手厚いサポートは障がい児だけのもの、つまりは「当事者」だけのものなのでしょうか。
いいや、障がい児を育てている保護者たちにも必要だ。
このような考えを持った人たちが、2012年12月にピアサポートの団体を立ち上げました。
それが認定NPO法人 ペアレント・サポートすてっぷです。
運営メンバーは障がい児・障がい者の親で構成されています。
倉敷市新田にて「保護者の居場所 うさぎカフェ」を開き、同じような境遇の仲間が集まり、運営メンバーも含め気軽に相談できる場所があるのです。
筆者自身も発達障がい児の親であり、雰囲気を体験してみたいと思い「うさぎカフェ」へ行ったことがあります。
そして、ペアレント・サポートすてっぷの想いや理念などに共感し、もっと知りたい!と思いました。
各種障がいの認知度が上がりつつある世の中で、ペアレント・サポートすてっぷはどのような役目を担っていくのでしょうか。
当事者、非当事者の枠組みではなく社会の一員として知ってほしいことを紹介します。
ペアレント・サポートすてっぷとは
ペアレント・サポートすてっぷ(以下:すてっぷ)は、障がい児の保護者をサポートする団体です。
中心の運営メンバーは障がい児・障がい者の親で、障がい児の保護者をもっとも理解できる構成となっています。
各メンバーが経験してきた事柄から「保護者の支援こそが重要だ」と考えた結果、団体名に「ペアレント(親)サポート(支援)」の言葉が入りました。
ただし、ペアレントサポートをするだけが目的ではありません。
障がい児の保護者へ「ピアサポート(相談支援事業)」などをおこなった結果、間接的に障がい児の健全な育成に貢献できることを目的としています。
障がい児の保護者が運や不運、住んでいる場所に左右されることなく支援者とつながる仕組みを作り、支えを感じながら安心し子育てができる社会の実現を目指しているのです。
すてっぷのおもな活動は、大きく分けて以下の3つあります。
おもな活動
- 保護者の居場所 うさぎカフェ
- 倉敷子育てハンドブック ひとりじゃないよ
- その他活動(講演会・茶話会・イベント・オンライン講座・支援者養成講座)
保護者の居場所 うさぎカフェ
保護者の居場所 うさぎカフェ(以下:うさぎカフェ)は、名前のとおり保護者同士の交流、癒しを目的とした“居場所”として2016年4月から運営されています。
うさぎカフェのスタッフへ気軽に相談をすることも可能です。
日々の生活のなかで「これは困った、よし、相談をするぞ」と力んでしまうと、なかなか場に出かけられないし、場に行ったとしても相談しにくいもの。
相談者のハードルを下げてくれるうさぎカフェのポイントは、ただの“相談所”とはせず、カフェとして飲食代を利用者が支払うことにより、スタッフとの立場が対等に近くなります。
これで気軽に相談しやすくなる。
筆者は「おいしい食事をしているときに話をすると、緊張もほぐれるよなあ」と、ふと思いました。
そんな効果もあるのかもしれません。
2021年4月下旬、実際に筆者・妻・子どもの3人でうさぎカフェを利用してみました。
スタッフのかた、理事長の安藤希代子(あんどう きよこ)さんから声をかけてもらい、「気にかけてもらえているんだな」と安心感が増したものです。
同じ日に利用していた人は、親子や1人、2人連れとさまざま。
子どもを連れていたこともあってか、お互い初対面であっても「何歳ですか?」「かわいいですね」など気軽に話もできます。
とてもあたたかい雰囲気を感じました。
なかには、「さっき少し話が聞こえたんだけど」と利用者同士で、先輩お母さんからの助言的会話もうまれるそうです。
倉敷子育てハンドブック ひとりじゃないよ
「倉敷子育てハンドブック ひとりじゃないよ」には、2種類あります。
- 倉敷子育てハンドブック ひとりじゃないよシリーズ
- ひとりじゃないよ 倉敷発・居場所づくりから始まる障がい児の保護者支援
倉敷子育てハンドブック ひとりじゃないよシリーズ
2023年6月現在、シリーズが3冊発刊されている「倉敷子育てハンドブック ひとりじゃないよ」は、障がい児を育てている保護者たにちよって作られた本です。
子育てをしていくなかで、「こんな情報があったら良かったのに」や「こういうことがわからなかった…」と思ったことを盛り込んでいます。
内容を見てわかるとおり、子どもの成長の流れにあわせたものです。
今、自分が欲しい内容の本だけ購入してみたり、将来のことを見据えて先の話題を読んだりできます。
また、「倉敷子育て」と名前がついていますが、他の市区町村のかたが読んでも、参考になる内容。
岡山市在住の筆者も実際に読んでみたのですが、後半部分にあるコラムが印象深かったです。
