エクストリームE第2戦は宿敵ハミルトンのX44を下し、ロズベルグのRXRが開幕2連勝を達成

 電動ワンメイクSUVによるオフロード選手権『Extreme E(エクストリームE)』の第2戦『Ocean X Prix』が5月29日~30日の週末に開催され、ニコ・ ロズベルグ率いるロズベルグ・Xレーシング(RXR)のヨハン・クリストファーソン/モリー・テイラー組が今季2勝目をマーク。かつての宿敵ルイス・ハミルトン率いるX44をファイナルの1コーナーで“撃破”し、記念すべきシリーズ初代勝者に輝いた開幕戦サウジアラビアに続き、連勝を飾っている。

 2021年に初年度開催を迎えたこのExtreme Eシリーズは、全5戦を予定する各イベントで気候変動の影響が顕著な地球上のあらゆる地域を訪問し、Desert(砂漠)、Arctic(北極圏)、RainForest(熱帯雨林)、Glacier(氷河)といったテーマ設定でEVによるレースを実施。モビリティ社会の持続可能性を象徴するべく、最大出力400kW(約544PS)の電動パワートレインを搭載したワンメイク車両『オデッセイ21』を使用し、男女ペアが交代でドライブして勝敗を競う。

 そのうち、Ocean(海洋)ラウンドとして開催された今回の第2戦は、西アフリカ・セネガル沿岸、ダカール近郊ラックローズの特設コースで争われ、ダカールラリーのフィニッシングステージとしても有名な海岸線沿いと大海原を背景に、テクニカルなレイアウトのコースが組まれた。

 その第2戦は土曜に行われた2度の予選セッションから、前述したF1世界チャンピオン率いる2チームが勢いを見せると、まずは9度のWRC世界ラリー選手権王者を獲得した“レジェンド”セバスチャン・ローブ擁するX44が、クリスティーナ・グティエレスとの合算最速タイムで先手を獲る。

 明けた日曜のセミファイナル1では、その2チームに割って入るように『e-CUPRA ABT XE1』をドライブするマティアス・エクストロームがスタートで好ダッシュを決めるも、地力に勝るRXRとX44が順当に逆襲してファイナル進出を確定。

 同じく3台の争いとなったセミファイナル2でも、このイベントからジェンソン・バトンの代役としてデビューを飾ったケビン・ハンセンのJBXEと、ステファン・サラザンにWシリーズ初代王者ジェイミー・チャドウィックがペアを組むヴェローチェ・レーシングが残る決勝2枠を獲得し、敗れたXITEエナジー・レーシング・パワード・バイ・マイエネルジは、エクストロームのアプト・クプラXEとともに準決勝敗退となってしまった。

 4チームが出揃ったOcean X Prixのグランドファイナルは、ファンからの人気投票で最多得票を得たドライバーにグリッド選択の優先権が与えられる“GridPlay”の結果により、ヴェローチェ・レーsングのサラザンが3番目のグリッド枠を選ぶも、スタートではJBXEのミカエラ-アーリン ・コチュリンスキーにアウト側から寄せられ、行き場を失って失速。そのままミカエラはSTCCスカンジナビアン・ツーリングカー選手権優勝経験者の実力を誇示するように、首位で海沿いのストレートに入っていく。

Ocean(海洋)ラウンドとして開催された今回の第2戦は、西アフリカ・セネガル沿岸、ダカール近郊ラックローズの特設コースで争われた
ジェンソン・バトンの代役としてデビューを飾ったケビン・ハンセンは、JBXEを決勝に導く
この第2戦で主導権を握ったのは、ルイス・ハミルトン率いるX44とロズベルグのRXRという、元F1王者が牽引する2チームとなった
セミファイナル1で”ホールショット”を奪ったABT Cupra XE(アプト・クプラXE)のマティアス・エクストロームだったが、敢えなく敗退に

