インドネシア全34州の旅 #9 バンカ・ブリトゥン州 巨岩のビーチ、「ラスカル・プランギ」の島

文・写真…鍋山俊雄

バスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)ジャカルタ特別州元知事の出身地として知られるのが、ブリトゥン島。元々は南スマトラ州の一部だったが、2000年に分離し、バンカ・ブリトゥン州として独立した。バンカ島とブリトゥン島の2つの大きな島が同州の中心だ。

バンカ島、ブリトゥン島のそれぞれに、錫(tin、インドネシア語ではtimah)や、カオリン(kaolin=磁器などの材料)の鉱床があり、発掘サイトに水が溜まり、幻想的な青い湖になっている場所がいくつかある。

私は両方の島に行ったことがあるが、どちらも、ジャカルタから飛行機で約1時間という手軽な距離にある。

ブリトゥン島に到着

ブリトゥン島の空港ビル

インドネシアの映画「ラスカル・プランギ」の舞台となったのも、ブリトゥン島だ。同島の小さな小学校の子供たちを描いた映画で、撮影場所として使われた海岸が島の北部にある(下写真はその案内板)。ブリトゥン島の中心地タンジュン・パンダン(Tanjung Pandan)から車で1時間半ほど北に上った、北端のタンジュン・ティンギ(Tanjung Tinggi)という海岸である。子供たちがこの海岸で遊んでいて虹に見とれるシーンで、先生が子供たちに「ラスカル・プランギ(虹軍団)ー」と呼びかけている。大きな石のごろごろした海岸が、景勝地の1つとして人気がある。

この海岸から一番近い所に宿を取った。場所柄、中心の街から外れているため、辺りには公共交通機関はまったくない。海岸へ行くには車チャーターか徒歩しかない。地図で見ると大した距離ではなさそうなので、歩いて行くことにした。

試しに、ホテルのスタッフに、「歩いてどれぐらいかかるか」と聞いたら、しばらく考えてから「10分ぐらいか」との答え。大したことはないと歩き始めたが、行けども行けども着かず、たっぷり30分以上は歩いた。余談だが、ここブリトゥン島だけではなく、インドネシア人は基本的に歩かず、オジェックなりベチャなりを使うことが多いので、「歩いて何分かかる?」との質問に対して正確な答えが返ってきたことはあまりない。

タンジュン・ティンギにはお土産物屋も出ていて、インドネシア人観光客でにぎわっていた。海岸には、切り立った大きな岩がごろごろしている。表面にごつごつした所がなくて丸みを帯びた岩石群が、何か大きな生物の群のように、砂浜に、そして沖の波間に見え隠れしている。バンカ島にも同様の海岸があるので、この地域の特徴なのだろう。

巨岩が見えるタンジュン・ティンギ

巨岩を伝って歩いて行ける

お土産で売られているラスカル・プランギTシャツ

ちなみに、ここから北上した所、インドネシア領海の北端にある大ナトゥナ島(リアウ諸島州)にも、似たような大きな岩群がある。ここについては、また、同州編で触れたい。

バンカ・ブリトゥン州にはマレー系が半分以上のほか、中華系が3割近くと多いことから、街に出ると、中華系の建物やレストランが目に付く。運転手に連れて行ってもらった夕食、翌日の昼食、いずれも中華系のレストランだった。

ブリトゥン島名物、ミー・ブリトゥン(ブリトゥン風麺)の店

カオリンを採掘するサイトにも足を伸ばしてみた。真っ白な岩々に囲まれた窪みに水が溜まり、鮮やかな水色をしている。あいにくの曇り空にもかかわらず、水の色が不自然なほどに青々しているのが印象的だった。近くには、採掘したカオリンを加工する工場、掘り出したカオリン鉱石の貯蔵地があり、白い石山がいくつも出来ていた。

カオリンを採掘している場所に水が貯まって幻想的な光景となっている

カオリンの採掘場に出来た湖

湖の脇にある、採掘したカオリンの堆積場

運転手によれば、この島では昔、雷が鳴ると、人々は外を出歩くのを控え、家にこもったそうだ。地面に落雷すると金属成分が多いため、稲妻が地面を走って危険だったらしい。

一方のバンカ島はブリトゥン島の西に位置し、南スラウェシ州の海岸に面している。昔はスマトラ島と一体だったのかと思えるような形をしている。

バンカ島の新しい空港ビル

バンカ島に行った際も、カオリンの発掘サイトが湖になった「Danau Kaolin Air Bara」という、島南部にある場所へ、これまたあいにくの雨模様の中、空港のあるパンカル・ピナン(Pangkal Pinang)から約2時間かけて見に行った。2つの湖のうち、1つは鮮やかな水色、もう1つは、やや緑がかった黄緑色だった。

左右のカオリン採掘湖で色が異なる

運転手の話では、2015年ごろに旅行ブームになり、当時は多数の国内観光客が訪れたとのことだ。当時ほどではないが、今でも観光客は多いそうで、実際、雨天にもかかわらず、私以外にも1家族が見に来ていた。

パンカル・ピナンから北上した東側の海岸の多くの岬(tanjung)が観光開発されていて、ホテル・リゾートがいくつか出来ている。売りはやはり、石のごろごろした海岸で、それを景勝ポイントとしている。いくつかの岬を見て回ったが、個人的にはタンジュン・ペソナ(Tanjung Pesona)が最も石の見栄えが良く、印象に残った。

リゾートのあるパライ・トゥンギリ(Parai Tenggiri)

巨岩が並ぶタンジュン・ペソナ(Tanjung Pesona)

華人系の住民が多いので、寺もある

華人商店街

街中には、この島の産出資源である、錫の採掘加工会社、その名も「PT. Timah (Persero)Tbk」がある。その本社近くには錫博物館(Timah Museum)もあった。見学を楽しみにしていたのだが、行ったのが祝日で、昼前に立ち寄ったところ、カギが掛かっていた。閉館は午後4時と書いてあったので、午後3時過ぎに戻ってみたら、門はぴったり閉まっていた。結局、見逃してしまったことが心残りである。

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