同じ「障がい児を育てている保護者」だからこそ、共感する部分もあります。
なお「倉敷子育てハンドブック ひとりじゃないよシリーズ」は1冊500円(税込)で、以下の場所で購入可能です。
「愛文社書店」「宮脇書店総社店」では、ひとりじゃないよシリーズは税込550円
また、オンラインショップ「handmadeウサギ」、公式ホームページの問い合わせフォームなどからも購入可能です。
ひとりじゃないよ 倉敷発・居場所づくりから始まる障がい児の保護者支援
もう1種類の「ひとりじゃないよ 倉敷発・居場所づくりから始まる障がい児の保護者支援」は、すてっぷ代表の安藤さんがつづった、保護者支援のリアルな日々(活動記録)が書かれている本。
すてっぷの設立について、居場所の作り方や保護者支援、平成30年7月豪雨発災後の復興支援についてなど、もりだくさんの内容です。
筆者は、冒頭の以下の文章を読んで共感しました。
「みんな、努力が足りないと思うんですよ!」
今思えばずいぶんと傲慢な物言いで、ちょっと笑えるくらいだ。しかし当時の私は「自分はがんばっている」という自負があり、それ故に自分から見て「がんばっていない」「不熱心な」人に対するいら立ちがあった。
恥ずかしながら、筆者もときどき同じようなことを思うことがあります。
しかし、安藤さんが感じたこの想いは一種の原動力となるので、すてっぷの現在までの運営にも何かしら役に立ったのでは…、と思ったものです。
「倉敷子育てハンドブック ひとりじゃないよシリーズ」と同じく、オンラインショップ「handmadeウサギ」、公式ホームページの問い合わせフォームなどからも購入可能です。価格は1,650円(税込)。
Amazonや書店でも購入できます。
その他活動(講演会・茶話会・イベント・オンライン講座・支援者養成講座)
すてっぷでは、その他の活動として「講演会」「茶話会」「イベント」もおこなっています。
講演会は、ニーズに応じての勉強会や研修会の企画やコーディネート、講師の派遣もおこなうそう。
大きなものでは、毎年3月に「障がい児保護者支援啓発フォーラム」もあります。
茶話会は、学校や幼稚園・保育園・こども園、公民館、福祉サービス事業所などへ行き、「家から遠いところまでは行きにくい」と感じる障がい児保護者の交流の場を提供しているのです。
イベントには、たとえば以下のようなものがあります。
たとえば、ウサギ食堂は夜の時間帯でおこなわれており、しかもお父さんが対象です。
理事長の安藤さんもその場に参加していますが、その他のスタッフも男性ばかり。
するとどうでしょう、普段は口下手なお父さんたちでも、話が弾むそうです。
思わずスタッフからは「この光景は、すごく貴重ですねえ」との声があるとか。
筆者も一度は参加してみたいと思っています。
オンライン講座・支援者養成講座には、地域を良くする市民活動をおこなう人を応援するための居場所づくり・まちづくり・地域づくり講座「USAGI-LABO(うさぎラボ)」を開催中です。
2021年4月30日から2022年3月25日までの12か月間の連続講座。
途中から興味を持ったけど大丈夫かな…と思っても安心です。
前回分までの動画を視聴できる「追っかけ通期受講」や「中途からの通期受講」もあります。
詳しい情報は、すてっぷの該当ページを見てください。
障がい児保護者のリアルを伝える「handmadeウサギ」
さまざまな支援、企画などで障がい児保護者を支えている すてっぷ。
2021年4月には、障がい児保護者によるハンドメイド作品の販売をオンラインショップ「handmadeウサギ」で始めました。
当初はオンラインショップ・うさぎカフェでの展示販売が中心でしたが、「障がい児の親の活動発表の場」として活動が広がっています。
2023年5月14日に開催された「ハンドメイドマーケットat水島愛あいサロン」には300名ほどの来場者があり、赤ちゃんからおじいちゃんまで、障がいのある人もない人も、さまざまな人が集まったそうです。
理事長の安藤希代子さんは、以下のように語っていました。
「ハンドメイド作家の人たちの姿は、障がい児の保護者が自分の好きなことを手放さずに、自分を主役にして、自分の人生を生きてもらうためのモデルになり得ると思ったので、NPO法人の事業としました。
生き生きとものを売る作家さんたちの姿が、同じ立場のお母さんたちを力づけるといいなと思います」
福祉プラットフォーム「くらしき支援LABO」
「くらしき支援LABO」は、公益財団法人 トヨタ財団の助成を受けて、倉敷市の地域福祉を前にすすめるプラットフォームを作るために立ち上げた、所属や分野の垣根を越えたプロジェクトです。
