【東京五輪】「アスリートファースト」いまや禁句 JOC幹部「使うと反感」

気付けばNGワードに…

東京五輪の強行開催の姿勢を崩さない国際オリンピック委員会(IOC)、大会組織委員会、日本オリンピック委員会(JOC)、政府らに対し、世論の「反五輪」ムードは日々加速している。

そんな中、五輪関係者からめっきり聞かれなくなったのが「アスリートファースト」という言葉だ。リオ五輪が開催された2016年には流行語大賞にもノミネートされ、五輪関係者は事あるごとに「選手第一」を旗印に掲げてきた。しかし、新型コロナウイルス禍で事態は一変。国民が自粛生活を強いられ医療体制がひっ迫する中、五輪だけは是が非でも成功させようとするIOCや政府の姿勢に批判が集まり、その矛先がなぜかアスリートに向き始めた。

むろん、選手に全く非はない。だが、五輪への不信感が募る中、代表選手団のワクチン接種優先や選手村への酒類持ち込み容認なども「なぜアスリートは特別待遇なのか?」と攻撃の的となった。先日は群馬・太田市でキャンプを行うオーストラリアのソフトボール選手団に対し、同市の清水聖義市長(79)が「市民が買い物に来る前に済ませるやり方がある」と発言。すぐに「選手を特別扱いするな!」との批判が飛び交った。

一部の五輪中止派がSNSで競泳・池江璃花子(20=ルネサンス)に「辞退して」と強要し、池江が「私に反対の声を求めても、私は何も変えることができません」と心情を吐露したこともある。

このように反五輪ムードの〝玉突き事故〟のような形で選手に対する世間の目が変化。同時に「アスリートファースト」は完全に死語になってしまった。あるJOC幹部は「アスリートファーストと発言するだけで世間から叩かれる」「反感を買うから使わないようにしている」と打ち明ける。

現在、ネットで「アスリートファースト」と検索すると、関連ワードに「違和感」「嫌い」「おかしい」などが出てくる状況。実際、組織委の橋本聖子会長(56)、IOCの山下泰裕会長(64)らはアスリートファーストに代わって「安心安全」「コロナに打ち勝って」というフレーズを頻繁に使うようになった。

以前、JOCの山口香理事(56)はインタビュー取材に「聞こえがいい言葉だからよく使われますが、都合のいい時だけアスリートファーストって言うのは偽善だと思う」と話していた。リオ五輪開会式では選手の前で入場行進した役員に対し「アスリートファーストを!」との声が噴出したが、あれから5年、その役員たちの言動によってアスリートが苦境に立たされるとは何とも皮肉だ。

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