北朝鮮に拉致された横田めぐみさん=失踪当時(13)=の父滋さんの死去から、5日で1年。救出活動の先頭に立ち続けた夫を失いながらも、母の早紀江さん(85)は歩みを止めずに再会の日を願い続ける。「結果が出ないまま時が流れ、本当に悲しい。めぐみちゃんが帰ったら、お父さんの遺骨を抱きしめてほしい」。一周忌を前にオンラインで取材に応じ、1日も早い帰国を訴えた。
「いつも一緒に頑張ってきた人が、単身赴任ではなくて、帰ってこないんだなと思うと…人は亡くなったら、何もないんだな」
早紀江さんは昨年6月に87歳で亡くなった滋さんのいない1年を振り返り、「本当に貴重なものを残してくれたので、ありがたいと思っている」と続けた。
遺骨は今も居間に飾った遺影の横に置かれ、家族と一緒にめぐみさんの帰国を待ち続けている。早紀江さんは毎朝「おはよう」と語り掛けて「北朝鮮のめぐみちゃんや多くの人に健康と忍耐力が与えられるように」と祈り、めぐみさんが滋さんに贈った「くし」を大切にしながら再会できる日を願い続けているという。
「お父さんは、めぐみちゃんを抱きしめたいと思って頑張っていた。それができなかった分、お父さんの遺骨を抱きしめてほしい」
ただ、拉致問題は今も解決の兆しが見えず、「亡くなっても何も動かない。日本中の方々が心配してくれていても、どうにもならないもどかしさがある」と吐露。「私も『(滋さんと)一緒に入ったらどうですか』と言われるくらい、年をとった」とも話し、高齢化した被害者家族に残された時間の少なさに焦りをにじませた。
一方、新型コロナウイルスの感染拡大で国際情勢は混沌(こんとん)さを増し、日米両政府の首脳も交代した。拉致被害者家族会の活動も限定的にならざるを得ない。早紀江さんは「いろいろな外交が展開されたが、異なった考えの国同士が 折り合うのは難しい」と嘆きながらも、「拉致問題が消えないように、写真や語りで忘れないように 動いていくことが大事だと思う」と語った。
滋さんの命日となる5日午前10時~午後5時、川崎市などはJR川崎駅北口自由通路で、めぐみさんの写真展を開催する。