「こんなところに人工知能」AIがマグロを目利き、競馬を予想、精子を選ぶ時代  最新活用例を追う

2018年の第79回菊花賞で優勝したフィエールマン(奥)。AIが予想を的中させた=京都競馬場

 私たちの生活のさまざまな場面に人工知能(AI)が活用されるようになってきた。AIが人に代わり、上質のマグロを「目利き」し、競馬の予想も的中させる。人工授精に使われる良好な精子も判別するようになった。AI利用の最前線を追った。(共同通信=沢野林太郎)

 ▽回転ずしに「AIマグロ」

 鮮やかな赤い色をしたマグロのすしが流れてきた。回転ずし大手くら寿司(堺市)はキハダマグロの選別にAIを活用している。仕入れの際、尾の断面をスマートフォンで撮影すると専用アプリに「A」「B」「M」と表示が出る。ベテランの「目利き」が評価した大量の画像をAIがディープラーニング(深層学習)で分析、色合いや脂肪、身の締まり具合から「特上」はA、「上」はB、「並」はMと3段階で瞬時に自動判別する。

マグロの尾部分をスマートフォンで撮影し、品質を自動で評価するアプリ(電通提供)

 マグロの品質を評価する目利きは人によって基準が異なり、一人前になるには10年以上かかるとされ後継者不足も深刻だ。アプリは大手広告会社の電通などが開発した。

 担当者は「アプリを使えば、素人でも品質を見極めることができる」と語る。新型コロナウイルスの影響で仕入れ担当者が海外の現場に行けないケースも多く、活用されているという。AIマグロは米ニューヨークやシンガポールの別の日本食店でも提供されている。

 ▽GⅠ優勝を的中

 ゴール直前の接戦を僅差で制したのは、7番人気のフィエールマンだった。2018年10月に行われた中央競馬の第79回菊花賞(GⅠ)。予想をずばり的中させたのは、ベテラン競馬担当記者ではなくAIだ。

 「あのレースは忘れられない」。日刊スポーツでAI予想担当の高橋悟史さんが振り返る。同社はベテラン記者約20人を抱える。記者は過去のレースや馬の血統を分析し、調教師、馬主など関係者への取材を積み重ね、さらに当日の天気や馬体重、競馬場の芝や土の状態も考慮して勝ち馬を予想する。

 多くのベテラン記者がこのレースで勝つと予想したブラストワンピースは3連勝したこともあり、調教師も太鼓判を押していた。1番人気となったが、4着に沈んだ。

 菊花賞では通常、秋に別のレースに1回出走した馬が勝つケースが多いとされる。フィエールマンは3カ月近くも出走せず、GⅠと呼ばれる格の高いレースに出た経験もない。賞金額が高いレースで勝ったこともなかった。「今振り返ってみても本命とは打てない。勝つ根拠がないからだ」と高橋さん。

AI予想で2018年、第79回菊花賞の1着を的中させた日刊スポーツの紙面(同社提供)

 AIはフィエールマンの勝利を予想した。過去に行われた中央・地方競馬の詳しい結果、馬の血統や着順、競馬場の状態に関する膨大な競馬データを分析している。

 高橋さんは「人間が記憶できる量とは比べものにならない。そこから導き出された結果だ」と話す。しかしAIは「なぜ1着なのか」という根拠は示さない。  日刊スポーツは18年からIT企業に委託して「AI予想」をしている。高橋さんは、AI予想は当たるのかどうか詳しくは言えないとした上で「予想記者全員の平均と比べると、AIの方が少しだけ的中率が高い」と明かす。

 データを基に独自の取材や経験、勘を加味して予想するベテラン記者。大量のデータを分析するが具体的な根拠を示さないAI。「最終的にどちらを選択するかは馬券を買う人次第です」

 ▽不妊治療にも

 顕微鏡の中で動き回る無数の精子のうち、数個に青いマークが付けられた。形や大きさが良く、運動量も豊富だ。AIが受精に適していると判定した良好な精子だ。

 不妊治療では体内から取り出した卵子と精子を顕微鏡を使って受精させる。不妊の原因は男性側にある場合も多い。治療には良い精子を選ぶことが重要。東京慈恵会医科大とオリンパスは共同でAIが精子を選ぶ技術開発を進めている。

 AIは過去の精子データ約1500例を解析し、大きさやくぼみ、ゆがみなどから最適な精子の特徴を学習し、判別をサポートする。通常は胚培養士と呼ばれる認定を受けた専門スタッフが経験と勘を頼りに肉眼で選び、卵子に注入していた。

枠内がAIが最適と判別した精子(オリンパス提供)

 卵子はダメージを受けやすいため、迅速に受精させなければならず、胚培養士には高度な技術が必要とされる。AIはたくさんの精子の中から瞬時に判別できるため、作業時間が短縮できる。

 オリンパスの担当者は「AIが選択肢を提示し補助をするが、最終的には胚培養士が判断する」と話す。数年以内の実用化を目指している。

 日本では約5・5組に1組の夫婦が不妊検査や治療を受けている。新生児の約17人に1人は、体外受精など生殖補助医療によって誕生している。不妊治療は女性の身体的な負担が大きく、多額の費用も必要になる。最新テクノロジーの導入で治療への心理的なハードルが下がるなら、少子化問題への光明となるかもしれない。

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「こんなところに人工知能」②

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