野球の文化を次世代に継承するために… ポニー初の女性理事が加える多様性のエッセンス

ポニーの歴史の中で初めて女性理事に就任した小出村珠美さん【写真:編集部】

新理事・小出村さんを後押しした本質行動学という学び

外資系企業に勤めながら、イベントMCや場内アナウンサーとしても活躍する小出村珠美さん。日本ポニーベースボール協会(ポニー)が主催するイベントのMCや、国際会議に出席する那須勇元事務総長の通訳を務めた縁で、今年からポニー初の女性理事に就任した。

「役員会議の通訳として呼んでいただいた時に『お母さんたちの声を聞かないとダメですよね』なんて熱く語っていたら、那須さんに『小出村さん、司会進行や通訳だけじゃなくて、もっとやりたいことあるんじゃないですか? 理事をやりませんか?』と声を掛けていただきました。最初は冗談だと思っていたんですけど『いや、大真面目です』と(笑)」

息子2人も子どもの頃は別団体で野球をプレー。子どもたちが野球に打ち込む姿に目を細めつつも、送迎やお茶くみ当番など保護者にかかる負担の大きさ、そして男社会の野球界の中で届きそうで届かないお母さんたちの声や悩みも、自分事として理解している。

「おそらく女性が理事になって『何をしてくれるんだ?』『野球のこと、分かってるの?』と警戒されていると思います(笑)。でも、今まで積み上げてきたものを壊したり排除したりするわけではなく、長く持続可能な組織やチームであるために、今ある物はリスペクトしながら多様性というエッセンスを加えていくということ。その過程で、ポニーが掲げる『子どもの成長を守る』という本質を見失わないようにいたいと思います」

小出村さんが理事就任を引き受けたのは、ポニーが掲げる理念やこれまでの取り組みに賛同したから。それと同時に、早稲田大学大学院商学研究科客員准教授の西條剛央氏が主宰するエッセンシャル・マネジメント・スクール(EMS)で得た学びに後押しされた部分も大きいという。

「人間の本質行動を学ぶ学校で、参加者はプロの女子サッカー選手やラグビーOB、アナウンサー、クリエイター、医師もいれば、現役大学生や卒業したばかりの若い人たちもいるんです。グループに分かれて、物事の本質について語り合い、学んでいく場なんですが、私はここでの学びを通じて、ボンヤリと抱いていた自分の考えや思いを言語化することができるようになり、おかげでポニーの理事として目指すSDGsや多様性の実現について、自分の言葉で伝えられるようになりました」

指導者こそが身につけたい本質を見失わない目と行動

何かに取り組んでいる時、時間の経過と共に見失われがちなのが、本来の目的や意味、つまり本質だ。例えば、楽しいから始めたはずの野球が、いつの間にか試合に勝つために長い練習をやらされる野球になってしまったら……。安定した打撃フォームを繰り返し再現するために行う体幹トレーニングが、いつもの練習メニューに入っているから体を動かしているだけになってしまったら……。本質を見失った行動は意味をなさず、期待される効果は生まれない。

ポニーでは「国の宝である子どもの成長を守る」という理念があるが、指導者が試合で勝つことに目を奪われ、過度の練習を要求したり、怒声・罵声を浴びせたりするようなことがあっては元も子もない。本質を見失わなずに野球という文化を次世代に継承していくためにも「指導者の皆さんにぜひお勧めしたい学びの場です」と小出村さんは言う。

近年は野球界でも各団体、各地域で指導者講習会が開催され、時代に即した指導法や最新の知識が得られる学びの場が提供される機会が増えた。かつての経験だけを頼りにする指導方法はもう古い。小出村さんは、EMSで講師を務める京都芸術大学の本間正人教授の言葉を、こう紹介する。

「本間先生は、人間にとって大事なのは“最終学歴”ではなく“最新学歴”の更新だと仰有っています。年齢を重ね、長い人生を振り返った時、最終学歴と呼ばれる時間はずっと昔のことで、ほんの一時期しかない。大切なのはそこではなく、常に学ぶ姿勢を持ちながら最新学歴を更新していくこと。この言葉を聞いて、本当にそうだと共感しました」

ポニー初の女性理事として、那須事務総長から託されたのはSDGsの実現ではあるが、同時にポニーという団体が目指す本質を見失わず、そして関わる全ての大人が柔軟な思考と学ぶ姿勢を持つ人物であるためにも、新理事の加入は大きな意味を持つことになりそうだ。

「多様性をそのまま受け入れることで、これから自分が生み出すものが進化していく。自分が向上するために、多様性を受け入れることは必須。大人だけではなく、ポニーに所属する子どもたちも自然と多様性を感じ取り、受け入れることができれば、ポニーを卒業した後もきっと社会に貢献できる人材に成長すると思います」

子ども、指導者、母親を含む保護者など、ポニーに関わる全ての人が野球を好きであり続けるために、小出村さんの歩みは始まったばかりだ。(Full-Count編集部)

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