加賀まりこ54年ぶり映画主演 塚地武雅演じる自閉症の息子の母 差別や共生の希望描く「梅切らぬバカ」で

加賀まりこが親子役で塚地武雅と初共演する、54年ぶりの主演映画「梅切らぬバカ」が、2021年に劇場公開される。また、上海国際映画祭アジア新人部門作品賞にノミネートされたことが発表された。

「梅切らぬバカ」は、老いた母親と自閉症の息子が、地域コミュニティとの交流を通じ、自立の道を模索する姿を描いた作品。障害者への偏見や無意識の差別などの問題に正面から向き合いながら、母と子の揺るぎない絆、共生への希望、日常の尊さなどを描いた作品となっている。タイトルは、特徴に合わせて世話をする必要があることを意味することわざ「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」から取られている。

地域社会と距離を置きながら古民家でひっそりと暮らす珠子を演じるのは、「濡れた逢びき」以来54年ぶりの主演作となる加賀まりこ。珠子の息子で自閉症の忠男役には、「間宮兄弟」「キサラギ」などの塚地武雅(ドランクドラゴン)。地域社会から孤立して仲良く暮らすふたりが、やがて訪れる”親亡き世界”に向け、自立と新たなコミュニティを求めて強い意志で行動を起こす姿を、ユーモアを交えながら体当たりで演じている。

他のキャストには、珠子たちの家の隣に引っ越してきた里村家夫婦に渡辺いっけいと森口瑤子、珠子と交流を深めていく里村家の息子・草太に斎藤汰鷹、グループホームの運営に反対する乗馬クラブのオーナーに高島礼子、グループホームの代表に林家正蔵らが名を連ねる。

これまで日本映画の若手映画作家を育ててきた「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」の長編映画として選出・製作された本作。脚本・監督は、短編「第三の肌」でも「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」に選出された映画作家・和島香太郎が務めている。ドキュメンタリー映画にも関わり、障害者の住まいの問題に接してきた和島監督が、高齢の親が中年の子供を養い続けることで表面化する社会的孤立と親子共倒れの危機、障害者施設に対する地域コミュニティの偏見や軋轢などの問題を取り入れながら、母と子の絆と共生への希望を描く。

主演の加賀まりこは、「手にした台本は今時のチャラさがなく、内容が新人らしからぬ地に足が着いているものでした」「いやでも”明日”はやってくる。この親子の日常は続く。どうか見守ってください」とコメントを寄せている。塚地武雅は、「この作品を通して、自閉症の方の性格や行動を学び少しでも理解すると接し方が変わるのではということに気づかせてもらいました。自閉症を知るきっかけにこの作品がなれればいいなと思っています」とメッセージを送っている。

【コメント全文】

■山田珠子役:加賀まりこ

手にした台本は今時のチャラさがなく、内容が新人らしからぬ地に足が着いているものでした。
どんな人が書いたのだろうと思っていたら和島監督は、叔父にあたる元横綱の北の富士さんに似た雰囲気はあるものの、
全く無口で静かなヤツでした。
障害を持つ子供の親の方は、人に優しく、責任感が強い。その部分を大事にして演じました。
息子役の塚地さんは前からファンでしたが、共演してみてますます好きになりました。
そうして出来上がった映画は、たんたんと重い場面がすすむのでかえってホッとしました。音楽も、静かでよかったです。
いやでも「明日」はやってくる。この親子の日常は続く。どうか見守ってください。

■山田忠男役:塚地武雅

台本を読ませていただいた時は、忠さんを取り巻く家族、隣人、グループホームの仲間、世話人の方、仕事場の方々、地域の皆さん、多くの人の生活が丁寧にリアルに描かれており、大切なテーマだなと思いました。和島監督はこのテーマに対し一緒に悩み、一緒に喜び愛情を持って作品を作り上げ、その愛が映像にも出ていると思います。
共演させていただいた加賀さんは優しく頼りになる本当に母のような存在でした。常に作品のことを考え、こうした方がいいのではというアイデアもなるほどと納得するものばかりで、お芝居に対する姿勢、取り組み方を今回沢山学ばせてもらいました。
忠さんを演じるにあたりグループホームを訪問し自閉症の人達の生活を見させていただき、ご家族や世話人の方からも沢山お話を聞かせていただきました。自分の中に見えてきた忠さん像を、プレッシャーもありましたが真摯に真っ直ぐに演じました。
この作品を通して、自閉症の方の性格や行動を学び少しでも理解すると接し方が変わるのではということに気づかせてもらいました。自閉症を知るきっかけにこの作品がなれればいいなと思っています。

■監督・脚本: 和島香太郎

以前、あるドキュメンタリー映画の編集を担当しました。自閉症と軽度の知的障害を抱える男性のひとり暮らしを描いた作品です。膨大な映像素材には、男性を支える親戚や福祉関係者の姿が記録されていましたが、近隣住民の姿が写っていませんでした。自立を支える人間が身近にいない問題に言及するため、近隣住民への取材を試みましたが、カメラを向けることは許されませんでした。溝を深めているのは、自閉症を原因とする予測のつかない行動への恐れと、「安定した暮らしを保ちたい」という普通の願望のために語られる、障害者排除の論理でした。虚構という形であれば、この意図せざる差別の構造を描けるのではないかと思い、本作を構想しました。
テーマに共感してくださった加賀さんは、共生の可能性を模索すると共に、自分を生かしてくれた息子・忠男への感謝の思いを携えて演じてくださいました。また、塚地さんが演じる忠男を見つめていると、ありのままで生きる喜びと日常を守ることの尊さを感じ取ることができます。
上海国際映画祭へのノミネートを嬉しく思っています。障害のある人の住まいをめぐる問題と、共生の描写がどのように受け止められるのかが楽しみです。

■上海国際映画祭プログラミング・ディレクター:徐昊辰
“障害者への偏見や差別”、“他人や社会へ配慮しすぎる人々”。この社会はどこかズレている。
そして、コロナはその“ズレ”を更に加速させた。和島香太郎監督は、この世の中を冷静に見つめ、力強いメッセージを出した。
皆さん、どうか“バカ”にならないでください!

【作品情報】
梅切らぬバカ
2021年全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト

© 合同会社シングルライン