3度の戦力外は「マジか」「来たか」「来たか」 2度も蘇った“奇跡の男”の稀なプロ人生

中日、阪神、西武でプレーした森越祐人氏【写真:小西亮】

中日、阪神、西武で計10年間プレーした森越祐人氏

周囲からは“奇跡”なんて言われた。たしかに、稀なプロ野球人生だった。ごく一握りしか再起を果たせないトライアウトを経て、2度も他球団に“再就職”。結果的に10年間の現役生活で、3度の戦力外通告を受けた。短期間で直面してきた岐路の連続。酒飲み話にして笑い飛ばすことはできない。ムードメーカーだった愛嬌のある顔が、ふと引き締まる。「いい経験とは思えないですね」。この春から再出発を果たした“元プロ”は、厳しかった世界を振り返る。【小西亮】

1度目は2014年秋。名城大から2010年のドラフト4位で地元の中日に入団した森越祐人氏は、まだ26歳だった。「マジか」。開幕1軍をつかみ取った4年目に訪れた非情通告。「『よし、これから』と思っていた時だったので、あの時はさすがに心が折れましたね」。4年間で40試合に出場。15打数2安打、1盗塁の成績だった。

堅実な守備を売りにしてきた内野手にとっては、これ以上ない過酷な環境だったのもある。1年目の2011年は、当時の落合博満監督が築いた黄金期の最終盤。チームはリーグ連覇を果たした。遊撃には荒木雅博(現中日1軍内野守備走塁コーチ)、二塁には井端弘和(現侍ジャパン内野守備走塁コーチ)、三塁には森野将彦(前中日2軍打撃コーチ)が君臨していた。

「とんでもない所に入ってきてしまったなと。サブのメンバーも決まっている状態で、誰かの“ケガ待ち”という状態でした」

それでも、少年時代から夢見た世界。何もせずに終わるわけにはいかなかった。プロ野球12球団合同トライアウトを受験。期限ギリギリになって、携帯電話が鳴った。「これが噂に言う知らない番号かと(笑)」。阪神からのオファーを受け、2015年からタテジマに袖を通した。

環境とともに、自身の考え方も変化。ただがむしゃらにレギュラーだけを追いかけていた中日時代とは違い「阪神に来てからは“1年でも長く”という気持ちに方向転換しました」。移籍2年目までは計9試合出場にとどまったが、3年目以降は守備固めや代打としての機会が増加。ベンチを盛り上げる“元気印”としての立場も築いた。

阪神では計5年間で54試合に出場し、63打数7安打、2打点。1軍出場がなかった2019年秋に2度目の戦力外通告が待っていた。「来たか」。“経験者”として、覚悟はできていた。当時31歳。ユニホームを脱いでも不思議ではない年齢だったが、心持ちは違った。シーズン終盤にかけて打撃は上り調子。1度目の時は「やりたい」だったが、今度は「やれる」。2度目のトライアウトでは本塁打を放つなど猛アピールし、パ・リーグに渡った。

名城大で野手総合コーチを務める森越祐人氏【写真:小西亮】

西武はわずか1年で戦力外も…球団は「獲得したことは無駄じゃなかった」

西武からオファーをもらった時、編成担当からもらった言葉だけは今でも忘れられない。

「2軍に落ちた時でも手を抜かず、全力でやっている姿を見てきた。間違いなく、ウチの若手たちのお手本になってくれると思った」

森越氏自身が、貫いてきた信条でもあった。「見てる人は見てるんだなって」。ひたむきに、全力で。結果だけで見れば1軍出場なく1年でチームを去ることにはなった。2年連続で「来たか」と受け入れたが、最後に球団フロントにもらった言葉も有り難かった。「獲得したことは無駄じゃなかったと思っている。一生懸命やってくれてありがとう」。名古屋から始まった現役生活は、大阪をへて埼玉で終わりを迎えた。

心残りはない。「3球団やって結果が出なかったので、スッキリしました」。挑めば、4球団目の可能性もあったかもしれないが「仮に獲得してくれる球団があったとしても、こんな気持ちじゃ野球に対して申し訳ない」。2度倒れても蘇った“奇跡の男”は、最後に潔かった。

数多いるプロ野球選手の中でも、ほとんどが経験することのない3度の戦力外。誇ることはないが「恥ずかしいことでもないと思います」。懸命にプロの世界で戦い抜いた勲章でもあり、様々な環境で多くの出会い、刺激もあった。

チームや選手によって違った練習法や考え方は、第2の人生に生かす。アマチュアへの指導資格を回復し、3月から母校・名城大で野手総合コーチに就任。兄貴的な役割を担い、学生と近い目線に立って言葉を交わす。さらに治療機器の販売などを手がける会社「サンメディカル」(名古屋市)にも勤務。元選手としての実体験を還元する。

指導者でも、会社員でも、仕事と向き合う姿勢は揺るがない。「自分の人生なんで、自分が納得いくように」。全力プレーが、未来を切り開くことを知っている。(小西亮 / Ryo Konishi)

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