【レースフォーカス】スタートを克服し3勝目のクアルタラロ、新シャシー投入のKTMオリベイラは初表彰台/MotoGP第6戦

 MotoGP第6戦イタリアGPは、つらく悲しい週末になった。Moto3クラスのライダー、ジェイソン・デュパスキエ(CarXpert PruestelGP)が予選中のアクシデントにより死去し、その報せはイタリアGPを深い悲しみに覆った。

 ジェイソンは19歳のスイス人ライダーで、2020年シーズンからロードレース世界選手権Moto3クラスにCarXpert PruestelGPから参戦し、今季は山中琉聖のチームメイトだった。5月29日に行われた予選のQ2中に9コーナーで転倒。コース上で処置を受けたのち、ドクターヘリでフィレンツェの病院に搬送されていた。訃報が届いたのは、Moto2クラスの決勝レース前だった。MotoGPクラスの決勝レース前には、デュパスキエの死を悼み、コース上でライダーや関係者が1分間の黙とうを捧げた。

2021年MotoGP第6戦イタリアGP ジェイソン・デュパスキエの死を悼み黙とうをささげる

 こうしたアクシデントが起これば、モーターサイクル・レースのはらむ危険性、そして安全性の向上について何度でも頭を巡らせることになる。ロードレース世界選手権に26年間にわたって参戦してきたバレンティーノ・ロッシ(ペトロナス・ヤマハSRT)が決勝レース後の取材のなかで語ったことが、こうした状況と、今回の悲しい出来事について説明されていると思うので紹介する。

「僕たちは安全のために多くの改善、コースを修正してきている。よくしようとしているんだ。必要なら何度もね。ランオフエリアについても何度もお願いしてきた。難しいこともある。改善にはお金が必要になるし、そこにランオフエリアをつくるスペースがないこともあるから」

「一方、ヘルメット、レーシングスーツ、エアバッグ(※2018年から着用が義務付けられている)の安全性は大幅に向上している。ここ数年、安全性は高まっていると思う。ただ、残念ながら、今回のような状況下では、僕たちは十分に安全を確保できない。モーターサイクル・レーシングの問題は、クラッシュしたときにコース上にライダーが残ってしまうということ」

「そして、ほかのライダーが後ろからやってくるということなんだ。しかし、(回避のために)何ができるのか、というのは難しいことだ。例えば練習走行では、ひとりで走ることができる。でもレースでは、ほかのライダーと競いながら走る。こういう問題を解決するのは、残念ながら、すごく難しいとは思う」

 MotoGPは“スポーツ”であって、彼らが懸けているのは、純粋な情熱や自身の技術のはずだ。今後も安全性については議論され、さらによくしようとしていくだろう。今はただ、デュパスキエの冥福を祈るとともに、こうした悲しい出来事が再び起こらないことを強く願う。

■フロントの感触を取り戻したクアルタラロ

 決勝レースは優勝候補の一角であったファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)がほぼ独走での勝利を挙げた。もうひとりの優勝候補だったフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)はホールショットを奪って1周目にはクアルタラロに先行していたのだが、2周目の9コーナーで転倒を喫してリタイア。クアルタラロはヨハン・ザルコ(プラマック・レーシング)を交わし、そこからは独壇場だった。

 クアルタラロは、トップでチェッカーを受けたあと、何度も天に向かって両手の人差し指を掲げた。そして決勝レース後の会見のなかで、「この優勝はジェイソンとその家族に捧げる」と語った。

ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)

 ヤマハは今大会、新しくフロントのホールショットデバイスを投入した。ムジェロ・サーキットはストレートが長く、スタートラインから1コーナーまで距離がある。スタートから1コーナーにかけてはバニャイアにわずかに先行を許したが、クアルタラロはこの新しいデバイスについて好感触を抱いた様子だ。

「今週の最初から、フィーリングはよかった。ブレーキングでは少しだけ怖かったけどね。通常、バイクは(車高が)高い。でも(ホールショットデバイスを使うと)バイクがすごく低くなっているから、ブレーキングでは怖さみたいなものを感じるんだ」