■喜び爆発のニコ・ロズベルグ代表「2戦2勝なんてスゴすぎる!!」

 しかしここからレースは波乱続きの展開となり、ミカエラのマシンは接触の影響からか右リヤタイヤに異変が生じ、彼女が1コーナーに到達した時点で右リヤアクスルは完全にあさっての方向を向くトラブルで戦線離脱。

 失速したJBXEのマシンをかわして首位争いを繰り広げながら右のターン1に突入したX44とRXRの2台も交錯し、アウト側にいたX44のクリスティーナ・グティエレスがコースから弾き出され、自走不能でそのままレースを終えてしまう。

 これで楽になったのがRXRのテイラーで、かつてスバルWRX STIをドライブして女性初のオーストラリア・ラリー選手権チャンピオンに輝いた彼女は、大量リードを維持したままドライバー交代のミックスゾーンへと戻ってくる。

 しかしここで車両回収などを目的にレースは赤旗中断が宣言されると、勝負はRXRのクリストファーソンvsサラザンからバトンを受けたチャドウィックの1周スプリント対決に。

 海岸線への“ドラッグレース”でわずかにマシンをヒットさせた2台は、この時点でWorldRX3冠王者が先行して優位に立ち、テクニカルセクションに入ると15秒ものアドバンテージを築き出して勝負アリ。開幕戦に続き現地で指揮を執ったチーム創設者兼CEOであるロズベルグも「2戦2勝なんてスゴすぎる!! 最高に幸せだ」と、ドライバーたちのパフォーマンスに喜びを爆発させた。

「誰もが知るように、この結果を過小評価すべきでない。実際にテスト機会がなく、マシンを正しく理解している人物などいないんだ。そんな難しさに対し推測して物事を理解する必要があるからこそ、僕はこのシリーズにも“F1アプローチ”を持ち込もうとしたんだ」と語ったロズベルグ代表。

「素晴らしいチームの努力で、週末を通じて本当にそれを構築、改善し、パフォーマンスを助ける結果になった。開幕ではヨハンがアドバンテージを得てモリーがゴールまで持ち帰ったが、この週末は彼女が決定機を演出した。それも男女平等の精神に合致した本当にクールな瞬間だったね」

 そうロズベルグ代表に称えられたテイラーも「勝てて本当にうれしいし、最高の週末。素晴らしい仕事をしてくれたチームと、同様に素晴らしい仕事をしてくれたヨハンに心から感謝している」と喜びを語った。

「この週末は確かに簡単でなく、やるべきことが山積みだった。最高の計画を立てていても何かを予測するのは難しいし、全セッションで改善が必要な点を解析していった。最後にそのすべてが報われた感じね!」と続けたテイラー。

「決勝のグリッド位置は選べなかったし、幸運にもインサイドからのスタートでラインとポジションを守ることに集中した。ターン1はかなりタイトで轍(わだち)も深く、途中で私たちは軽い接触もあった。でもこれは接戦のレースであり、双方に起こり得ることだと思う」

 これでチャンピオンシップではRXRが71点と大量リードを構築し、2位のX44が57点で追随。同3位には「ケビン(・ハンセン)とのドライビングスタイルは本当に似ていて、そのセットアップ一元化に集中したのが功を奏した。ジェンソン(・バトン)もこのパフォーマンスを本当に喜んでくれたわ」と語るコチュリンスキーのJBXEが続いている。

 レースを終えてふたたびフローティング・パドックとなる貨客船St.Helena(セントヘレナ号)に戻った一行は、8月28~29日開催の第3戦『Artic X Prix』に向け北極圏グリーンランドへの航海に出る。

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グランドファイナルは、スタート直後からドラマ続発の展開。最終的に2チームによるデュエルに持ち込まれる
「モリーは完璧な交通整理をしてくれた。そのドライブには本当に感銘を受けたよ」とヨハン・クリストファーソン(右)
「今回は最善の努力を尽くすのが目標だったが、チーム初表彰台に貢献でき最高だ。次戦以降のドライブに繋がれば良いね」とJBXEのケビン・ハンセン(右)

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