すてっぷは事務局を務めています。
とくに力を入れているのは「成人障がい者の暮らし」。自宅と就労支援施設などの職場を往復するだけで、大人らしい楽しみがないまま日々を生活しているひとが多いそうです。
このため、ライブ・演劇など障がいのあるなし関係なく、ともに楽しむイベントなどを企画しながらを活動を継続しています。
2012年12月以来「障がい児の親」のサポートを続けて来たステップ。
仲間たちとペアレント・サポートすてっぷを設立した、理事長の安藤希代子さんに話を聞きました。
理事長の安藤希代子さんへインタビュー
ペアレント・サポートすてっぷを設立した、理事長の安藤希代子(あんどう きよこ)さんにインタビューしました。
インタビューは2021年5月の初回取材時におこなった内容を掲載しています。
発足のキッカケ
──すてっぷ発足のキッカケを教えてください
安藤(敬称略)──
障がいのある子の「親の会」の役員をやっていた者同士、3人で始めました。
この「親の会」は規模が大きすぎて、一人ひとりの親の声を聞くことができない状態になっていたんです。
規模が大きいと行政に何かと伝えることはできますが、個々に困っていることに耳を傾けることができません。
「親の会」ではできなかった、一人ひとりの声を聞く活動を始めようと思ったのがキッカケです。
基本的には、自分たちが子育てをしていたときに「あったら良かった」というものを、これからの若い子育て世代に伝えるスタンスです。
障がい児の親って?
──障がい者の親たちには、どんな人がいる?
安藤──
「うさぎカフェに来る親」と「私たちが出張した先で出会う親」では、それぞれタイプが違います。
わざわざ「うさぎカフェに来る親」は、思いつめやすく真面目な人が多いです。
子どものことについての相談先が見つからず困り果て、すっごいドキドキしながらも、藁にもすがる思いで来られます。
でも逆に言えば、うさぎカフェまで来られるだけのエネルギーを持っているとも言えます。
自分から動ける人たちは、そんなに心配がありません。苦しい時期があっても適切なサポートさえあれば、自分の力で乗り越えていかれます。
いっぽうで「私たちが出張した先で出会う親」は、困っているんだけど、うさぎカフェまで来るエネルギーがありません。
この人たちのほうが、困り度が高めです。
問題がこじれやすかったり、場合によっては人の助言を受け入れにくかったりすることもあります。
だから、私たちはうさぎカフェで待っているだけではダメだと思っているんです。
いろいろなところに出かけて行ったり、いろいろな切り口を持っていたりと、困っている人たちとの接点を持てるようにしなくてはいけない。
うさぎカフェに来る人たちだけを「障がい児の親」だと認識してはダメだと思っています。
うさぎカフェでの相談
──相談を受けたとき、つられて気持ちが落ち込むことはある?
安藤──
私は、落ち込むことはありません。
でもなかには落ち込む人もいます。
相談を受ける人は、向き不向きもあるかもしれません…。
お子さんがまだ小さいうちは、私たちと同じような取り組みをして他の親の相談に乗ることはおすすめしません。
自分の子どもが相当大きくなってからじゃないと、やれないと思っています。
なぜなら、自分がいっぱいいっぱいのときに人の相談を受けるのは負担が大きいし、まだ自分自身でもわからない部分が多すぎるはずだと思うからです。
いろいろなことを消化したうえで、「やるならやってください」と声をかけています。
でも、私たちみたいな取り組みをやってほしいというよりは、障がい児のお母さんお父さんたちには、障がい児の親としての個人的な背景を持ちながら社会のいろいろな場所で、いろいろな立場で仕事をしていてほしいです。
そのほうが、障がい者の人たちが社会に出たときに、いろいろなところに理解者がいることになる。
町のパン屋さんが障がい児の親でした。
勤めている会社の部長が障がい児の親でした。
っていうほうが、良いと思っています。
──うさぎカフェに、男性(お父さん)も相談に来ることはある?
安藤──
全体の2~3%くらいかなぁ、と思います。
奥さんと一緒にくるとか、連れてこられた体(てい)が多いです。
お父さんが一人で相談にくるパターンだと、1%かな。
一人ではなかなか来ませんね。うさぎカフェのなかは女性ばかりなので、来にくいってのもあるかと思います。
だからこそ、お父さんのための「ウサギ食堂」があるんです。
スタッフも男性で固めました。
そのおかげか、うさぎカフェではあまりしゃべらない印象のお父さんたちですが、ウサギ食堂のときはめちゃくちゃしゃべるんです!
