“健康”は株価を上げる?上場企業に迫られる「健康経営」先行する48社を一挙紹介

新型コロナウイルス感染拡大につれて活用が広がったテレワークですが、在宅勤務が常態化する中で、運動不足やコミュニケーション不足による体調不良を訴える人も増えています。対応策として、オンラインでの社内ヨガ教室やオンライン・ウォーキング&ランニング大会など、気軽に参加できるイベントも開催されるようになってきました。

従業員の健康は、会社経営をしていく上で欠かせない要素だとし、従業員の健康を保持・増進する取り組みを“将来的に企業の収益性を高める投資”と考えて戦略的に実践する手法を「健康経営」と呼んでいます。日本では大企業を中心に2009年頃から取り組む企業が増加しました。


健康増進で社会課題の解決・組織活性化

日本政府は「国民の健康寿命の延伸」を日本再興戦略に位置付け、健康経営を推進してきました。従業員の健康増進は、国民のQOL(生活の質)向上や医療費の抑制をもたらし、社会課題の解決に繋がるものと考えられます。

また、組織の活性化により生産性が向上することで、企業の業績改善や株価上昇をもたらすと期待されています。

「健康経営優良法人」の見える化

健康経営に取り組む優良法人の「見える化」は急速に進展しています。

経済産業省と東京証券取引所は、上場会社の中から「健康経営」に優れた企業を選定し、「健康経営銘柄」としてESG投資家に魅力ある企業として紹介し、「健康経営優良法人認定制度」も設定しています。「健康経営銘柄2021」に選ばれた48社は、記事の最後でご紹介しましょう。

企業向けには2020年6月、「健康投資管理会計ガイドライン」が策定されました。管理会計の手法により、活動の費用と効果を認識するために、可能な限り量的・金銭的指標を用いて「見える化」する仕組みです。「健康経営度調査2021」では回答企業全体の65.6%が同ガイドラインを認知していると回答、健康投資管理会計の利活用に意欲を示しました。

さらに2021年5月、経産省は「健康経営銘柄2021」の評価サマリーをHP上で公開。企業等が健康経営に関する情報を積極的に発信するきっかけを作り、投資家による活用促進を目的としています。

中期的に持続可能な企業価値を追い求めるESG投資には、情報公開が重要です。定量化しにくい「S(社会)」の一指標である健康経営の見える化は、一つの判断材料として有効活用されるでしょう。

1ドルの投資で3ドルのリターン

今後、上場企業は、従業員の健康をより意識した経営を行っていく見通しです。今年6月に3年ぶりに改訂される「コーポレートガバナンス・コード」の原則2-3には、新たに「上場会社は、社会・環境問題を始めとするサステイナビリティを巡る課題について、適切な対応を行うべきである」と記述されました。社会・環境課題には、気候変動や人権などと共に、「従業員の健康・労働環境への配慮」も含まれています。

企業が健康経営を取り入れるメリットに、健康投資のリターンが大きいことがあげられます。米ジョンソン・エンド・ジョンソンが世界250社・約11万4,000人に健康教育プログラムを提供し、投資に対するリターンを換算する調査を行ったところ、1ドルの投資に対して3ドルの投資リターンが得られることが報告されました。

投資リターンとしては、生産性の向上や医療コストの削減、企業ブランド・イメージの向上による人材獲得効果などが注目されます。

健康経営はコスト削減にもつながる

日頃から従業員の健康を管理することは、生産性向上に必要な会社経営の一環と捉えられています。従業員が出社していても、何らかの不調により頭や体が思うように働かず、本来発揮されるべきパフォーマンス(職務遂行能力)が低下している状態(プレゼンティーイズム)を回避できれば、生産性の向上が促進されます。風邪や花粉症の疾患時などを想像すれば、パフォーマンスの低下が感じられるでしょう。

医療費からみても、企業の積極的な取り組みが必要です。心身に疾患を抱えた状態で勤務を続けていると心筋梗塞などの重大な疾病が発生するリスクが高まり易いです。長期入院になった場合の治療費や代替要員の手当てなどを考えれば、突発的に発生するリスクは極力回避しておきたいものです。健康保険組合の赤字は該当企業の負担となることから、従業員の治療費増は、企業の負担を増やし、経営逼迫要因にもなり得ます。

また、過労死が発生した場合、企業イメージの低下を招くとともに、採用や継続雇用にも悪影響を及ぼす可能性があります。労働者不足が深刻化する中で優秀な人材を確保するためには、労働災害への対応は避けて通れない課題となっています。

「健康経営銘柄」を含む「健康優良法人」認定企業は、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的に評価されるでしょう。

健康経営銘柄の株価パフォーマンスは?

健康経営は株価パフォーマンスにも好影響を与えている可能性があります。今年3月に発表された「健康経営銘柄2021」の株価指数と、TOPIX(東証株価指数)の推移を比較すると、「健康経営銘柄2021」がTOPIXを上回って推移しています。

従業員の健康維持・増進への取り組みによって、企業価値が向上したとの反応を市場が示したと推察されるでしょう。

<文:チーフESGストラテジスト 山田雪乃>

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