旧今井染物屋を改修 雪国・高田の地域文化を発信 バテンレースなどの工房を設置

 古くからの雁木、町家が残る上越市高田地区。城下町として栄えた、情緒ある町並みは市の大きな財産であり、宝となっています。その中でも、大町5にある旧今井染物屋は、江戸時代末期に建てられ、市内で現存する最古、最大級の町家建築とされています。保存と利活用を図ろうと耐震改修工事が施され、バテンレースをはじめ手仕事ができる場となり、新たな地域文化の発信地として開館しています。

雪国・高田の町家 旧今井染物屋

 旧今井染物屋がある大町5は、高田の城下町が造られた江戸時代から職人町として栄え、同施設は染物屋を営み、多くの職人たちが住み込みで働いていました。建物は木造切妻造り、2階建て、軒が低く、屋根の傾斜が緩やか、雁木は古い形態の「造り込み式」で、通路の上部を物置や居住に使用していました。

 屋根を軽量化し、太い柱に細い梁(はり)を整然と組んだ三間四方もあるチャノマは、天井を張っておらず、吹抜の高い空間で、技術的にも意匠的にも洗練された雪国・高田の町家の特徴を表しています。保存状態もよく、高田を代表する町家として価値が高いことから、令和元年8月に上越市文化財に指定されました。

チャノマ

 貴重な文化財である旧今井染物屋の保存と、約130年続いてきた雪国高田の風士産業「バテンレース」を後世に残していくため、耐震改修工事を施しました。バテンレースを基軸とした常設工房を設置し、地域文化の継承と発信の拠点として再生し、今年4月に開館しました。改修工事費は約9400万円で、国の地域再生計画の認定を受け、半分は国からの補助となっています。

高田で流行したバテンレース

 バテンレースは、ドイツのヘッセン州にあるバテンブルグという地名にちなんで付けられた貴族名が、名前の直接の由来といわれています。糸を幅1cm程度のテープ状に編んだ「ブレード」と呼ばれる縁飾りを、草花などの型紙のデザインに沿って組み合わせ、その内側にかがり縫いで模様を施すレース製品です。インテリアやファッション等に取り人れられています。

 国内には1892(明治25)年に北アメリカから横浜に伝わりました。上越地域でのバテンレースの生産は、1898(明治31)年に、横浜の飯島商会が高田に支店を出したことに始まります。コメの単作地帯で農閑期があることや、仕事が清潔で、家庭で内職としてできることから、女性に流行しました。

 旧今井染物屋がある大町5は明治から大正にかけて繊維業で栄え、同事業から発展した有沢製作所(本社・上越市南本町1)の創業の地でもあります。特にバテンレースは高田の一大産業として発展し、明治末期には新潟県が全国の4分の1のシェアを占め、高田の人口の3分の1、約8000人が従事するほどの基幹産業となりました。

バテンレースなど手仕事文化を発信

 館内に工房を常設する吉田バテンレース(上越市東本町2)は約130年の歴史があり、現在、ブレードから製品まで一貫生産する唯一の事業者です。現代表の吉田節子さん(70)の祖父、虎八郎さんから、2代目・要さん、3代目・紳さんと3代、130年の長きにわたり受け継がれてきた老舗です。市は、高田の歴史を語る上で欠かせないバテンレースを後世に引き継ぐため、高田地区では初めてとなる地域おこし協力隊を旧今井染物屋に配置し、バテンレースや地域文化の継承と発信を行う取り組みを進めます。

 小さい頃から間近で見てきて、仕事場が遊び場だったという吉田代表は「先祖から受け継いだバテンレース作りの経験と技術を若い方にも教えながら、協力し合い継承に努めていきたい。例えば藍染め使いのバテンレースなど、上越ならではの商品を考案していきたい」と、開館にあたり思いを表しています。

吉田バテンレースの吉田さん(左)と高木さん、ブレード織機を動態展示

 地元大町5の松倉康雄町内会長(72)は「当大町5丁目は、バテンレースを高田の産業として発展させた有沢製作所の発祥の地。100年ぶりにバテンレースが帰ってきてくれ、ありがたい気持ち。旧師団長官舎、ニ・七の市、四・九の市、高田世界館、高田小町、瞽女ミュージアム高田と合わせ、たくさんの方々に回遊していただきたい」と、地域の活性化や交流促進を期待しています。

正面の外観
バテンレースの常設工房と手仕事作家らによる実演

■旧今井染物屋 施設概要
 旧今井染物屋は内部が見学でき、まち歩きの拠点にも使われるとともに、バテンレースの常設工房をはじめ、草木染めや竹細工、家具、イラスト等の職人や作家らによる手仕事の実演を見たり、制作体験もできます。
 館内は、江戸時代から続く町家の趣を残しながら、作業場等は手仕事の作業がしやすいように改修されました。作業場は白色系の照明やエアコンを施し、板倉小学校の開校に伴い使われなくなった旧針小学校(板倉区)の図工机を活用しています。
 チャノマは高い吹き抜け空間を残し、奥の土間や土蔵などはかつての染物業の営みや昔懐かしい暮らしの雰囲気を感じられます。
 機械室はブレード織機を動態展示。2種類の糸をねじり合わせ、糊付けした織り糸を織機で織り上げ、製品となります。現在も吉田バテンレースで使われているそうです。
住所
上越市大町5-5-7
開館時間
10:00~17:00
休館日
月曜日(休日の場合はその翌日)、休日の翌日、年末年始\(12月29日~1月3日
入館料
無料(体験は実費負担あり)
占用利用
工房として6室の利用が可能、無料。
問い合わせ
旧今井染物屋(☎025-520-9788)
市文化振興課(☎025-526-6903)

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