 さらに「まだすべてのポテンシャルを使っていない」とも述べ、今後に向けた期待感をも示した。チームメイトであるマーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)も同じように「すごくよかった」と加速が向上したことを感じたという。ヤマハはスタートの改善をポイントとしてきたが、フロントのホールショットデバイス投入により、その弱点克服に近づいたと言えるのかもしれない。

 そして、クアルタラロは今季のヤマハYZR-M1が2019年のときのフィーリングに近いものだとも語った。フロントのフィーリングをよくつかむことができているのだという。

「2019年シーズンには、僕の調子はすごく安定していた。フロントのフィーリングがすごくよかったんだ。でも2020年シーズンにはフロントのフィーリングがなかった。ヘレスやバルセロナ(カタルーニャ)では僕はすごく速かったけど、どのコーナーでもクラッシュしそうだった」

「でも、今年はヘレスでもベストを更新している。オーバーテイクするときは、フロントが動いているのを感じるし、クラッシュしそうなことがわかる。今年のマシンは、2019年と同じように、このように強力なポイントを持っているんだ」

 フロントの動きを微細に感じ取ることができるからこそ、攻めることができるということだろう。クアルタラロの快進撃は続くかもしれない。

 2位を獲得したミゲール・オリベイラ(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)のKTMも、“新しいモノ”を持ち込んでいた。2020年にはオリベイラとブラッド・ビンダー(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)によって3勝を挙げて、今季はコンセッション(優遇措置)を外れている。しかし、第5戦フランスGPまで、KTM全体的として流れに乗れていない感じがあった。

2021年MotoGP第6戦イタリアGP決勝 ミゲール・オリベイラ(レッドブルKTMファクトリー・レーシング)

 KTMはイタリアGPで、新しいシャシーを投入。これは、第4スペインGP後のヘレステストで持ち込まれたものだった。フリー走行3回目では、ビンダーが362.4km/hの最高速を記録している。これはドゥカティを上回る1番手のトップスピードだった。ただ、トップスピードについては2020年から向上を見せていたところではある。

 オリベイラによれば、「新しいフレームは、コーナー立ち上がりを少しよくした。少なくとも、タイヤにはもう少し優しくなって、タイヤライフが長くなった」のだとか。6番グリッドからスタートし、5位でフィニッシュしたビンダーもコーナーでのフィーリングがよくなったと感じている。

「新しいフレームで改善された主なポイントは、少し自然に旋回できるようになったこと。バイクが少しでも自然に曲がっていけば、タイヤのエッジに長く頼らなくてもいいからね。また、レースディスタンスでのリヤタイヤにとってもいい。コーナー出口に向けての準備がうまくできるんだ」

 一方、スズキのミルは、チームメイトのリンスやジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)と争いながらポジションを上げていった。ミラーは次第に遅れ、リンスは残り5周の15コーナーでスリップダウン。ミルはオリベイラに続く3位でチェッカーを受けた。ミルとしては今季2度目の表彰台だ。

 長いストレートを持つムジェロ・サーキットで、トップスピードで劣るスズキで表彰台を獲得したことは、ミルにとって上々の結果だったようだ。

「ここは僕たちにとって、オーバーテイクが難しいサーキットだ。セクター1ではかなりタイムをロスしていた。すべてのストレートでかなりのタイムをロスしていたんだ。それに、ミゲルは特にブレーキングが素晴らしかった。彼をオーバーテイクするチャンスがあまりなかったね」

「シーズン序盤は難しいだろうって言ったと思うけど、今の時点で2回も表彰台を獲得している。そしてこれから、僕たちが得意とするサーキットでのレースになる。だからとても楽観的ではあるよ。もっと強くなっていくだろうと思うし、うまくいけば毎回表彰台を獲得するだろう」

 KTMやスズキが調子を上げてきた。シーズン前半戦は残り3戦。次戦カタルーニャGPでの勢力図はどうなるだろうか。

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