きっと奥さんと一緒にいるときじゃ、しゃべりにくいんでしょうね(笑)
「handmadeウサギ」ができた経緯
──「handmadeウサギ」は、どのような経緯でできたのか?
安藤──
うさぎカフェを利用するお母さんたちのなかに、とても器用な人が多くいたんです。
この人たちを集めて、「うさぎカフェでマーケットを開催してみるのがいいかも」と思いつきました。
お母さんたちは、うさぎカフェには相談にくる体(てい)なので、みんな若干申し訳なさそうにしていたり遠慮していたりするんです。
飲食の代金を払ってもらうことで、私たちとなるべくフラットな関係に近づけるといっても、やっぱりフラットじゃない部分もあります。
相談に来るときの彼女たちではなく、自分の好きなことや好きなものを他の人にアピールする姿、つまりはいつもと違う姿を見たいなぁという意味もあって、まずはリアルでマーケットを開催しました。
そうしたら想像以上に本当に彼女らの顔が良くて、生き生きとしていて。
コロナ禍ではあったけど、たくさんの人が来てくれて、やりとりのようすもすごく良かったんです。
うさぎカフェはクローズドな場所ですが、マーケットを開いたときはオープンにしました。
以前から、うさぎカフェを「どうやってオープンにするか」と考えていましたが、キッカケがなかなかなかったんです。
場を守ることも大事だけど、オープンにすることも大事。
両方必要かなと思っています。
お母さんたちを傷つけたり、見世物にしたりすることは絶対にできないけど、お母さんたちを守りながらでもオープンにする方法があるんじゃないかと思っていたんです。
オープンにすることによって、近所のかたたちにも「ここはこんなことをやっている人たちがいるんだな」と知ることができます。
同時に、障がい児の保護者のサポートがいかに大事かも、社会に伝えていかなければなりません。
伝える方法として文章や写真だけではなく、リアルな場で伝える機会があればいいなと思っていたんです。
この経験があったので、オンラインショップをひらくことにもなりました。
オンラインショップでは、外の人から見たわかりやすい接点でもあります。
作品ページに、作家さんのSTORYをつけることによって、障がい児の親の子育てがどんなものかを知ってもらうことに、重きを置きました。
障がい児のことは、他の人・団体が伝えてくれますが、障がい児の親のことを伝えるのは、私たちの役割です。
ひとりで抱え込まないで
──最後にメッセージを
安藤──
一番大事なことは「ひとりで抱え込まない」こと。
これに尽きます。
自分のなかだけで考えると、ぐるぐるして何も解決しません。
今はネット社会なので、インターネットのなかで質問してつながりを作るケースがけっこうあると思います。
でもそれは、自分の子どものまわり、自分自身のまわりにいる人ではありません。
また自分のほしい情報に特化されてしまいます。
この先、難しい子育てをしていくなかで、リアルな助けがどうしても必要になってくると思います。
私もインターネットが好きなので否定するわけじゃないですけど、インターネットだけで相談していると、結果的に「ひとりでの抱え込み」になります。
実際に助けてくれる人、相談に乗ってくれる人とつながっていることが大切です。
自分の子どものまわり、自分自身のまわりにいる人であれば、客観視をしてくれます。
すると、自分でも「客観的」な目で見られるようになり、子育てがいい方向へいくと思うんです。
なるべく子育ての初期から、いろいろな人に関わってもらうことも大切。
うさぎカフェに来ても、「ああしろ、こうしろ」と指示をするわけではありません。
どうしてよいかわからなくなったときに、私たちと対話することで、結果的に自分のなかに落とし込んで折り合いをつける場なんです。
話すことによって「自分が心に引っかかっていたのは、こんなことだったんだ」「自分のことばかり考えていた…」など、気づけます。
うさぎカフェだけではなく、誰かしら相談する相手が持てるといいなと思います。
おわりに
「困っている人を助けたい」というシンプルですがとても強い想いが、ペアレント・サポートすてっぷを作り上げました。
2012年12月に発足してから以降、揺るぎがないように感じます。
常に障がい児の親のサポートを考えており、親たちの居場所、つまりは親たちを守る場を提供しているのです。
現状、幼児期の障がいのある子たちの親に軸足を置いていますが、だんだんとサポートの枠を広げているところとのこと。
すてっぷは、ニーズにあわせて細かい企画を作り、変化もしています。
この変化こそ、より良い集団を作っていくのだろうなと感じました。