_GayaR

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 リアルタイムスポーツ実況アプリ「GayaR」内のコンテンツ「ボランチゼミナール」のライブ配信は、感染症対策を徹底し行われています。なお、ライブ配信後に敢行されたインタビューは、オンラインにて実施されたものを掲載しています。

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